青山学院大学の山本大輔助教、古川信夫教授らが3色の量子気体を用いた人工的な磁石における新たな量子磁気現象を発見 青山学院大学 2020年08月05日 14:05 青山学院大学理工学部の山本大輔助教、古川信夫教授らの研究グループは、3色の自由度を持つ量子気体を用いた人工磁性体における新たな量子磁気現象を理論的に予言し、その実現方法を提案した。本成果は、もし「アップ」と「ダウン」の2色の自由度を持つ電子ではなく、その代わりに3色の量子的な粒子を用いて”磁石”を作成したらどのような性質を持ち得るかを解明したもので、将来の新たな量子磁気デバイスの開発にも重要な基礎的知見を与える。これに関する論文が7月31日付でアメリカ物理学会の速報誌『Physical Review Letters』に掲載された。 【本件のポイント】 ・3色の量子的な原子気体を用いて作成できる人工的な磁性体を理論的に研究 ・強い磁場下において従来の磁性体にはない不思議な量子磁気現象を示すことを予言 ・レーザー光と特殊な原子を用いて実験室で作成する方法を提案 パソコンのデータを保存するハードディスクドライブから医療現場でのMRIまで、私たちの文明的な生活は磁石の性質(磁性)を利用したデバイスに支えられている。 物質の磁性の起源となるのは、物質中に無数に存在する原子、そのさらに内部に存在する電子である。月が地球の周りをまわるように、1つの原子の中では電子が原子核の周りを公転している。また、電子自身も自転しており、それらの回転方向に対応して「アップ」と「ダウン」という2種類の状態を取ることができる。量子力学的に厳密に言うと、実際に月のようにクルクル回っているわけではないが、似たような現象なのでこの自由度のことを''スピン''と呼ぶ。このスピンは極小の磁石のようなもので、矢印で表すことができる。物質中には無数の電子たちがいるので、それらの持つスピンの矢印の向きが(ほとんど)全て同じ方向に揃うことで大きな磁力となり、物質全体が磁石の性質を示すようになる。 本研究では、イッテルビウム(Yb)というアルカリ土類様原子に注目した。この原子の内部では電子の配置が閉殻構造を取っており、スピンが実質的に消えてしまっている。その代わりに原子核が6成分の核スピンを持っており、レーザー光を適切に照射することで6成分の中から好きな数を取り出すことができる。このような互いに完全に対等な核スピン成分の自由度を持つ原子の集団(気体)のことを、成分数を色に例えて、「3色の気体」「5色の気体」などと呼ぶ。 実験室でレーザー光を対向的に照射した空間にYb原子気体を封入することで、内部の粒子が多数の色を持つ人工的な固体結晶を作ることができる。このような固体結晶を自然界の物質の中で実現することは通常不可能であり、京都大学をはじめとした世界中の量子光学研究所で精力的な研究が進んでいる。 では、2色のスピンしかない電子の代わりに、そのような多色の原子気体を用いて人工的な''磁石''(磁性体)を作ったら何が起こるであろうか。 青山学院大学理工学部物理・数理学科の古川研究室の山本大輔助教、理工学研究科理工学専攻博士前期課程(当時)の鈴木千尋さんおよび岡崎翔さん、Giacomo Marmorini研究員、古川信夫教授の研究グループは、極低温の環境化において3色の量子的な原子気体を用いて人工的な磁性体を作り、そこに磁場を印可した場合に何が起こるかを実験に先駆けて大規模な数値計算とシミュレーションを行うことで理論的に研究した。 その結果、この人工磁性体が強磁場下で磁石のようにスピンが揃った性質を保ちながらも、パソコンのディスプレイなどに使われている液晶と同様の性質を併せ持つことを明らかにした。また、温度を上げて通常の気体に変化させる(相転移)ときにも通常の磁性体とは異なる不思議な振る舞いをすることを示した。 本件に関する論文が2020年7月31日にアメリカ物理学会(American Physical Society)の発行する物理学専門の速報誌''Physical Review Letters''に掲載された。 【論文掲載】 ・論文タイトル:Quantum and Thermal Phase Transitions of the Triangular SU(3) Heisenberg Model under Magnetic Fields ・掲載誌:Physical Review Letters ・著者:山本大輔、鈴木千尋、Giacomo Marmorini、岡崎翔、古川信夫(青山学院大学) ・DOI:10.1103/PhysRevLett.125.057204 【本件の関連研究プロジェクト】 本研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業CREST「量子状態の高度な制御に基づく革新的量子技術基盤の創出(研究総括:荒川 泰彦)」の研究課題「冷却原子の高度制御に基づく革新的光格子量子シミュレーター開発(研究代表者:高橋 義朗)」、科学研究費助成事業基盤研究C「固体物質系と光格子量子シミュレータを繋ぐ新奇フラストレート量子物性の理論研究(研究代表者:山本 大輔)」、青山学院大学アーリーイーグル研究支援制度による支援を受けて行われた。 ▼研究に関する問い合わせ先 ・青山学院大学 理工学部 助教 山本 大輔(やまもと だいすけ) E-mail: d-yamamoto@phys.aoyama.ac.jp ・青山学院大学 理工学部 教授 古川 信夫(ふるかわ のぶお) E-mail: furukawa@phys.aoyama.ac.jp ▼取材に関する問い合わせ先 青山学院大学 政策・企画部 大学広報課 TEL: 03-3409-8159 URL: https://www.aoyama.ac.jp/companies/interview.html 【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/
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