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神奈川大学理学部生物科学科の西谷和彦教授、篠原直貴非常勤講師が、植物細胞壁再編酵素XTHの起源の研究成果に基づき、生物陸上化の新しいシナリオを提唱しました。全ての陸上植物のゲノムに多重遺伝子ファミリーとして存在し、細胞壁の再編を担う酵素であるXTHの起源が、細菌のバイオフィルムを緩める酵素(ExoK)であることを明らかにしました。この発見は、XTHの起源が細菌のリケナーゼという酵素であるとしてきた定説を覆すものです。
【発表のポイント】
◆全ての陸上植物のゲノムに多重遺伝子ファミリーとして存在し、細胞壁の再編を担う酵素であるXTHの起源が、細菌のバイオフィルムを緩める酵素(ExoK)であることを明らかにしました。この発見は、XTHの起源が細菌のリケナーゼという酵素であるとしてきた定説を覆すものです。
◆ExoKは細菌がバイオフィルムを作り固着生活をする上で必須の酵素です。7億年前、地球が氷に覆われていた全球凍結の時期に、陸上植物の共通祖先が細菌から水平伝搬によりExoKの祖先遺伝子を取得した可能性が高いことを明らかにしました。
◆今回の研究結果は「土に根をおろしている現在の植物は陸地進出より2億年前に氷の表面に定着する機能を獲得していた」とする新しい陸上化シナリオを支持する最初の知見です。
【今回の研究成果】
(1)XTHの起源はExoK
XTHの起源を明確にするために、細菌や菌類、植物を含めXTHファミリーに類似の蛋白質を含む蛋白質のアミノ酸配列の系統解析を行いました。その結果、アルファプロテオバクテリアの祖先種のExoK蛋白質の遺伝子が、陸上植物の共通祖先であるストレプト植物の一種へ水平伝搬し、現在の陸上植物のXTHファミリーとなったことが明らかとなりました。
この結果は、これまで定説とされてきたリケナーゼ起源説を覆すものです。また、この水平伝搬は、7億年前の地球のほぼ全域が雪や氷に覆われていたクリオジェニアン紀に起こったであろうことも、系統解析より推定されました。
(2)ExoKの機能―
ExoK蛋白質は、現生のアルファプロテオバクテリアではバイオフィルムの成分であるスクシノグリカンを分解する活性を持ち、バイオフィルムの物性や流動性の制御に関わる酵素です。植物のXTHは、セルロースを骨格とする陸上植物細胞壁中のキシロルグカンなどの多糖の繋ぎかえ反応を触媒し、細胞壁再編に中心的役割を担酵素です。
菌類のCRHファミリーは菌類の細胞壁骨格であるキチン多糖の繋ぎかえ反応を触媒する点で、植物におけるXTHと同様の細胞壁再編機能を担う酵素です。
【新しい陸上化のシナリオの提唱】
今回の成果とこれまでの知見を総合し、アルファプロテオバクテリが獲得したバイオフィルム形成形質が、7億年前の全球凍結の時代に植物や菌類へ水平伝搬し、雪上や氷面という固相の淡水環境における植物や菌類の定着生活進化の基盤となったとする仮説を提唱します。
更に、この仮説に基いて、全球凍結の時期に、雪上や氷面で、細菌と、緑藻、菌類がバイオフィルムを媒体として固着生活を送る機能を獲得し、雪上での固着生活の"レッスン"となり、そのレッスンを経験した特定の植物系統のみが 氷河期終了後に陸地に進出することができた、とする新しい生物陸上化のシナリオを提案します。
※詳細は下記のPDFをご高覧ください。
▼本件に関する問い合わせ先
広報部
TEL:045-481-5661
【リリース発信元】 大学プレスセンター
https://www.u-presscenter.jp/