光1波長あたり1.2Tbpsでの世界最長336km伝送と世界最大容量1Tbps超のデータ転送のフィールド実証に成功 ~先端科学技術研究の促進に不可欠な高速大容量学術通信ネットワークの実現に貢献~

日本電信電話株式会社

 大学共同利用機関法人情報・システム研究機構 国立情報学研究所※1(以下NII)、日本電信電話株式会社※2(以下NTT)、東日本電信電話株式会社※3(以下NTT東日本)と富士通株式会社※4(以下富士通)は、光1波長あたり1.2Tbpsでの伝送では世界最長となる伝送環境を構築し、フルスループット(伝送環境で送受信可能な最大データ量)での伝送と、1組の汎用1ソケットサーバを用いた世界最大速度の1Tbps超データ転送を2023年10月17日に成功しました。
 本実験は、NTT東日本の敷設済み商用光ファイバ、NTTが開発したデジタル信号処理技術およびデバイス、富士通製の次世代光伝送システム「1FINITY Ultra Optical System」、およびNIIが開発したファイル転送プロトコル「MMCFTP※5」(Massively Multi-Connection File Transfer Protocol)を用いて実施いたしました。本成果は学術通信ネットワークをはじめとする様々な高速大容量通信サービスの実現を可能とし、低コスト化や低消費電力化にも寄与するもので、今後各組織はこの成果を活用した学術通信ネットワークの更なる高度化やIOWN構想の実現に向けた研究開発を推進します。

【背景】
 現在、5Gサービス、ビッグデータ、AI、クラウドコンピューティング等の発展に伴い通信トラヒックが急増する中、通信ネットワークの更なる高速化および大容量化が求められています。
 実例として、NIIでは全都道府県を400Gbps回線(沖縄は100G回線×2)で、日米間を200Gbps回線で結ぶ学術情報ネットワークSINET6※6を2022年4月から運用していますが、大学や研究機関等のアクセス回線の高速化(現時点で15の400Gbps回線、88の100Gbps回線、884の10Gbps回線等)とともに400Gbpsに迫るデータ転送が活発になされるなど需要が急増しており、400Gbps超に向けた更なる大容量化が望まれています。
 一方、NTTはIOWN (Innovative Optical and Wireless Network)構想※7における APN (All-Photonics Network)の実現を2030年頃に目指しています。APNではフォトニクス(光)ベースの技術を導入し、現在のエレクトロニクス(電子)ベースの技術では困難である圧倒的な低消費電力、高品質・大容量、低遅延の伝送を実現し、伝送容量として「125倍に」という目標性能を掲げています。
これらの実現に向けて、NIIでは大容量回線を最大限に利用する高スループットファイル転送技術について取り組んでいます。また、NTTおよび富士通では、光1波長あたり世界最大容量となる1.2Tbpsの光伝送を実現するデジタルコヒーレント信号処理回路や光電融合デバイスの開発、および光伝送システムの開発を実施しています。 
 本実験では、各組織での技術開発成果を集結させ、光1波長あたり1.2Tbpsでの世界最長伝送とこの回線を用いたデータ転送を実証しました。

【実証実験の概要】
 各組織は、2023年10月に、東京都と神奈川県の間に光1波長あたり1.2Tbpsの伝送が可能な光伝送ネットワーク環境を構築し、2種類の実験を行いました。

1.実験1
 東京都千代田区を起点として神奈川県横浜市で光ファイバを折り返すネットワークを構成し、光1波長あたり1.2Tbpsの伝送が可能であることを確認しました(図1)。1.2Tbps信号のフルスループットは実験用テスターで確認しました。光1波長あたり1.2Tbpsの光信号を、敷設済みの商用光ファイバを用いて336km 伝送できたことは、世界初となります。この実験にあたっての各組織の役割は下記の通りです。

NTT:世界最先端のデジタル信号処理技術、ならびに最大400GbE(ギガビットイーサ)を3本多重可能なOTUCn技術※8を実装したチップ、および世界最大級の光-電気応答帯域を持つ光デバイスを開発(図2)
富士通:NTTがリードし富士通などとともに開発したチップを活用し、150Gbaudで光1波長あたり1.2Tbpsの伝送レートを実現可能なトランスポンダ※9を開発
NTT東日本:敷設済みの商用光ファイバを用いた実験用の光ネットワークを構築

