生殖医療支援AIクラウドシステムを開発

横浜市立大学

ディープラーニングによる精子評価値分布の学習を実現


本研究のポイント
  • 全国の胚培養士から精子評価データを収集するクラウドシステムを開発
  • 精子の形状・動きをディープラーニングで学習・評価特徴の抽出に成功
  • 抽出した特徴から胚培養士の集合知である評価分布を推定、評価判断を支援

【研究概要】
横浜国立大学工学研究院の濱上知樹教授、同研究室大学院 木村慶豪さん、宮澤理佑也さん、理工学部 中川勇人さんと、横浜市立大学附属市民総合医療センター 生殖医療センターの湯村 寧准教授、竹島徹平助教、胚培養士山本みずきさん、上野寛枝さんらの研究グループは、男性不妊治療において胚培養士が行う精子評価作業を、人工知能(AI)を使って支援するシステムを開発しました。

【研究成果】
本研究グループはすでに、判別が難しい精子とそれ以外の細胞を見分けるAI(適応的閾値ブースティング法、カスケード型グレーディング法)を開発しています。今回さらに、国内各所の診療所における胚培養士に協力をいただき、精子評価データをクラウド上で収集するシステムを本格稼働し、大規模な精子データの収集とディープラーニングによる学習を実現しました。また、評価のグレーディングだけでなく様々な視点で行われる精子評価の分布を高精度に推定する新たな手法を開発しました。この技術によって、新たな精子選別において、多数の胚培養士の評価結果を予測・提示することができるようになりました。
また、その判断を説明可能にするためのファジィ推論のしくみも導入されます。本研究の成果は、第18回コンピューテーショナル・インテリジェンス研究会(2021.6)、第36回平成不妊研究会(2021.6)および第66回日本生殖医学会(2021.11)、第109回日本泌尿器科学会(2021.12)において発表予定です。

【実験手法】
クラウド上に構築したポータルサイトを介して、採取した精子データのデータベースへの登録・評価を行うシステムを開発しました。データベースに蓄えられた精子動画を胚培養士が5段階のグレードを評価した結果(2021.5時点 5,177評価データ)を収集し、ディープラーニングによって特徴抽出を行い、そこから多くの胚培養士の集合知である分布を推定します。
分布精度の平均二乗誤差(MSE)は学習データに対し、0.00035(平均絶対値誤差MAE 1.43%)検証データに対して 0.025(同 11.08%)  となり、高い精度で分布推定ができることを確認しました。

【社会的な背景】
男性不妊の中でも、精子数の少ない患者さんに主に行われる治療として顕微受精 (Intracytoplasmic sperm injection: ICSI) が知られていますが、この手技には限られた時間の中で有望な精子を見つけ出す高い細胞識別能力が要求されます。この専門的な技術を有する胚培養士の負担は極めて高く、成功率を上げるためにも、精子の探索・評価を支援する技術が求められています。

【今後の展開】
このシステムの実用化により、生殖補助医療分野、とくに精子の選別・探索、男性不妊症検査が高度化し、不妊治療における受精率の向上、患者の費用負担の軽減、胚培養士の負担軽減や、熟練した胚培養士の技術伝承に大きく貢献します。



 

  クラウドによる精子評価システム       ディープラーニングによる評価分布推定
 
 



  精子評価分布の推定結果
 
 
 
 

 

 



 

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