【ニュースレター】現場に息づく非合理なひと手間〈ヤマハの手〉
クラフトマンシップを「見える化」する
「当社のものづくりの現場には、合理的工法を追求する理論値思考※が根づいています。その一方で、矛盾していると思われるかもしれませんが、ヤマハ製品ならではの付加価値を生み出している『非合理なもうひと手間』が伝統的に大切にされてきました。言い換えるなら、当社製造・生産現場におけるクラフトマンシップです。そのひと手間を、私たちは〈ヤマハの手〉と名づけました」(車体製造部・郷匡博さん)
郷さんのもとに、「ものづくりの現場が内包している価値を、お客様や社内からも見えるようにしてほしい」という経営層からの要望が届いたのは今年初めのこと。その背景には、お客様視点では大きな魅力に映るものづくりの工程が、当の現場では「プロとして当たり前の仕事」と、作業者や職場組織の自負や気概に留まっていたことがありました。
「会社としては、現場に流れるヤマハらしいクラフトマンシップは大切な資産であるし、ブランド価値の向上にも寄与するだろうという考えがあったのだと思います。同時に私たち現場にとっても、自分たちの仕事や技能がヤマハブランドに直結していることを一人ひとりが強く意識する良いきっかけになると考えました」
「現場発」ものづくりブランディング活動
しかし、ここからがたいへんです。当社のクラフトマンシップを体系化して、ブランディングまで昇華させるために集まったプロジェクトメンバーは、各工場、各生産現場の管理職を中心とした総勢25名。「私を含め、ものづくり一筋でやってきた人たちばかりですから、畑違いの命題に困惑もありました」(郷さん)
メンバーの皆さんがまず取り組んだのは、一般的に用いられるクラフトマンシップの概念と、当社のクラフトマンシップに差異を見出すこと。各職場、各工程で培われたこだわりの仕事を洗い出し、終業後、それぞれの職場から本社に集合してはディスカッションを重ねてきました。
また、異業種のものづくり現場にも積極的に足を運びました。郷さんは「よそ様の工程を見せていただくことで、お客様が感じる価値と、我われにとっての価値はどうやら違うものらしいということに早い段階で気づけたことが大きかった。非合理な手間も、お客様にとっては価値となり得ることをプロジェクト一同、深く理解しました」と振り返ります。
これらの成果の一つとして、いままで内に秘めてきた強い思いやこだわりの技を〈ヤマハの手〉という5文字に集約。「車体製造部の350名に『あなたの〈ヤマハの手〉は?』と問うと、みんながプライドを持って自分なりのひと手間を語りだす。特に若い人たちの反応がいい。技能者としてさらに上を目指すモチベーションにもなっていくと期待しています」
※理論値思考= 生産にかかわるすべての作業を「価値」と「無価値」に分類し、あるべき姿(理論値)に向け、価値作業の比率を高めていく改善手法「理論値生産」に基づく思考
アルミ素材の表情を生み出す燃料タンクの磨き工程
■広報担当者より
「機械を使えば40分で済む木工の工程を、技能者が6時間かけて手で彫っていた。我われから見れば非合理のかたまりだが、木を削る音や匂いまでそこにあるすべてがお客様にとっては価値なんだと理解した」。グランドピアノの製造工程を視察した郷さんの感想です。〈ヤマハの手〉というヤマハ発動機のモノ創りにおける共通言語が生まれたことで、これまで現場の人びとが内に秘めてきたこだわりの技を、私たちが目にする機会も増えていくことでしょう。広報としても、積極的に発信していきたいと思います!