北米の大規模木造建築物で活用がすすんでいる「マスティンバー」
多様な表現ができ、再利用可能なNLT(Nail-Laminated Timber)にも近年注目が高まる
※2020年5月21日に一部内容を追記修正していますカナダ木材の普及活動を行う非営利業界団体カナダウッドの日本事務所、カナダウッドジャパン(所在地:東京都港区、代表:ショーン・ローラー)から、マスティンバーの活用に関する最新動向をご紹介します。
北米において、比較的質量の大きいエンジニアードウッドを指すマスティンバーは、RCや鉄骨と比べて工期の短縮や建物の軽量化が可能であることから、理想的な建築材料として位置付けられています。また、循環資源であることや炭素貯留効果によって温暖化ガス抑止に貢献する点も評価され、大規模建築物における活用がすすめられています。
NLTが注目されている理由は、ツーバイフォー工法の床版や屋根版における設計デザインの幅を広げるという点にもあります。NLTは製材品どうしの留め付けを少しずつずらすことによって、曲面やねじれを持たせることが可能です。通直な製材で構成されていながら曲面を表現できるのはNLTだからこその特徴で、これを屋根構面へ応用した例が北米ではすでに多く見られます。
(写真右)バンクーバー近郊を走る新交通システム「スカイトレーン」の駅舎屋根。プラットホームの屋根にゆるやかなカーブをつけたNLTを使用し、木の柔らかさを演出した空間となっている
また、NLTは構造材を隠さず見せる「現し(あらわし)」で使うことで木材の質感を活かした表現を実現できるほか、長尺パネルの製作で床の支持スパンを伸ばすことによって大空間の設計における活用も期待されています。
(写真右)スーパーマーケットのエントランスの庇にNLTを活用。店舗スペースもNLTによる現しの大空間が特徴で、夜は照明で木の温もりがより印象的に演出される
森林国といわれるカナダでは、2009年、ブリティッシュコロンビア州で「Wood First Act」という法律が施行され、州政府が発注する公共建築物については木造によるアプローチを検討することが義務付けられました。これは日本で「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が公布されるよりも1年早く、その結果として木造の公共建築物が飛躍的に増加しました。2020年にはカナダの建築基準をマスティンバー建築に限って階数を最大12まで許容する内容の法改正が予定されており、ブリティッシュコロンビア州ではそれに先駆けて2019年に州の建築基準が同様の階数緩和を済ませています。
一方、日本においては、2004年のツーバイフォー工法による木造初の1時間耐火構造大臣認定取得や、2010年の「公共建築物等における木材利用の促進に関する法律」の施行などによって、ツーバイフォー工法における木造の施設系建築が増えてきています。そうした中、2019年に施行された改正建築基準法では、従来、規制上耐火建築物とされていたものについて一定の準耐火建築物が許容されることになり、現しにすることができる対象建築物の範囲が広がりました。マスティンバーは施設系建築物等における現しや大空間等のニーズに対応する部材として注目されており、カナダ林産業審議会ではNLTの実用化に向けた技術開発に取り組んでいます。