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トヨタグループの研究開発会社である豊田中央研究所(愛知県長久手市)で機能薄膜研究室長や理事、顧問を務めた中部大学の多賀康訓特定教授は、このほどガラスやプラスチックの窓に貼り付けることで熱の侵入と放出を大幅に抑えることができる透明フィルムを開発した。1年を通してエアコンの消費エネルギーを約20%減らせるとみている。
今後、自動車関連メーカーと共同で実用化を目指す。
1.研究成果のポイント
・窓に貼り熱の流出入を減らせるセリア(酸化セリウム:CeO2)/銀フィルムを開発した。
・夏と冬に室内温度を保つためのエアコンの消費エネルギーが約20%減ることを確認した。
・家庭やオフィス、自動車の窓に貼り付ける用途で企業と事業化を目指す。
2.発表概要
今年の夏は以前に増して猛暑日が続き、エアコンの普及率が低い地域でも、初めてエアコンを設置する家庭が増えているという。建物に限らず自動車の車内でも常時エアコンを使用しないと耐えられない。その結果、エアコンの消費エネルギーはますます増加し、同時に外気温度の上昇という悪循環につながっている。室外から室内や車内への熱の流入を減らせば、エアコンの消費エネルギーと外気への熱放出も抑えることができる。
トヨタグループの研究開発会社である豊田中央研究所(愛知県長久手市)で機能薄膜研究室長や理事、顧問を務めた中部大学の多賀康訓特定教授は、このほどガラスやプラスチックの窓に貼り付けることで熱の侵入と放出を大幅に抑えることができる透明フィルムを開発した。1年を通してエアコンの消費エネルギーを約20%減らせるとみている。今後、自動車関連メーカーと共同で実用化を目指す。
開発したのは厚さ約10ナノ(ナノは10億分の1)メートルの銀膜と厚さ約30ナノメートルのセリア(酸化セリウム:CeO2)膜を貼り合わせた透明なフィルム。ガラスやプラスチックの表面に貼り付けると保熱と遮熱の効果がある。銀は熱を吸収しにくく結果として放出しにくい性質を持つ。セリアは銀を保護する。両者を貼り合わせたフィルムの厚さは約40ナノメートルで、可視光の波長400ナノ~800ナノメートルより薄いため、可視光をほとんど透過して室内の明るさに影響しない。約5%延伸してもクラックは発生せず、曲面に貼り付けても膜質を保つことができる。
厚さ3ミリメートルの透明プラスチックのポリカーボネート(PC)を窓として用いて外気温度50度、室内温度25度に設定した夏場を想定した実験では、窓にフィルムを貼ると窓の表面から室内に放射される(流入する)熱の温度を49度から26度に低下できることを確認。冷房の消費電力を約20%削減できるという。逆に室内温度を25度、室外温度を6度の冬場を想定した実験では、窓の表面から室外に放射される(流出する)熱の温度を14度から7.8度に低下し、暖房の消費電力を冷房と同様に約20%減らせることがわかった。年間を通して冷暖房の消費電力を約20%減らせることを実験と計算の両方で確認した。
今回開発したフィルムに関する特許は2022年9月に出願した。自動車関連メーカーと事業化を目指す。価格はフィルム代とガラスやプラスチックへの貼り付け作業費を含めて1平方メートル当たり1万円程度と見積もっている。住宅やオフィス、自動車関連での需要に期待している。
多賀特定教授は今回の研究と同時並行した2019年度~22年度の4年間、科学技術振興機構(JST)のプロジェクトA-STEP「産学共同フェーズ(シーズ育成タイプ)」で、「ガラス代替を可能にする透明樹脂フィルムのロール/ロールスパッタ生産技術開発」をテーマに自動車やビルの窓を大幅に軽くできる薄膜材料をリケンテクノスと共同開発した。
https://www.jst.go.jp/a-step/kadai/2019-seeds_i.html
この材料はセリアを混合したフッ素樹脂ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のフィルム。透明なプラスチックに貼り付けると、窓の重さを10分の1レベルにしてもガラス並みの強度を保つことができる。このセリア・PTFEフィルムと今回開発したセリア/銀フィルムを用いると、これまでより桁違いに軽く熱制御によって20%省エネにできるプラスチックの窓が普及することを期待している。
3.お問い合わせ先
(研究に関すること)
中部大学 特定教授 多賀 康訓
メール: y-taga@isc.chubu.ac.jp
電話 0568-51-9819
▼本件に関する問い合わせ先
中部大学 学園広報部広報課
TEL:0568-51-7638
メール:cuinfo@office.chubu.ac.jp
【リリース発信元】 大学プレスセンター
https://www.u-presscenter.jp/