母乳が赤ちゃんの腸内細菌叢を制御する機構の解明 -- 過酸化水素が乳酸菌を増やす!? -- 【東京農工大学・東北大学・理化学研究所】

東京農工大学

 国立大学法人東京農工大学大学院農学研究院動物生命科学部門・永岡謙太郎准教授らの研究グループはマウスを用いた実験により、母乳中のアミノ酸代謝から産生される過酸化水素が乳子の腸内細菌叢(腸内フローラ)の形成に関与していることを明らかにしました。過酸化水素は乳子の消化管内において外部から侵入してくるさまざまな細菌に対して門番のような役割を担っており、乳酸菌など過酸化水素に抵抗性を示す細菌が優先的に腸内に定着していました。本研究結果は、母乳中に含まれる過酸化水素の重要性を示すとともに、アミノ酸や活性酸素による腸内細菌制御方法の開発につながることが期待されます。 本研究成果は、The FASEB Journal(11月15日付)に掲載されます。 報道解禁日:11月16日 午前4時00分(日本時間) URL: https://www.fasebj.org/doi/10.1096/fj.201801462R 現状  生物進化の過程で、我々哺乳類は母乳で子を育てる戦略を選択してきました。一方で、哺乳類にとって腸内細菌叢は生体の恒常性維持に重要であり、腸内細菌叢の乱れがガンや生活習慣病、認知症の発症リスクを高めることが分かってきました。腸内細菌叢は生まれて間もなく形成が開始され、離乳などのイベントを経て徐々に大人の菌叢へと近づいていきます。一般的に哺乳期間を含む腸内細菌叢の形成過程に獲得した腸内細菌は、多少のバランスの変化は起こり得るものの生涯不変といわれており、老化と共に乳酸菌やビフィズス菌といったいわゆる善玉菌が減少する以外、基本菌叢パターンを大きく変えることは難しいとされています。乳製品などを摂取して一時的に菌叢を変えることができても、摂取をやめると元に戻ってしまう理由がここにあります。すなわち、哺乳中に形成される腸内細菌叢をいかにして正常な菌叢に整えるかが重要となり、母乳中にその秘密が隠されていると考えています。 研究体制  本研究は、東京農工大学大学院農学研究院動物生命科学部門の大学院生重野佑布子、Haolin Zhangおよび永岡謙太郎准教授らと理化学研究所科技ハブ産連本部バトンゾーン研究推進プログラム辨野特別研究室の辨野義己特別招聘研究員ら、東北大学大学院農学研究科の野地智法准教授、京都府立大学大学院生命環境科学研究科の井上亮講師、中国科学院動物研究所のWanzhu Jin教授らが共同で実施しました。 研究成果  本研究では、マウスの母乳中に多く含まれるアミノ酸代謝酵素遺伝子(LAO1(注1))を欠損させたマウス(LAO1欠損マウス)を用いて、母乳にLAO1が含まれるか否かで子の腸内細菌叢が変化するかを遺伝子レベルと培養レベルで調べました。その結果、野生型(注2)の母マウスから母乳を摂取している子マウスの腸内細菌叢は従来の報告通り、そのほとんどが乳酸菌で占められ菌の多様性(注3)は抑えられていました。しかし、LAO1欠損の母マウスの母乳を飲んでいる子マウスの腸内細菌叢にはさまざまな菌が存在し、すでに大人の菌叢に近い状態でした。また、LAO1は乳子の消化管内でも機能を失わずアミノ酸を分解して過酸化水素を産生すること、過酸化水素は乳酸菌以外の細菌に対して抗菌性を示すことを確認しました。  これらの結果から、野生型の母乳を飲むと菌の多様性が抑えられる仕組みとして、乳子の消化管内で産生される過酸化水素が外部から侵入してくる細菌群から選別し乳酸菌を優先的に届けていることが考えられました。人においても母乳を飲んでいる赤ちゃんの菌の多様性は抑えられており、母乳摂取を止めると多様性が増えていくことが知られています。しかし今回、人の母乳を用いた実験ではアミノ酸代謝による過酸化水素産生はマウスに比べてかなり低いことが示されました。この結果は、人の赤ちゃんの腸内細菌叢では乳酸菌がそれほど増えない理由の説明につながるかもしれません(人の赤ちゃんの優占菌はビフィズス菌とされています)。   今後の展開  長い間、母乳育児が子の生体機能に有利に働くことが示唆されてきましたが、母乳成分による生化学的なメカニズムの存在は不明でした。また、ヒトやマウスも含め多くの動物において母乳が哺乳期間中の子の腸内細菌叢の多様性を抑えることが明らかとなっていますが、その生物学的な意義も不明です。本研究結果により、過酸化水素をはじめとした活性酸素を有効利用することで腸内細菌叢形成過程において菌の多様性を制御できる可能性が示され、さらにLAO1欠損マウスを用いることで乳児期の腸内細菌の多様性の違いが生後の生体機能にどのような影響を与えているかを調べることが可能となります。現在、脳機能や代謝機能など広く検討を行っています。 注1) LAO1:L型のアミノ酸を異化し、ケト酸とアンモニア、過酸化水素を産生するフラビン酵素。 注2) 野生型:遺伝子改変などを行っていない通常のマウス。 注3) 菌の多様性:細菌の種類の多さ。 ▼本件に関する問い合わせ先 東京農工大学大学院農学研究院動物生命科学部門 准教授 永岡 謙太郎(ながおか けんたろう) TEL:042-367-5767 FAX:042-367-5767 メール:nagaokak@cc.tuat.ac.jp 【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/

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