医療における「へき地」の度合いを表す尺度を開発

横浜市立大学

「へき地度」が高い地域は医師が少ない傾向

 横浜市立大学大学院データサイエンス研究科 ヘルスデータサイエンス専攻の金子 惇 准教授らの研究グループは、日本の医療における「へき地度」を表す尺度Rurality Index for Japan (RIJ)を開発しました。 本尺度を用いることで、「へき地*1」の医療の特徴を見える化することができ、「へき地」の課題の解決や魅力の発信に繋がると考えています。
 本研究成果は、BMJ Open誌に掲載されました。(2023年6月19日)

研究成果のポイント
  • 日本において初めて医療に関する1-100までの段階的な「へき地」尺度を開発
  • 「へき地」医療に関わる有識者の方へのアンケートに基づき、人口密度、二次・三次救急病院までの距離、離島、特別豪雪地帯等を、本尺度に必要な項目として選定
  • 本尺度は、郵便番号、市区町村、二次医療圏ごとの「へき地度」を表しており、「へき地度」が高い地域では医師が少ない傾向があった
研究背景
 「へき地」と都市部の健康格差、医療資源の格差は世界的な課題であり、多くの国で研究が行われています。また課題だけでなく、幅広い診療や地域の方との協働など「へき地」医療だからこその魅力も発信されています。その様な「へき地」医療の特徴を見える化するために、諸外国では国や地域ごとに「へき地」の程度を段階的に表す「へき地尺度」が活用されています。わが国では約1,100万人が過疎地域に居住し、過疎地域は国土面積の58%を占めているものの、これまで「へき地尺度」に該当するものがありませんでした。
 「過疎地域」「無医地区」など行政的な区分はありますが、これらは二段階あるいは三段階程度の区分で、実際の「へき地」と都市部のグラデーションを表現するには十分ではありません。そこで、本研究ではこれまでの他国での研究結果及び「へき地」医療に関わる医療者や行政官、住民など有識者の方へのアンケートを元に日本における「へき地」尺度(Rurality Index for Japan: RIJ)を作成しました。

研究内容
 本研究では修正デルファイ法*2という合意形成のための手法を用いました。まずはこれまでの諸外国の研究結果や日本の「へき地」医療のエキスパートの意見を元に16項目を選出しました。その後、「へき地」医療に関わる医療者、行政官、「地域医療を守る会」に参加されている住民など100名の方にアンケートを行い、80%以上の方が「重要である」と見なしたものを選択しました。合計3回のアンケートを行い、最終的には人口密度、直近の二次もしくは三次救急病院までの距離、離島、特別豪雪地帯の4項目が選定されました。これらを組み合わせて1-100の尺度(1が最も都市部、100が最も「へき地」)を作成しました(図1)。
 
図1 RIJ(日本の医療における「へき地度」)に用いられた項目



 RIJは郵便番号、市区町村、二次医療圏ごとに算出でき、既存の指標の一つであり理論的に「へき地度」と相関が強いと考えられる医師偏在指標(二次医療圏ごとの医師の偏在を表す指標)と中程度の負の相関(相関係数-0.45)を認めました(図2)。また、他国で「へき地度」と負の相関が報告されている平均寿命とも負の相関(市区町村ごとの平均寿命:男性で-0.35、女性で-0.12)を認めました。これらの結果より、理論的に相関が強いと思われる概念との関連を見る収束的妥当性(関連があると予想し、その通りの結果であったこと)及び既存の外的指標との関連を見る基準関連妥当性(他の研究結果などで用いられている指標との一致度からみる妥当性)が確認されました(図3)。

 
図2 RIJと医師偏在指標の相関

 
図3 郵便番号、市区町村、二次医療圏、都道府県ごとのRIJ:赤い色が濃い部分がRIJが高い

今後の展開
 本尺度を用いることで、「へき地」と都市部で行われている医療や医療資源の違いを見える化し、改善に繋げていくことが出来ると考えています。また、課題を抽出するだけでなく「へき地」医療のやりがいや魅力を発信していくためのツールとしても利用可能です。
 本尺度の使用を研究目的で希望される方は金子研究室のウェブサイトから申請して頂ければ無償で利用可能です。下記からお問い合わせください。
https://pcru-kanekolab.studio.site/

研究費
 本研究は、日本学術振興会 科研費(20K18847及び18H03030)、横浜市立大学学長裁量事業 第5期戦略的研究推進事業の支援を受けて実施されました。

論文情報
タイトル: Development and validation of a rurality index for health care research in Japan: A modified Delphi study
著者: Makoto Kaneko, Takaaki Ikeda, Machiko Inoue, Kemmyo Sugiyama, Manabu Saito, Ryuichi Ohta, Upul Cooray, Evelyn Vingilis, Thomas Robert Freeman, Maria Mathews
掲載雑誌: BMJ Open
DOI:https://doi.org/10.1136/bmjopen-2022-068800

用語説明
*1 へき地:「へき地」という言葉は医療資源の乏しい郡部を指す言葉として行政文書でも用いられており、英語のruralに対応する言葉として本研究では「へき地」「へき地度」という言葉を用いている。ただ、「へき地」も”rural”もネガティブなニュアンスを含んで用いられる場合もあるものの、他に適切な用語が無いため使用されているという側面もあり、その点を鑑みて、本プレスリリースでは「」付きの「へき地」「へき地度」という表現を用いている。

*2修正デルファイ法:集団での合意形成法の一つ。あるテーマについて専門的な集団に意見を求め、その回答を統計的にまとめた上でその結果を専門家たちに再検討させるプロセスを繰り返し、意見を収斂させる方法。予め決定しておいた合意基準(例:参加者の80%以上が重要と見なす)を満たしたものが採択となる。デルファイ法が検討課題の同定や意見の収集のための質問から始まるのに対し、修正デルファイ法では文献レビューやインタビューなどで作成されたリストから始まる。

 

 

 

 




 

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