【ニュースレター】FRPへの愛と自信から生まれた「バイオマス・ハッチ」
お客さまに胸を張って遊んでいただく
先日開催されたジャパンインターナショナルボートショーの当社ブースに、一枚の「板」が展示され、注目されました。これは、ボートのデッキに配置されているイケスや物入れのハッチ(蓋)で、バイオマス樹脂を使用したFRP(繊維強化プラスチック)製品です。
「ハッチからはじめたのは、手作業で不飽和ポリエステル樹脂を塗って仕上げていく通常のボートのFRP成型作業ではなく、型にガラス繊維と不飽和ポリエステル樹脂を流し込みプレスすることで仕上げるコールドプレス工法で製造しており、温度などの環境変化を受けにくいことが挙げられます。また、コストの面でも艇体価格への影響が低いなどの背景がありました。スピード感をもって仕事が進められたわけです」(マリン事業本部製造統括部ボート製造部・北川欽哉さん)
「CO2の削減やプラスチック製品の環境への影響が社会的に注目されている中で、具体的な形で応えることが急務だと捉えていました。プラスチックの塊ともいえるボートに乗ることで肩身の狭い思いをする方もいるかもしれない。お客さまに、胸を張って遊んでいただきたかった」(同開発統括部艇体開発部・小島郁夫さん)
FRP素材の長所も見極めながら
今回のハッチは、従来から使用していた化石由来の不飽和ポリエステル樹脂成分の25%をバイオマス由来に変えガラス繊維に含侵させてつくり、特に強度と耐水性の面で実験と評価を積み重ねました。完成品は、見た目はもちろん、品質においても従来のFRPと遜色ありません。
このハッチは9月から製造開始を予定しており、まずは小型のプレジャーボートと業務用和船に採用していきます。将来的にはボートの構造体やプールなどにも採用される日が来るかもしれません。
「ただ、昨今、FRPがプラスチックという大きな枠にひとまとめにされ、単純に環境悪だとされることに違和感を感じていることも事実です。リサイクルしやすい熱可塑性のFRPを使用するボートも現れようとしていますが、それさえ、そこにかかる熱源や放出されるエネルギーなどのことを考えると、本当に環境にとって良いことなのか。逆にまだ課題はあるものの、現在のFRPはライフサイクルの長さなどの面で環境的に優れているともいえます。トータルバランスが重要で、そうしたことも訴えていくべきとも思っています」(北川さん)
当社がはじめてFRPという素材を製品に採用したのは1958年。以来、研究を重ね、製品に採用しながら60年以上の歴史を歩んできました。バイオマス由来の樹脂を使用した新しいハッチも、FRPという素材への自信と愛があってこその製品なのです。
そう話す小島さん(左)と北川さん
■広報担当者より
バイオマス由来の樹脂は、これまでも通常のFRP用樹脂の供給を受けてきた、信頼のあるDIC社製品を使用。このバイオマス樹脂の存在は今までも知られていましたが、本格的な導入にまでは至りませんでした。今回はこれをコールドプレス用にチューニングし、ハッチの成型において実用化することができました。当社のFRP技術がさまざまな企業の協力を得ながら進化をしていることを実感しました。