原発性アルドステロン症に対する薬物療法治療後の“レニン抑制解除”が良好な長期腎機能と関連
研究成果のポイント
- 薬物療法を行う原発性アルドステロン症では、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬投与6ヶ月以降のレニン抑制が解除されているとその後の長期腎機能が良好であることが判明(図1)。
研究背景
研究内容
本研究では、2008年から2020年にかけて横浜労災病院の内分泌・糖尿病センターに入院した原発性アルドステロン症患者のうち、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬による薬物療法を開始した318名を解析しました。薬物療法を開始して半年以降に最初に測定されたPRA(post-PRAと定義)が 1.0 ng/ml/h以上であった人達をレニン抑制解除群、post-PRA が1.0 ng/ml/h未満の人達をレニン抑制残存群と定義しました。それらの2群間でpost-PRA測定後の推定糸球体濾過量(eGFR: estimated glomerular filtration rate [mL/min/1.73 m2])の低下速度を交絡因子で調整した線形混合効果モデルを用いて比較・推定しました。
解析対象者のうち、119人がレニン抑制解除群、199人がレニン抑制残存群に分類され、追跡期間は中央値で3.1年でした。レニン抑制解除群(post-PRA ≥1.0 ng/ml/h)ではeGFRが年間平均0.46 mL/min/1.73 m2低下、一方でレニン抑制残存群(post-PRA <1.0 ng/ml/h)では年間平均1.41 mL/min/1.73 m2低下し、レニン抑制解除群はレニン抑制残存群に比べeGFRの低下速度が年間で0.96 mL/min/1.73 m2遅い、という結果が得られました。つまり、レニン抑制残存群に比べ、レニン抑制解除群では腎機能がより良好に保たれていました(図1)。
今後の展開
本研究結果から、原発性アルドステロン症に対する薬物療法戦略において、十分量のミネラルコルチコイド受容体拮抗薬を投与してレニン抑制を解除することが腎機能保護の観点からも有用である可能性が示唆されました。これは現行の日本内分泌学会の診療ガイドラインで推奨されている薬物療法戦略を支持するものであり、推奨の根拠となるエビデンスを強化することができました。一方で、本研究は単一施設の後ろ向きの研究であるため、同分野のエビデンスをより確固たるものとするために、今後は多施設の前向き研究や本研究結果のメカニズムを解明するようなさらなる研究が必要です。
研究費
本研究は、科学研究費助成事業科研費(21K10500)の支援を受けて実施されました。
論文情報
タイトル: Association of Reversal of Renin Suppression With Long-Term Renal Outcome in Medically Treated Primary Aldosteronism
著者: Sho Katsuragawa, Atsushi Goto, Satoru Shinoda, Kosuke Inoue, Kazuki Nakai, Jun Saito, Tetsuo Nishikawa and Yuya Tsurutani
掲載雑誌: Hypertension
DOI:http://doi.org/10.1161/HYPERTENSIONAHA.123.21096
用語説明
*1 二次性高血圧症:ホルモンの過剰分泌や腎血管の狭窄など特定の原因によって引き起こされる高血圧症。二次性高血圧症の原因として最多の原発性アルドステロン症は、高血圧患者の5~10%を占めると言われている。
*2 レニン抑制:レニンは体内の水分量調整に関わる重要なホルモンであり、脱水や低血圧の際に腎臓から分泌され、レニンはさらに副腎からのアルドステロン分泌を促進する。原発性アルドステロン症では、アルドステロンが副腎や副腎腫瘍から自律的に、レニンとは独立して過剰に分泌され、その結果、レニンの分泌は抑制され、それの状態をレニン抑制状態と言う。
*3 本態性高血圧症:加齢、肥満、生活習慣、遺伝素因など様々な要素が複合的に影響して引き起こされる一般的な高血圧症。高血圧症患者の多くは本態性高血圧症に分類される。