APNを活用した新たなエンド・ツー・エンド光映像配信アーキテクチャの基本機能を実証 ~IOWNによる多地点をオンデマンドに結ぶ低遅延なライブ配信の実現に向けて~

日本電信電話株式会社

 日本電信電話株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:島田 明、以下「NTT」)は、IOWN(*1)時代のAPNを活用した次世代の映像配信に向けて、エンド・ツー・エンド光映像配信技術の基本機能を実証しました。APNを活用したエンド・ツー・エンド光映像配信アーキテクチャによって、多地点をオンデマンドに結ぶ低遅延なライブ配信の実現に貢献します。

1.背景
 近年、放送事業者やOTTサービス事業者(*2)による映像、番組制作では、クラウドサービスなどによるリモートプロダクションが広く利用されるようになりました。これにより、映像素材を集約して番組制作を進めることができ、従来のような、全国各地の拠点で番組制作を行うことと比較して、制作作業を効率化することができます。一方で、映像データは4K、8Kと高精細化、大容量化が進んでおり、素材集約のためのネットワークコストや、処理量の増加に伴うクラウドサービスコスト、そして一連のシステムの消費電力についても、さらなる増加が見込まれます。
 このようななか、NTTでは、映像処理を行うGPUなどのリソースを光電融合デバイスでチェイニング(*3)し、光伝送ネットワークと直接接続するエンド・ツー・エンド光映像配信アーキテクチャにより、このような課題の解決をめざしています。

2.APNによるエンド・ツー・エンド光映像配信アーキテクチャ
 エンド・ツー・エンド光映像配信アーキテクチャは、APN上のCPU、GPU、メモリといったリソースを映像処理リソースとして利用します(図1)。これらのリソースは、光電融合デバイスによって相互に光波長で接続されており、映像FDN(*4)コントローラによって、必要な映像処理の規模や内容に応じて、リソースの割り当てやリソース間の接続を制御します。これらの映像処理リソースは、APN装置(APN-G)(*5)と光パスで直接接続され、映像素材の入力から、プレイヤーまでの出力をエンド・ツー・エンドの光パスで結ばれます。これにより、映像データの通信やリソース間の接続を光通信化でき、従来の電気処理を介する映像配信システムと比較して、超低遅延、広帯域、低消費電力化を実現します。さらに、映像FDNコントローラが、サービス事業者の番組編成システムなどと連携し、映像配信の要求に応じて、オンデマンドにネットワークリソースや映像処理リソースを提供します。
 本アーキテクチャの基本機能の要素技術としては、①ネットワーク内映像処理技術、②番組編成に応じた動的素材伝送パス切替技術があります。①ネットワーク内映像処理技術は、APN上に配備された、プログラマブル光映像スイッチ内にあり、映像ブロック単位での処理により、ネットワーク上での映像加工、編集等を可能にする技術です(図2)。本技術では、複数の映像素材に対して、編成情報やユーザからのパーソナライズ要求をもとに、ネットワーク上を流れる通信データを映像ブロック毎に書き換えなどを行います。このように、一般的なスイッチャーなどの映像用装置を用いずに、ネットワーク装置上で映像の切り替えや合成といった映像処理が実行でき、映像データを映像信号やファイル形式に変換せずに、そのまま映像処理が可能となり、低遅延の映像編集、配信機能を実現します。②番組編成に応じた動的素材伝送パス切替技術は、サービス事業者からの編成情報をもとに、必要な映像処理の内容と連携してオンデマンドにネットワークのパス/経路制御、リソース割り当てを行うことで、ネットワークリソースの利用を効率化する技術です。本技術を用いて、多地点間の映像伝送、配信を動的に制御することで、様々な映像を低遅延かつシームレスにつなぐ映像配信を実現します。
 
図1:エンド・ツー・エンド光映像配信アーキテクチャ

 
図2:ネットワーク内映像処理技術の概要

3.リニア映像配信プラットフォームの共同実証
 動的素材伝送パス切替技術について、NHK放送技術研究所(以下「NHK技研」)と共同で、リニア映像(*6)配信プラットフォームの基本機能に一部の成果を実装し、動作実証を行いました。本共同検証において、NTTの動的素材伝送パス切替技術の一部を実装した光パスネットワークと、NHK技研の動画配信基盤技術を組み合わせた検証環境を共同で構築し、リニア映像配信プラットフォームの基本機能の動作実証を実施しました。
 検証では、NTTの動的素材伝送パス切替機能により、放送事業者が作成した番組編成情報に基づいた光パスのオンデマンド予約を可能にしました。これにより、オンデマンドに光パスネットワークの開通、閉塞を制御することで、大容量の高精細な映像素材の伝送において、効率的なネットワークの利用ができることを確認しました。また、NHK技研の動画配信基盤技術により、映像素材に対してフレーム精度によるシームレスな番組切り替え、視聴者の地域情報に応じた、配信する映像の切り替えや天気マークなどの上乗せスーパー機能を適用した配信を実証しました。さらに、ネットワークと動画配信基盤技術の組み合わせにより、カメラからプレイヤーまでのエンド・ツー・エンドの配信を低遅延で実現できることを確認しました。本取り組みについては、2023 年6月1日~6月4日に開催されるNHK技研公開 2023において紹介します(*7)。

4.今後の展開
 NTTでは、APNのさらなる高度化を進めるため、本成果の検証環境、検証結果をベースとして、ネットワーク内で実施可能な映像処理技術を組み合わせるなどの検討を進めるとともに、引き続き、これまでにない新たな映像体験を実現する技術の確立をめざします。

<用語解説>
*1 IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)は、光を中心とした革新的技術を活用した高速大容量通信、膨大な計算リソース等を提供可能な、端末を含むネットワーク・情報処理基盤です。IOWNは主に、ネットワークだけでなく端末処理まで光化する「APN:オールフォトニクスネットワーク」、サイバー空間上でモノやヒト同士の高度かつリアルタイムなインタラクションを可能とする「デジタルツインコンピューティング」、それらを含む様々なICTリソースを効率的に配備する「コグニティブファウンデーション」の3つで構成されます。IOWNにより、通信分野に留まらず、多岐にわたる分野で多彩なサービスと新しい価値を創出し、豊かな社会の実現に貢献していきます。
URL: https://www.rd.ntt/iown/
*2 OTT(Over The Top)サービス事業者は、通信事業者やインターネット・サービス・プロバイダー(ISP)に頼らずに、メッセージ、音声通話、動画配信などのコンテンツやサービスを提供する事業者です。
*3チェイニングは、複数のネットワークリソースや映像処理リソースを数珠つなぎに接続し、必要な処理を、複数の処理装置にまたがって実行する方法になります。
*4 FDN(Function Dedicated Network):FDNは、IOWNが掲げるAPN上で、ICTユーザ体験の飛躍的な向上をめざし、柔軟かつダイナミックな制御を行う機能別専用ネットワークです。
*5  APN-G(APN-Gateway):APN-Gは、APNを構成する装置のひとつで、波長の割り当て制御や集線を行う機能などがあります。
*6 リニア映像配信は、事前に計画された番組表(番組編成)にしたがって、ライブ映像や収録映像を指定された時刻に配信、切り替えを行いながら配信する方法です。
*7 NHK技研公開 2023 公式サイト:https://www.nhk.or.jp/strl/open2023/index.html

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