2.実験2
 1.2Tbps伝送環境下にて、1組の汎用1ソケットサーバを用いNIIが開発したMMCFTPによるデータ転送を行いました(図3)。実験の結果、1034Gbpsのデータ転送速度で約47TByteの大容量データを転送完了させることに成功しました。1034Gbpsのデータ転送速度では一般的な25GByteの ブルーレイディスク1枚を約0.2秒で転送できます。47TByteの大容量データはブルーレイディスク1,880枚分に相当し、約376秒で転送することができます。

 なお、本実験の一部は、総務省委託研究「新たな社会インフラを担う革新的光ネットワーク技術の研究開発 課題Ⅰ」、「グリーン社会に資する先端光伝送技術の研究開発 課題Ⅰ」(JPMI00316)およびNICTの委託研究「Beyond 5G超高速・大容量ネットワークを実現する帯域拡張光ノード技術の研究開発(課題番号045)」により得られたデジタルコヒーレント光伝送技術、また国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業(JPNP20017)(b1)ポスト5G情報通信システムにおけるテラビット光伝送システムの研究開発、および (b2) テラビット級光伝送用DSP実装基盤技術の研究開発」によって得られた技術の一部を利用しています。

【今後の取り組み】
 NIIは、世界最高性能のネットワーク基盤SINETの整備により全国の日本の研究教育の発展を支えており、今後も超高速・大容量性と低遅延性の両特長を追求していく予定です。また、データ流通を効率的に行うためにMMCFTPをSINET利用者に幅広く提供し、その実用性を高めていく予定です。
 NTTは、この成果を活用した大容量光伝送システムの開発により、圧倒的な低消費電力、大容量、低遅延伝送を可能とするIOWN APNの更なる高度化を目指します。
 NTT東日本は、大容量光伝送システムを用いた高速大容量通信サービスの実現を目指し、検討を進めてまいります。
 富士通は、本実証実験で得られた効果を基に、光伝送システムの大容量化や低消費電力化を実現する技術開発を継続し、お客様やパートナの皆様とともに、持続可能な社会の実現に貢献してまいります。
 
《図1》実証実験ネットワークの構成

 
《図2》世界最先端のデジタル信号処理技術、OTUCn技術、光デバイスの実装イメージ
 
《図3》データ転送実験

【用語解説】
(※1)情報・システム研究機構 国立情報学研究所:所長 黒橋 禎夫、東京都千代田区

(※2)日本電信電話株式会社:代表取締役社長 島田 明、東京都千代田区

(※3)東日本電信電話株式会社:代表取締役社長 澁谷 直樹、東京都新宿区

(※4)富士通株式会社:代表取締役社長 時田 隆仁、東京都港区

(※5)「MMCFTP」:ビッグデータを転送する際は同時に多くのTCPコネクションを使用することが特徴。MMCFTPは遅延の大きさやパケットロス率などのネットワークの状況に応じてTCPコネクション数を動的に調整することで、安定した超高速データ転送を実現するファイル転送プロトコル。マルチパス転送(複数の経路を同時に使って一つのデータ(ファイル)を転送する)に対応しており、本実験では12パス同時転送を行った。

(※6)SINET6:大型実験施設等の共同利用、各研究分野での連携力強化、世界各国との国際連携、学術情報の発信やビッグデータの共有、大学教育の質的向上、地方創生や地方大学の知識集約型拠点化・産学連携等のための学術専用のネットワーク。全都道府県にノード(ネットワークの接続拠点)を設置して400Gbps回線(沖縄は2本の100G回線)で結び、1000以上の大学、研究機関等に対してサービスを提供している。

(※7)IOWN構想: あらゆる情報を基に個と全体との最適化を図り、多様性を受容できる豊かな社会を創るため、光を中心とした革新的技術を活用し、これまでのインフラの限界を超えた高速大容量通信ならびに膨大な計算リソース等を提供可能な、端末を含むネットワーク・情報処理基盤の構想。
https://www.rd.ntt/iown/

(※8)OTUCn技術:100Gbps超のサービス(超高速イーサネット信号等)を収容し、光ネットワーク上を高信頼にデータ伝送する技術。

(※9)トランスポンダ:光信号を送信、受信する機能を有する装置。

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