運用者の視点:2カ月半遅れの中国『全人代』
<今日のキーワード>
「マーケット・キーワード」では、弊社のアジア株式運用者が運用業務を通して気付いたり、感じたことを“運用者の視点”として定期的にお届けしています。急速かつダイナミックに変革が進む、中国・アジア地域の経済やマーケットの“今”を、独自の視点でお伝えできれば幸いです。今回のテーマは、新型コロナウイルスの感染拡大により例年より遅れての開催となった、中国の『全人代』についてです。
【ポイント1】感染症対策の成果をアピール
■5月22日から28日に『全人代』(全国人民代表大会)が開催されました。例年3月上旬に開催されますが、新型コロナウイルスの感染拡大により約2カ月半遅れました。政府のデジタル化推進を象徴する取り組みとして、バーチャル『全人代』の実現を期待する声もありましたが、会議はリアルで行われ、北京の天安門広場西側の人民大会堂には3,000人近い参加者が参集しました。世界に先駆けて新型コロナウイルスの封じ込めに成功したためです。開幕初日、マスク姿の参加者が拍手で迎える中、習近平国家主席や李克強首相の指導部はマスクなしで登場し、李首相は「感染症対策は大きな戦略的成果を収めている」と述べました。
【ポイント2】成長率目標の発表は無かったが、大規模な景気対策発動へ
■最も注目されていた2020年の経済成長目標は、新型コロナウイルスの影響で景気動向の不確実性が高まっていることを理由に設定されませんでした。また、今年の都市部失業率の目標は、2019年よりも0.5ポイント高い6%前後とし、都市部新規就業者数も2019年より200万人少ない900万人以上とするなど、中国政府が現在の経済状況に対して厳しい認識を持っているという内容となりました。一方、政府は景気や国民生活の安定を重視し、財政赤字の対GDP(国内総生産)比率を前年の2.8%を大きく上回る3.6%以上としました。「3.6%」ではなく「3.6%以上」と例年にはない強い表現としたところに、財政政策に対する中国政府の積極的な姿勢が読み取れます。減税や企業に対する社会保険料の免除等に加え、5G(第5世代移動体通信)やデータセンターなど新型インフラを中心とした投資は今後さらに拡大する見通しです。
【今後の展開】長期的な安定成長実現に向けて
■例年に比べて2カ月半遅れとはいえ、これだけの重要イベントを実際に開催したことの意味は小さくありません。『全人代』の開催は「中国社会の正常化宣言」を行ったに等しいとの見方もあります。そのため、今年の経済成長目標を設定しなかったことに市場から失望の声が出なかったのも、当然と言えるかもしれません。今年はGDPを2010年対比で倍増させる政府目標の最終年にあたり、その達成にこだわるのであれば、リーマンショック当時のように力技で数字を作りに行くことも可能なはずです。しかし、新型コロナウイルスの世界的大流行という未曽有の事態を受け、指導部は目標達成を事実上諦めたようです。それが許されるのは、習近平国家主席の権力基盤が盤石だからでしょう。重要なのは単年度の数字ではなく、長期的に安定成長を実現することです。2020年の経済成長目標を設定しなかったことで、それがより明確になったのではないかと思います。
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