玉川大学量子情報科学研究所(所長:相馬正宜)の中平健治教授が、電磁波や重力波などによって運ばれる微弱な信号が突然変化したときのタイミングを特定する問題を扱い、ある一般的な場合において量子的な限界性能を解析的に求めることに成功しました。本成果は、恒星の爆発、異物の侵入、特定の化学結合や相転移などのイベントが発生したタイミングを検出するといった応用が期待されます。この成果は、2023年11月22日に米国物理学会(APS)の発行するフィジカル・レビュー・レターズ誌(Physical Review Letters)に掲載されました。
■雑誌名
Physical Review Letters (2023年11月22日)
■論文タイトル
Identification of quantum change points for Hamiltonians
■著者
Kenji Nakahira
■URL
https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.131.210804
【研究の背景】
環境が突然変化したときにそのタイミングを正確に知ることは、さまざまな分野における重要な課題です。本研究では、環境に関する情報が電磁波や重力波などによって運ばれるような場合を想定して、環境の突然の変化を検出することを主な焦点としています。変化点を示す信号が微弱な場合、高感度な検出のためには量子力学的な識別を駆使することが重要です。今回、変化前後の信号を表す時間発展の仕方(つまりハミルトニアンとよばれる演算子)が既知であると仮定して、変化点を正確に特定することをめざしました。
近年、より簡単な問題として、ハミルトニアンではなく量子状態が突然変化するタイミングを識別する問題が扱われ、その限界性能(最大正解率)がとり得る範囲が解析的に示されました。この問題に比べて、ハミルトニアンの変化点を識別する問題では最適化すべきパラメータの数が圧倒的に多くなるため、限界性能を求めることはかなり困難と考えられます。
本研究では、系のハミルトニアンがH₀からH₁に切り替わる時刻t*を識別する問題を扱います(図1を参照)。H₀とH₁は任意であり(時間依存していてもよく)、変化点t*の候補が有限個であると仮定して、各候補に関する事前確率は等しいものとします。このとき、t*を識別するための操作として、量子力学的に許されるあらゆる操作を行えると仮定します。たとえば、系に入力する粒子の状態を自由に制御でき、外部から電磁波などを照射したり、途中で系の中の粒子を別の粒子に変えたりすることも自由に行えるものとします。求めたい限界性能とは、これらのあらゆる操作を考えたときの識別正解率の最大値のことです。
【研究成果】
今回、上記の問題設定において、変化点の候補の個数によらず限界性能の解析解を得ることに成功しました。量子状態の変化点を識別する問題でさえ限界性能がとり得る範囲しか求められていなかったのに対し、ハミルトニアンの変化点を識別する問題において厳密な値を求められたことは特筆すべきことです。
▼本件に関する問い合わせ先
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【リリース発信元】 大学プレスセンター
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