各種がんの切除数が2年連続で抑制傾向
~コロナ禍の影響が続いている可能性を示唆~
横浜市立大学附属病院 化学療法センター 堀田信之センター長らの研究グループは、全国のがん患者の7割をカバーする院内がん登録の全国集計データ*1のデータ解析を行いました。その結果、日本人で患者数の多い10がん種(食道がん・胃がん・結腸がん・直腸がん・膵がん・非小細胞肺がん・乳がん・膀胱がん・前立腺がん・子宮頚がん、以下10大がん)について、2019年度以前と比べた場合、2020年度・2021年度と連続して切除患者数(外科切除+内視鏡切除)が大幅に抑制されていることを確認しました。一方、10大がんに対する新規抗がん剤治療は2020年度に減少したものの2021年は過去最高数となっていました。この結果は、新型コロナパンデミック(以下、「コロナ禍」)の影響で、切除可能な早期がん診断が適切に実施できていない可能性を示唆しています。
本研究成果は、英文医学誌「Journal of the American College of Surgeons」に掲載されました。(日本時間2023年4月18日22時)
研究成果のポイント
●2020年度・2021年度には、がん切除数(手術、内視鏡)が大幅に抑制。
●2020年度に新規抗がん剤治療患者数が減少したが2021年度は過去最高数だった。
●コロナ禍で、切除可能な早期がん診断が適切に実施できていないと考えられる。
研究背景
本研究グループでは、2020年にコロナ禍が始まり、2020年度にはがんの診断・切除数が大幅に減少したことを報告しました。引き続き、With コロナとなる2021年度についても動向を解析する必要があると考えました。
https://www.yokohama-cu.ac.jp/news/2021/20220302horita.html
研究内容
本研究では、全国のがん患者の7割をカバーする院内がん登録の全国集計データの提供を受け解析を行いました。
社会の高齢化に伴い、がん患者は本来増加傾向ですが、2020年度には、10大がんの新規患者数が大幅に減少しました。また、2021年度にはほぼ2019年度と同数となりました(図1-A)。
治療別では、新規抗がん剤治療患者は2020年度に減少しましたが2021年度には大きく増加し、過去最高数となった一方で、手術切除患者数・内視鏡切除患者数は2020年度に大幅に減少し、2021年度にも2019年の水準を下回りました(図1-B)。
薄線は2016年と2019年の値を通る直線
本研究により、10大がんの新規患者数は2020年度には大幅に低下し、2021年度には増加傾向にあるものの2019年度を若干上回る程度であるということが分かります。また、治療別においても、新規抗がん剤治療患者が大幅に増加したものの手術切除患者数・内視鏡切除患者数がコロナ禍以前の2019年度の水準を下回っているという結果については、がん切除患者数の減少はコロナ禍による医療機関へのアクセス悪化、健康診断中止、受診控えによる早期がん診断数低下に起因すると考えられます。
今後の展開
早期がんの切除は根治を目指せる重要な治療法となり、低用量胸部CT(肺がん)、便潜血(大腸がん)、パップテスト(子宮頸がん)、マンモグラフィー(乳がん)等のマススクリーニング*2は死亡リスクを減少させることが以前から知られています。そのため、感染対策がなされていることが前提ではありますが、本研究が健康診断実施・受診の促進に繋がれば良いと考えます。
論文情報
タイトル: Impact of the COVID-19 Pandemic on Cancer Treatment: Nationwide Japanese Registration Until 2021
著者: N Horita (堀田信之), H Chen, T Fukumoto
掲載雑誌: Journal of the American College of Surgeons
DOI: https://doi.org/10.1097/XCS.0000000000000698
用語説明
*1 院内がん登録の全国集計データ:
出典 国立がん研究センターがん情報サービス「院内がん登録全国集計」
https://jhcr-cs.ganjoho.jp/hbcrtables/
*2 マススクリーニング:
低用量胸部CT(肺がん)、便潜血(大腸がん)、パップテスト(子宮頸がん)、マンモグラフィー(乳がん)等のマススクリーニングにより受診者の死亡率を減少させることが、信頼性の高い研究で確認されており、世界各国で推奨されている。
https://uspreventiveservicestaskforce.org/uspstf/