不動産投資家が気候変動に対して真の影響をもたらすことが可能な理由とは?

シュローダー・インベストメント・マネジメント株式会社

クリスティーナ・フォスター
ファンドマネージャー、不動産デット
シュローダー・キャピタル

建設・不動産セクターは、世界における炭素の主要な排出源となっています。これはすなわち不動産の投資家が気候変動に対して多大な変化を与えることができる存在であることを意味するでしょう。


先日、気候変動によって発生する潜在的なコストが再び話題になり、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)では重要なメッセージが明確に打ち出されました。最新のIPCCの報告書は、気候変動が限界に近づいており、具体的に行動しなければならないことを示しました。実際、報告書における冒頭の数行は足下の状況を明確に打ち出すメッセージとなっています。

「人類の活動によって大気、海、陸地のいずれにおいても温暖化が進展していることは疑いの余地がありません」

不動産投資家は、気候変動に関して有意義な変化を起こすことが可能であると考えられています。全世界の二酸化炭素排出量の38%(英国では42%)は、建設・不動産セクターから発生しています。しかしながら、不動産からの炭素排出削減に取組むことは、その利益を享受するためにコストがかかると一部の投資家の間では考えられています。シュローダーではそれは真実ではないと信じています。すなわち、効率性の評価が高い建物は、通常、賃料水準が高く、ランニングのコストが低く、テナントにとって魅力的であり、全体的な収益の向上につながると考えています。


グローバルなコミットメント
ネット・ゼロという用語は、気候変動そのものと気候変動が引き起こす環境破壊を抑制させるために必要な手段として頻繁に引用される、世界的なスローガンになりつつあります。多くの国の政府が炭素排出量を削減することを主要な取組として位置付けており、今後、数年間で温室効果ガス排出をネット・ゼロにすることを約束しています。

事実上すべての国が、気候変動に関するパリ協定に参加し、今世紀半ばまでに排出量をネット・ゼロに削減することを目的にかかげ、企業、都市、金融機関と連携しています。英国では、2030年までに炭素排出量を68%削減し、2050年までにネット・ゼロにすることに政府がコミットメントを示しています。不動産投資家にとってこれはまさしく考慮すべき事項です。

英国ロンドンに拠点を置くLoan Markets Associationによると、現在、英国における既存の建築物の75%は、エネルギー効率が低いというデータが示されています。英国政府が、ネット・ゼロの目標を達成するためには不動産業界からの多大なる貢献が必要となることは明らかです。


正しい方向へと…
通常、変化を生み出すための主な原動力は、排出量を削減するための法律や規制を通じて国家レベルで策定されます。一方、企業および従業員レベルでの意識を高めることを目的としたイニシアチブとして、国連グローバル・コンパクト(Act Nowキャンペーン)があります。また、アマゾンが共同設立し、調印した気候変動に関する誓約はこれをさらに一歩進めたものです。気候変動に関する誓約は2040年までに企業や組織が事業全体でネット・ゼロとなることを求めており、パリ協定の達成目標を10年前倒しして、2040年までにネット・ゼロ・カーボンを達成するという大胆な目標を掲げています。現在、18業種にわたる100社以上の企業が、炭素排出量の計測と報告、脱炭素戦略の実行、および、信頼性のあるオフセットのメカニズムを通じて自社の排出量を中立化することに同意しています。

その結果、ますます多くの企業が、事業領域全般において炭素排出とサステナビリティに関する目標を積極的に設定しています。JLL(不動産アドバイザー)は、ロンドン中心部にある既存オフィス物件(2030年まで賃貸契約を結んでいる物件)のうち、約1400万平方フィート以上が、現時点でネット・ゼロを約束した企業または「科学的根拠に基づく目標」に署名した企業によって賃借されていると報告しています。

科学的根拠に基づく目標では、パリ協定の目標に沿って排出量を削減するための科学的根拠に基づき、明確に定義された削減目標を追求しています。この報告は、ロンドン中心部でのサステナビリティが高い建物に対する需要とニーズの高まりを明確に表しています。


投資家にとってどのような意味があるのか?
JLLは、ロンドン中心部の賃貸動向を調査し、BREEAMと賃貸価格の関連性を調査しました。 BREEAMは、環境、社会、経済の3つの側面から資産のサステナビリティについて評価し、格付、認証する環境性能評価手法です。JLLの賃料動向調査によると、BREEAMで「非常に良い」またはそれ以上の格付を取得した、ロンドン中心部のAグレードの新規オフィスは、格付がないオフィスよりも平均して10%ほど高い賃料を実現しています。

また、賃貸物件において重要視される「リース速度(空室期間の長さ)」も改善し、「非常に良い」と評価されたAグレートの新規オフィスにおける完成後24か月の空室率は7%と、地域平均20%よりも低い結果となりました。上記は、新規オフィスについての経過調査ではありますが、これらの傾向は、改築されてAグレードになった既存物件に対しても有効でしょう。

JLLの最新の調査によると、サステナブルなオフィスは、サイクル全体を通じて高い賃料水準、リース速度の改善、低い空 室率の組み合わせにより、具体的に経済的メリットを得ることが可能であり、サステナビリティを戦略の目的とする不動産投資家は、その恩恵を享受することが可能であることが明らかになっています。

反対に、不動産投資においてサステナビリティへの取組みが急速に拡大しているため、何もしないことは選択肢になり得ないことが次第に明らかとなっています。立地やタイプを問わず、居住者や不動産投資家、もしくは法的にサステナビリティ基準を満たさない資産は、老朽化資産または座礁資産と見做され、資産価値が影響を受けることになるでしょう。


サステナブルな不動産に対する投資家の需要は衰えない
Covid-19危機は社会全体の行動変化を加速させました。これはすなわち、将来の資産運用業界を定義づけるであろう、サステナブル投資への移行を引き起こしました。

2年前、ESGは多くの投資家にとって単にチェックマークを入れる作業にすぎませんでした。北欧の進歩的な投資家の要件を満たすための対応という側面があり、通常は国連の責任投資原則(PRI)に署名するのみで十分でした。しかしながら私たちは、今、かつての世界的革命にも似た、まったく新しい期待水準への移行を目撃しています。


不動産投資におけるESGの価値
出所:シュローダー、2021年、「オフィス向けネット・ゼロとESGの評価」、JLL 2021年4月

欧州の金融業界でのサステナビリティ開示規制(SFDR)は、サステイナブル投資に関するEUの規制基準として2021年3月に適用が始まり、投資マネージャーおよび機関投資家は、世界規模の気候危機を回避し、あらゆる場所で高まる不平等についての問題を克服するための行動の必要性を完全に受け入れました。投資先の資産を積極的に運営、管理し、インパクトを創出することが可能な特性に鑑みるにこのような変化はプライベート市場にとって大きなチャンスであると考えています。

私たちの見解では、英国における2030年に向けた目標に貢献するため、不動産投資家はセクター全体において前向きな変化を推進する立場にあります。ESGの目的と投資家のインセンティブは完全に一致しており、サステイナブルな投資戦略には、その投資サイクル中に達成できる多くの経済的利益があるでしょう。



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