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崇城大学(熊本市西区)生物生命学部応用微生物工学科の原島俊教授と浴野圭輔准教授が日揮株式会社、奈良先端科学技術大学院大学と取り組む「ロバスト性微生物およびシンプル生産プロセスの開発」が、このたび国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクトに採択された。
【世界的な背景と崇城大学の研究】
近年、バイオテクノロジーを用いた経済活動は''BioEconomy''と呼ばれ、世界的にも多くの国で政策提言に取り上げられている。こうした中NEDOは、植物や微生物の細胞が持つ物質生産能を最大限に引き出した細胞「スマートセル」を構築し、化学合成では生産が難しい有用物質の創製、または従来法の生産性を凌駕する「スマートセルインダストリー」の実現を目指したプロジェクトを進めている。
このたびNEDOでは、「植物等の生物を用いた高機能生産技術の開発」のテーマのもとで研究を公募。スマートセル関連技術の社会実装推進に向けた先導研究として、崇城大学と日揮株式会社、奈良先端科学技術大学院大学が応募した「ロバスト性微生物(※)およびシンプル生産プロセスの開発」など8テーマが研究助成事業に採択された。
原島教授と浴野准教授は、従来の突然変異技術によっては分離が成功していない「複合ストレスに耐性のある酵母」の育種を目的として、これまでに提案されたことのない「異数体育種工学」と命名した全く新しい育種技術を提案した。
【異数体育種工学とは】
異数体とは、正常な染色体構成と違って、特定の染色体の数が増減している細胞であり、体細胞分裂や減数分裂における染色体の不均等分離によって生じるもの。ヒトでもっともよく知られている例としては、21番染色体が正常な2本ではなく3本になるために起こってくるダウン症候群がある。また近年では、がん細胞の旺盛な増殖能が異数性や倍数性に起因することがわかってきている。
このように、異数性は通常、ヒトなどでは好ましくない表現型を引き起こす一方、植物や微生物では、異数性によって人類にとって有用な形質が現れた例も知られている。異数体細胞においては、染色体が1本ないし数本丸ごと増減することから、非常に多くの遺伝子の発現バランスが大規模に変化するため、通常の正倍数体では現れない形質が出現したためであろうと考えられている。
原島教授のアイデアは、これまで変異株の分離に用いられてきた1倍体(酵母の1倍体細胞は16本の染色体を持つ)ではなく、10(染色体数160本)ないし12倍体(染色体数192本)などの''超''高次倍数体を親株とし、さらに、染色体の不均等分離を促進する微小管重合阻害剤も使うことにより、天文学的な種類の異数体細胞集団を誘導し、そうした多様な染色体構成と大規模発現変動を示す異数体細胞集団から、複合ストレスに耐性となった変異株をスクリーニングするというものである。
【これからの研究展開】
異数体育種工学は、これまで誰からも提案されたことがない視点でアプローチする研究テーマである。異数体育種工学の確立により、スマートセルインダストリーの実現に向けて基礎研究を行う大学が応用研究を行う企業とチームを組むことで、技術の社会実装が可能となり、持続可能な社会の構築に貢献できることを願っている。
(※)ロバスト性微生物
ストレスに対して耐性を持つ強靭な微生物のこと
■関連ニュース
スマートセル関連技術の社会実装推進に向けた先導研究8テーマを採択(NEDOホームページ)
http://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101003.html
▼本件に関する問い合わせ先
崇城大学 生物生命学部応用微生物工学科
教授 原島 俊
TEL:096-326-3837(直通)
FAX: 096-326-3000
メール:harashima@bio.sojo-u.ac.jp
【リリース発信元】 大学プレスセンター
https://www.u-presscenter.jp/