京都大学大学院・デロイト トーマツ・渥美坂井法律事務所プロトタイプ政策研究所が対話型AIの共同研究開発を開始
京都大学大学院法学研究科の稲谷教授のように振舞う対話型AIであるデジタルヒューマンの開発および学生、若手専門家の指導・育成や法律相談への活用についての研究を開始
国立大学法人京都大学(京都府京都市、総長:湊 長博、以下「京都大学」)、デロイト トーマツ グループ(東京都千代田区、グループCEO:木村研一、以下「デロイト トーマツ」)と渥美坂井法律事務所・外国法共同事業(東京都千代田区、代表社員弁護士:渥美博夫、以下「渥美坂井法律事務所」)プロトタイプ政策研究所は、大規模言語モデル(LLM)を活用した対話型AIの研究開発を共同で開始します。具体的には、特定の人物の著書や思考法を学習させ、その人物のように振舞うデジタルヒューマンの教育、OJT、法律相談等の現場での活用とリスクの研究を行います。開発にあたっては京都大学大学院法学研究科の稲谷教授の授業の講義録や論文等の知識情報を収集し、大規模言語モデル(LLM)モデルにその知識を反映させることで、稲谷教授本人のように振舞う対話型AIであるデジタルヒューマン、すわなち「デジタルINATANI」の実現を目指します。本研究開発において、主に京都大学大学院は、論文や講義録といったデータ、実験の場の提供やプロジェクト全般の運営・各種調整を実施し、デロイト トーマツは対話型AIモデルの実装、性能評価、リスクチェーンモデルを用いた教育の現場における対話型AI利活用に伴うリスクおよび対策の検討を行います。また、渥美坂井法律事務所は、法律面での観点からサポートや、AIモデルの質的評価を行います。
教育現場における対話型AIの実証実験を通して、デジタルINATANIが稲谷教授の知を再現できているかと言う検証に限らず、稲谷教授以外の専門家の再現についても研究し、学生や若手弁護士を含めた法務分野等の専門家が対話型AIを信頼して適切に利用するためのリスク対策についても検討し、企業、法律事務所の法務・リスク管理分野の業務への応用実験も実施する予定です。この研究開発を通じて、特定の専門家個人の知識をAIに反映させることにより、専門家の負担軽減を行うだけではなく、多くの人が専門家の知識を獲得する機会の拡大が期待されます。
大規模言語モデル(LLM)の登場で教育や専門的な業務領域の在り方が大きく変化し、どのように個々のニーズに合致した信頼性の高いAIを開発するかについて疑問が投げかけられています。また、現在普及しているオープンなAIサービスにおいては公開情報から一般的な解を導き出す事ができるものの、より個別具体のトピックに対する答えを非公開情報も参考にして導き出すには限界やリスクがあるという側面もあります。
そうした中で法学という専門的な領域の中で特定の人物の講義録や論文などの非公開情報を学習した対話型AIを開発することで、より個別具体な「学生の指導」や「法律相談」というトピックに対しても最適な解を導き出すことを本共同研究開発の目的としています。こうした研究開発の先には時間的・経済的な制約にとらわれない教育や法律サービスの実現を見据えています。
開発した対話型AIについては京都大学法学部および大学院法学研究科の学生の方の協力のもと、その有効性を検証します。まず開発した対話型AIを用いて法学研究科の学生と対話を実施し、対話相手をランダムに稲谷教授本人と対話型AIに切り替え、学生がどちらからの発話であると認識するかについてテストを実施します。さらに対話相手の各発言に対して「信頼(納得)できる内容かどうか」、「自身の勉強(成長)につながる発言かどうか」を評価することでモデルの有効性を検証し性能の改善を行います。
また、開発した対話型AIは学生だけではなく、渥美坂井法律事務所プロトタイプ政策研究所の所属弁護士および外部有識者等の法律等の専門家による検証も行い法務、リスク管理業務における妥当性についても検証を行います。主な評価項目として「選択する言葉の正確性」「説明のロジカルさ」「参照する情報の正確性」などを用いて法務・リスク管理分野の業務などへの応用がどの程度可能かについても有効性を検証し、性能の改善を行います*。なお、本研究におけるリスクのコントロールについてはリスクチェーンモデルと呼ばれる検討モデルを用いて、本サービスで起こりうるリスクのシナリオを学生を含む複数のステークホルダーとともに包括的に検討を行います。
* 弁護士法72条の範囲内での利用を前提
京都大学法学研究科 稲谷龍彦教授について
本研究に参画する京都大学法学研究科の稲谷龍彦教授は、法務博士(京都大学)であり専門は刑事学で、グローバル化する企業犯罪や科学技術と法規制のあり方について研究しています。今回の研究では、稲谷教授自身のように振舞う対話型AI(デジタルヒューマン)の研究開発・活用にむけて、自身の論文や講義録などの既存の大規模言語モデル(LLM)が学習していない非公開データを提供しています。
デロイト トーマツ グループについて
デロイト トーマツ グループは、日本で最大級のプロフェッショナルグループのひとつであり、監査・保証業務、リスクアドバイザリー、コンサルティング、ファイナンシャルアドバイザリー、税務、法務等を提供しています。本研究では、AIに関する研究組織であるDeloitte AI Instituteの知見を活用し、AI開発およびリスクの検討・対策を支援します。
渥美坂井法律事務所プロトタイプ政策研究所について
プロトタイプ政策研究所は、渥美坂井法律事務所・外国法共同事業に所属する落合孝文弁護士を所長とし、同事務所に所属する弁護士のほか、様々な企業・団体・公的機関等における経験を有する有識者の方々が参画し、政策・制度・実務に関して、ユーザー側の視点を踏まえて、公的機関・民間の双方が取り組めていない我が国の政策と実務の架け橋を作ること及び検討課題とされるべき研究成果や提言の発信を行うことを目的とする研究所です。