成人期における先天性心疾患患者の死亡実態が明らかに
-全国的なデータをもとに終末期医療への議論の必要性を示唆-
本研究成果は、「Circulation Journal」オンライン版に先行公開されました。(日本時間2023年12月9日)
研究成果のポイント
・調査対象期間である2013年度から2017年度にかけて、成人先天性心疾患患者の入院数は倍増してお
り、死亡数も増加している。
・疾患が複雑で重症な成人先天性心疾患患者は死亡年齢の中央値が39歳と若く、死亡するまでに侵襲的
な治 療を受け、多くが入院後1ヵ月以上経過してから死亡している。
・成人先天性心疾患患者では、特に疾患が複雑な場合に、一般の(後天的な)心疾患患者と比べて、よ
り若年で終末期医療について議論する必要性が示唆された。
研究背景
生まれつきの心臓病である先天性心疾患は、代表的な小児期発症疾患で、国内では年間約1万人の出生が報告されています。近年では、治療成績の向上により患者の9割以上が成人期を迎えるようになり、国内の成人期に達した心臓病の先天性心疾患患者数は50-55万人と推定されています。患者数増加に伴い、死亡例も増加していると考えられてきましたが、これまで全国規模の実態把握はなされていませんでした。
図 1 疾患複雑度ごとの死亡年齢
図 2 死亡した入院で受けた治療
JROAD-DPCは全国約1,200の急性期病院*2 が参加する、国内最大の循環器疾患関連データベースです。我々はこのデータベースの中から、2013年度から2017年度のデータを用いて、15歳以上の成人先天性心疾患患者を抽出しました。さらに、海外のガイドラインに沿って、重症度を、疾患の複雑さに応じて「複雑」「中等症」「単純」の3つに分類しました。
分析の結果、成人先天性心疾患を持つ入院患者数は2013年度から2017年度にかけて、3,502人から7,230人に倍増していることが示されました。この数字は上記5年間で入院した方の数であり、同じ方が複数回入院をしていた場合は数に含めていません。複数回入院を含めた場合の延べ人数はさらに多く、成人先天性心疾患患者数の劇的な増加が示されました。
5年間に死亡した853名の方を対象とした分析では、疾患が「複雑」である重症例で死亡年齢の中央値は39歳と若く(図1)、死亡した入院において侵襲的治療(院内心肺蘇生、経皮的心肺補助装置・人工呼吸器装着など)を受ける傾向にあることが示されました(図2)。また、重症例では約3人に1人が、入院後1ヵ月以上経過してから死亡していました。
今後の展開
疾患が「複雑」な重症例は若くして亡くなり、長い入院期間の中で侵襲的な治療を受ける傾向にあることが全国的なデータからはじめて示されました。本研究結果から、成人先天性心疾患患者では、特に疾患が複雑な場合に、一般の(後天的な)心疾患患者と比べて、より若年で終末期医療について議論する必要性が示唆されました。
今後は、終末期医療の選択肢に関する話し合いの実施状況に関する実態調査や、話し合いの方法に関する指針作成などが必要と考えています。
研究費
本研究は、横浜市立大学第5期戦略的研究推進事業 研究開発プロジェクト「エビデンスの乏しい難治性循環器疾患の終末期医療とAdvance Care Planningに関する疫学的研究」(研究代表者 落合亮太)の支援を受けて実施されました。
論文情報
タイトル:In-Hospital Death and End-of-Life Status Among Patients With Adult Congenital Heart Disease ― A Retrospective Study Using the JROAD-DPC Database in Japan ―
著者:Naomi Akiyama, Ryota Ochiai, Manabu Nitta, Sayuri Shimizu, Makoto Kaneko,
Ayako Kuraoka, Michikazu Nakai, Yoko Sumita, Tomoko Ishizu
掲載雑誌:Circulation Journal
DOI:https://doi.org/10.1253/circj.CJ-23-0537
用語説明
*1 JROAD-DPCデータベース:日本循環器学会が主導して実施する循環器疾患診療実態調査(The Japanese Registry Of All cardiac and vascular Diseases: JROAD)で得られたデータと、診断群分類包括評価(Diagnosis Procedure Combination: DPC)データを統合したデータベース。全国の循環器専門医研修施設・研修関連施設の登録率は100%となっている。
*2 急性期病院:緊急・重症な状態にある患者に対し、高度で専門的な医療を提供可能な病院のこと。
参考文献
- Shiina Y, Toyoda T, Kawasoe Y, Tateno S, Shirai T, Wakisaka Y, et al. Prevalence of adult patients with congenital heart disease in Japan. Int J Cardiol 2011; 146: 13–16, doi:https://doi.org/10.1016/j.ijcard.2009.05.032
- Diller GP, Kempny A, Alonso-Gonzalez R, Swan L, Uebing A, Li W, et al. Survival prospects and circumstances of death in contemporary adult congenital heart disease patients under follow-up at a large tertiary centre. Circulation 2015; 132: 2118–2125, doi:https://doi.org/10.1161/CIRCULATIONAHA.115.017202
- Steiner JM, Stout K, Soine L, Kirkpatrick JN, Curtis JR. Perspectives on advance care planning and palliative care among adults with congenital heart disease. Congenit Heart Dis 2019; 14: 403–409, doi:https://doi.org/10.1111/chd.12735
- Nitta M, Shimizu S, Kaneko M, Fushimi K, Ueda S. Outcomes of women with congenital heart disease admitted to acute-care hospitals for delivery in Japan: A retrospective cohort study using nationwide Japanese diagnosis procedure combination database. BMC Cardiovasc Disord 2021; 21: 409, doi:https://doi.org/10.1186/s12872-021-02222-z
- Nakai M, Iwanaga Y, Sumita Y, Kanaoka K, Kawakami R, Ishii M, et al. Validation of acute myocardial infarction and heart failure diagnoses in hospitalized patients with the nationwide claim-based JROAD-DPC database. Circ Rep 2021; 3: 131–136, doi:https://doi.org/10.1253/circrep.CR-21-0004
- Kuraoka A, Ishizu T, Nakai M, Sumita Y, Kawamatsu N, Machino-Ohtsuka T, et al. Trends in unplanned admissions of patients with adult congenital heart disease based on the Japanese Registry of All Cardiac and Vascular Diseases-Diagnosis Procedure Combination Study. Circulation Journal, advpub, Article Cj-23-0015. https://doi.org/10.1253/circj.CJ-23-0015