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東京医科大学(学長:林 由起子/東京都新宿区)医学総合研究所未来医療研究センター実験病理学部門の中村卓郎特任教授らが、公益財団法人がん研究会がん研究所がんエピゲノムプロジェクト 田中美和主任研究員、丸山玲緒プロジェクトリーダーらとの共同研究で、AYA世代(思春期・若年成人)の希少がん「間葉性軟骨肉腫」のモデル化に世界に先駆けて成功し、融合遺伝子HEY1-NCOA2による軟骨細胞分化への干渉機構を明らかにしました。
【概要】
東京医科大学(学長:林 由起子/東京都新宿区)医学総合研究所未来医療研究センター実験病理学部門の中村卓郎特任教授らが、公益財団法人がん研究会がん研究所がんエピゲノムプロジェクト 田中美和主任研究員、丸山玲緒プロジェクトリーダーらとの共同研究で、間葉性軟骨肉腫のモデル化に世界に先駆けて成功し、融合遺伝子HEY1-NCOA2による軟骨細胞分化への干渉機構を明らかにしました。
間葉性軟骨肉腫は、AYA世代(思春期・若年成人)に発生する希少な軟骨性悪性腫瘍で、増殖能力が高く高悪性度の難治性肉腫です。成人型の軟骨肉腫と異なり、胎児〜新生児期の軟骨発生を模倣するような形態を示すことが特徴で、発生機序は謎に包まれていました。今回、原因融合遺伝子HEY1-NCOA2をマウス軟骨前駆細胞に導入したモデルを開発し、単一細胞解析やエピゲノム動態を調べることによって病態を克明に解析しました。HEY1-NCOA2が、軟骨分化に重要とされてきたRUNX2、HEY1、SOX9といった転写因子群の機能を修飾する働きを有し、発がんにおける新しい分子機構が明らかになりました。さらに、ヒストン脱アセチル化酵素阻害薬が間葉性軟骨肉腫の治療に効果があることがわかり、今後の治療に有用な知見を得ることが出来ました。
この研究成果は、2023年5月22日(米国時間)のJCI Insight誌(オンライン版)に掲載されました。
【本研究のポイント】
●HEY1-NCOA2遺伝子をマウス新生児の軟骨前駆細胞に発現させると、ヒト間葉性軟骨肉腫が再現された。
●マウス間葉性軟骨肉腫は、未分化間葉性細胞と硝子軟骨から形成され、単一細胞レベルでの遺伝子発現解析により、細胞分化の系譜と対応する遺伝子発現が明らかとなった。
●HEY1-NCOA2はスーパーエンハンサーを含むアクティブエンハンサーに結合し、野生型HEY1の発現を亢進させて、未分化細胞の増殖の維持に寄与した。
●HEY1-NCOA2はRUNXファミリー転写因子と結合し、RUNX2により制御される軟骨分化プログラムを改変した。
●ヒストン脱アセチル化酵素阻害薬パノビノスタットの投与によりマウス間葉性軟骨肉腫の顕著な増殖阻害が達成された。
【研究の背景】
骨軟部肉腫はがん全体の1%程度を占める希少がんですが、さらに50以上の異なる性質の腫瘍に細分化されることから、個々の肉腫の診断や治療には高度の専門性と、それぞれの疾患特有の病態に対する正確な知識が要求されます。間葉性軟骨肉腫もその一つで、AYA世代に発生する悪性度の高い予後不良で有効な治療薬のない腫瘍として、疾患の正しい理解を通した治療法開発が待たれている疾患です。そのためには生体内で病態を正確に再現する動物モデルが不可欠です。
しかしながら、本疾患では原因遺伝子を導入して腫瘍の発生機構を解き明かすモデル系がこれまで存在しなかったことから、HEY1-NCOA2の発現がどうして発生期の軟骨分化を模倣しながら悪性化を惹起させるのか、多くの不明点が存在していました。
【本研究で得られた結果・知見】
今回研究チームは、世界で初めてとなるHEY1-NCOA2の遺伝子導入モデルを作製することに成功しました。間葉性軟骨肉腫の特徴とされる未分化間葉性細胞と硝子軟骨の二層性構造が正確に再現されるとともに、軟骨発生に特徴的な制御因子や構造蛋白、マーカー分子の発現も示されました。さらに腫瘍から単一細胞に分離してRNAシークエンシングを行うと、腫瘍の分化経路を辿ることが可能となり、それぞれのコンパートメントに対応する軟骨分化関連遺伝子との関係性が明らかになりました(図1)。
軟骨の分化は、SOX9やRUNXファミリー、HEY/HESファミリーといった転写因子による遺伝子の発現調節を介して制御されています。間葉性軟骨肉腫では、SOX9とRUNX2が腫瘍細胞全体に、HEY1が未分化細胞に強く発現され、HEY1-NCOA2と共存していることが分かりました。HEY1-NCOA2はエンハンサーにしばしば結合して内在性HEY1の発現をドライブするとともに、DNAへの結合に際してRUNX2と複合体を形成していることがわかり、新たな転写ネットワークの存在が示唆されました。間葉性軟骨肉腫でRUNX2をノックアウトすると、成熟軟骨成分が消失し悪性度が高くなることから、RUNX2とHEY1のバランスが本腫瘍の形態と悪性化に重要である可能性も考えられました(図2)。
間葉性軟骨肉腫には現状では効果のある薬剤はあまり知られていません。今回、我々のモデルを用いた研究からヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害薬の一つであるパノビノスタットが有効であることがわかりました。難治性である本疾患の治療に有用な情報を提供する成果と考えられます。
【今後の研究展開および波及効果】
間葉性軟骨肉腫は、その希少性から外科的切除以外の治療法は確立していません。今回、新たなプレクリニカルモデルを創出したことは、既存治療薬の評価や創薬につながるものと期待されます。軟骨発生と分化における転写ネットワークの重要性は知られているところですが、原因融合遺伝子HEY1-NCOA2による干渉作用を明らかにしたことは、軟骨の再生や炎症・老化といった病態の解明にも資するものと考えられます。
【掲載誌名・DOI】
掲載誌名:JCI Insight
DOI:10.1172/jci.insight.160279
【論文タイトル】
HEY1-NCOA2 expression modulates chondrogenic differentiation and induces mesenchymal chondrosarcoma in mice
【著者】
田中美和*、本目みずき、寺村易予、粂川昂平、山崎ゆかり、山下享子、大里元美、丸山玲緒、中村卓郎*
*責任著者
【主な競争的研究資金】
文部科学省 科学研究費 基盤研究(A) 26250029(中村卓郎)、基盤研究(C) 16KM07131、19K07702(田中美和)
日本医療開発研究機構 次世代がん医療創生研究事業 18cm0106609(中村卓郎)、21cm0106277(中村卓郎)、次世代がん医療加速化研究事業 23ama221206(田中美和)
日本医療開発研究機構 創薬基盤推進研究事業 21ak0101170(中村卓郎)
▼本件に関する問い合わせ先
企画部 広報・社会連携推進室
住所:〒160-8402 東京都新宿区新宿6-1-1
TEL:03-3351-6141
メール:d-koho@tokyo-med.ac.jp
【リリース発信元】 大学プレスセンター
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