【東芝】再生可能エネルギーから水素をつくる電気分解で、希少なイリジウムを1/10に抑えた電極の大型製造技術を確立
株式会社 東芝
再生可能エネルギーから水素をつくる電気分解で、
希少なイリジウムを1/10に抑えた電極の大型製造技術を確立
~水素社会の実現に向けたPower to GasにおいてPEM水電解装置の普及に貢献~
概要
P2Gでは、再エネの電力を利用して水を水素と酸素に電気分解(水電解)し、水素に変換します。水電解には、再エネ電力の変動への適応性が良く耐久性の高いPEM(固体高分子膜:Polymer Electrolyte Membrane)を用いた「PEM水電解」方式が注目されていますが、電極に用いる触媒に貴金属の中で最も希少なイリジウムを使用しており、実用化にはイリジウム使用量の削減が課題の一つでした。当社は、独自の酸化イリジウムナノシート積層触媒を開発し、2017年に従来のイリジウム使用量を1/10に抑えることに成功しました。今般、本触媒を一度に最大5㎡成膜化できる技術を開発し、電極の大型製造技術を確立しました。
本技術により、カーボンニュートラル社会の実現に不可欠なP2Gにおいて、再エネ電力の変動に対応したP2G技術の早期実用化を見込むことができます。当社は2023年度以降の製品化を目指します。
開発の背景
P2Gにおいて、CO2を排出せず再エネを水素に変換する水電解装置は、「2050年カーボンニュートラル」の実現に向けた基幹製品です。特に電力変動への適応性に優れ耐久性も高いPEM水電解は、欧米を中心に盛んに開発が進められています。
PEM水電解では、電解質膜と電極が一体化したMEA(膜電極接合体:Membrane Electrode Assembly)を用いて水電解を行います(図1)。大規模な電力を水素に変換するには、MEAを何枚も積み重ねることが必要になり、MEAの市場規模は2028年には5.8億ドル程度になると予測されています(*2)。
一方で、PEM水電解では、十分な電解効率を確保するために、MEAで使用する電極に大量のイリジウムを必要とすることが課題となっています。イリジウムは世界の年間生産量が7 ~10 tの希少金属であり、同様に希少な白金(Pt)の年間200 tと比べても圧倒的に少なく、さらには地金価格もPtと比較して4~5倍と非常に高価なことから、実用化においては、イリジウム使用量の大幅な低減が求められています。(*3)
従来、電極形成時には、微粒子の酸化イリジウム触媒を均一に塗布する方式が採用されていますが、酸化イリジウム触媒の塗布量を削減すると塗布ムラが生じ、反応が不均一になるため性能が悪化する課題がありました。
本技術の特長
当社は、新たに成膜技術であるスパッタリング法(図2)を用いて、酸化イリジウムナノシートと空隙層が交互に配置された独自の積層触媒構造 を開発しました(図3)。スパッタリング法は、真空下でターゲットと呼ばれる成膜材料にアルゴンなどのイオンを衝突させ、はじき出された粒子を基材に堆積させる手法です(図2)。ターゲットとしてイリジウムを用い、基材に堆積させる際に酸素を投入することで酸化イリジウムの薄膜を形成します。この手法により、ナノメートルオーダーでの膜厚を制御することができ、イリジウムの使用量が少ない場合も均一な酸化イリジウム層を成膜することが可能となります。
一方で、スパッタリングは真空中で実施するため塗布に対して、大型化が難しい課題がありました。今般、当社では、イリジウムを含む複数の金属ターゲットの堆積配分比率や酸素投入量などの成膜条件を変更した触媒設計により、一度に最大5m2の成膜化ができる技術を開発し、電極の大型製造技術を確立しました(図5)。
当社は、東芝エネルギーシステムズ株式会社とともに、本技術による電極を用いたMEAを試作し、水電解装置メーカーによる外部評価試験を開始しています。今後はMEAとしての量産化に向け、歩留り向上・品質改善活動を行い、2023年度以降の製品化を目指します。
*1:https://www.global.toshiba/content/dam/toshiba/migration/corp/techReviewAssets/tech/review/2018/03/73_03pdf/a03.pdf
https://www.global.toshiba/content/dam/toshiba/jp/technology/corporate/review/2022/04/a04.pdf
*2:当社にて試算
*3:https://matthey.com/pgm-market-report-2022