-
-
-
●摂食しながら、肥大・分裂する膜からなる人工細胞において、細胞内部で複製したDNAが膜分子と複合体を形成し、その複合体が人工細胞の肥大・分裂を促進するDNA酵素として機能することを明らかにした。
●人工細胞の膜内でDNAの長さ依存的に複合体が形成されることで、DNAの長さが摂食後の人工細胞の肥大・分裂を制御する情報として機能することを見出した。
●本研究の成果により、生命起源において、現在の生物のように種々の酵素が介在するDNAの配列情報の転写・翻訳といった高度に洗練された情報の流れ(セントラルドグマ)がなくとも、DNAが直接的に酵素のように機能することで、情報分子になり得ることが示された。
神奈川大学 菅原正客員教授ら(総合理学研究所/理学部)の研究グループが、DNAの塩基配列ではなく、長さが生物学的な情報になり得ることを世界ではじめて明らかにした。これは、生命情報の起源に迫る重要な発見である。
本研究グループはすでに、外部からの養分供給で、肥大して分裂するという自己生産を行う人工細胞を化学的につくり出し、しかもそれが繰り返し起こることを報告してきた。しかし、生物の最大の特徴は、自らの個性を次世代に伝える情報をもつことにある。菅原客員教授らは、DNAの長さが情報となって、摂食後の肥大・分裂ダイナミクスを制御する、原始的な人工細胞を新たに構築した (図)。
太古の地球で最初に創発した生物が、現在の高度に洗練された多様な生物に進化するためには、遺伝情報を記録する分子の出現が不可欠である。現在の生物では、DNAがその塩基配列に情報を記録し、転写・翻訳という高度に組織化された過程で、その情報が発現される。しかし単純な分子集合体からなる原始細胞において、どのようにしてDNAが子孫の存続に影響を与える遺伝情報を担うようになったかは、未解決な課題だった。
本研究グループは、DNAと膜分子の相互作用を増幅するように、脂質からなる膜の組成を工夫した人工細胞を新たに構築し、膜内でDNAと脂質からなる超分子触媒を形成させ、DNA増幅後の養分添加で増殖した人工細胞数を、フローサイトメトリおよび顕微鏡観察で数え上げた。その結果、内封したDNAの長さに依存して、その増殖数が明らかに異なることを見出した。また、単一人工細胞の形態変化の顕微鏡追跡により、このDNAの長さが分裂挙動を制御する原因を明らかにした。本成果は「太古の地球の原始細胞においては、DNAが形成する超分子複合体が分裂挙動に直接的に影響を与える酵素として機能することで、その配列ではなく長さを情報とする原始的な生命情報の流れが生じた可能性がある」ことを、示唆している。
この研究に関する実験は、現 自然科学研究機構 生命創成探究センターの松尾宗征 特任研究員(当時 東京大学大学院 博士課程)が中心となって行われた。
また、本研究成果は、2019(令和元)年5月6日に、英国Nature Publish Groupのオンラインジャーナル『Scientific Reports』に「M. Matsuo, Y. Kan, K. Kurihara, T. Jimbo, M. Imai, T. Toyota*, Y. Hirata, K. Suzuki & T. Sugawara*, DNA Length-dependent Division of a Giant Vesicle-based Model Protocell. Scientific Reports. 9, 6916 (2019). DOI: 10.1038/s41598-019-43367-4.」として掲載された。
誌名: Scientific Reports (略称: Sci. Rep.) 巻号: 9 論文番号: 6916
論文のURL
https://www.nature.com/articles/s41598-019-43367-4
公開の形態: オープンアクセス
▼本件に関する問い合わせ先
神奈川大学 研究支援部 平塚研究支援課
TEL:(0463)59-4111(代)
メール:kenkyu-hshien@kanagawa-u.ac.jp
【リリース発信元】 大学プレスセンター
https://www.u-presscenter.jp/