スポーツ庁「FUN+WALK PROJECT」を支持する声明

日本運動疫学会

日本運動疫学会は、働き盛り世代のスポーツ参画人口拡大を目指したスポーツ庁の「FUN+WALK PROJECT」を支持します。

1.声明
 日本運動疫学会は、働き盛り世代のスポーツ参画人口拡大を目指したスポーツ庁の「FUN+WALK PROJECT」(*1)を支持します。

2.概要
  スポーツ庁は、「楽しい」と「歩く」を組み合わせて、スポーツに取り組むきっかけを促す「FUN+WALK PROJECT」の開始を発表しました。20~40歳代のいわゆるビジネスパーソンのスポーツ実施率は低く、国民全体のスポーツ実施率の向上のためには、ビジネスパーソンの実施率を引き上げることが重要とされています。「FUN + WALK PROJECT」は、これらビジネスパーソンを中心的なターゲットとして、普段の生活から気軽に取り入れることのできる「歩くこと」に焦点を当てた、スポーツをする時間の取れない働き盛り世代に対する環境整備を目指したプロジェクトです。2018年3月からは、スニーカー通勤やソールの厚い革靴、リュックでの通勤など“歩きやすい服装”を奨励する第1弾のキャンペーンがスタートします。このキャンペーンでは1日の歩数を普段よりも1000歩増加させることを目標としています。また、「FUN+WALK PROJECT」は民間企業や団体と連携しながら社会全体を盛り上げ、活動の普及啓発を行っていくこととしています。身体活動(*2)による国民の健康の保持・増進効果や身体活動の促進方法を研究している日本運動疫学会は「FUN + WALK PROJECT」を支持し、特にその評価・検証の重要性を考慮しつつ、積極的に協力していきます。

3.声明の背景
2010年、世界保健機関(WHO)は、国家レベルの政策立案者を対象に、健康のための身体活動に関する国際勧告を発表しました(*3)。2012年、世界トップレベルの医学誌である「ランセット」が身体活動不足の特集号(*4)を組み、身体活動不足は世界的な大流行(パンデミック)の状態であること、健康上の悪影響はタバコと同等であること、1年間で全世界の530万人が身体活動不足が原因で死亡していると報告しています。2016年に発表された「ランセット」の特集第2報(*5)は、世界における身体活動不足の状況に大きな変化がないことを憂慮し、この問題を解決するためには、多部門の協働と対策の規模拡大(スケールアップ)が必要であることを指摘しています。
エコロジカルモデル(*6)では、多くの人に影響を与える「環境」を整備することによってポピュレーションレベルでの身体活動促進を行うことができ、かつ個人を対象としたプログラムも効果的に機能する可能性が考えられています。今回のスポーツ庁の「FUN+WALK PROJECT」は、身体活動・スポーツに関する環境の改善に着目した多部門の協働による大規模キャンペーンであり、ポピュレーションレベルにおける身体活動量の増加が期待されます。今回目標値として掲げられた1日1000歩の増加(10分の身体活動時間の増加)が達成されれば、個人に対してはがんをはじめとした生活習慣病や死亡に対するリスクの3~4%の軽減が期待できます。さらに、多くの人が歩数を1000歩ずつ増加すれば国民の平均値は確実にシフトし、国民医療費抑制等の国民全体への大きな効果も期待できます。しかし同時に、国内外の多くの研究によって、身体活動を地域・国全体のレベルで高めていくことは非常に難しい課題であることも分かっています。キャンペーンが本当に社会的に良い効果をもたらすためには、これら身体活動の「普及戦略」に関する科学的知見に基づき、キャンペーンをしっかりと評価・検証し、定期的に改善を図りながら長期的に取り組んでいくことが必要と考えられます。
タバコ問題に対しては、世界中で科学的根拠に基づいたさまざまな対策がなされ、多くの国においてその成果を確認するに至っています。日本運動疫学会は、身体活動不足の問題についても、運動疫学研究に基づいた効果的な公衆衛生対策を立ち上げるとともに、さまざまなアプローチを展開して問題を解決する必要があると考えています。 以上のことから、本学会はスポーツ庁の「FUN+WALK PROJECT」を支持し、積極的に協力する旨の声明を発表します。

4.日本運動疫学会の取り組み
日本運動疫学会は「運動および身体活動と健康に関連する疫学研究を発展させ、研究成果を社会に還元し、人々の健康の保持・増進に寄与する」ことを目的に活動している学会です。本学会としては必要に応じて、身体活動と健康に関する科学的根拠の提供、イベント等への講師派遣、およびプロジェクトの運営・評価のための委員やアドバイザーの派遣等、積極的に参画し、「FUN + WALK PROJECT」の目標達成のために貢献してまいります。

5.用語解説
*1  FUN+Walk PROJECT
     http://funpluswalk.go.jp/
*2 身体活動
からだを動かすこと。安静にしている状態よりも多くのエネルギーを消費する全ての動作を指します。日常生活における労働、家事、通勤・通学等の「生活活動」と、体力の維持・向上を目的とし、計画的・継続的に実施される「運動」の2つに分けられます(厚生労働省「身体活動基準2013」より)。
*3  健康のための身体活動に関する国際勧告(WHO)日本語版
   http://www.nibiohn.go.jp/files/kenzo20120306.pdf
*4 ランセットの身体活動特集号(第1報、2012年)
  http://www.thelancet.com/series/physical-activity
*5 ランセットの身体活動特集号(第2報、2016年)
  http://www.thelancet.com/series/physical-activity-2016
*6 エコロジカルモデル
  健康行動自体は個人が行うものですが、その行動には、個人、個人間、コミュニティレベル、環境・政策といった要因が相互に影響を及ぼし合うため、介入にあたってはこの多重レベルへの包括的な取り組みが重要であることを示したモデルです。

6.声明に関するお問い合わせ先
   東京医科大学 公衆衛生学分野
   主任教授: 井上茂(いのうえ しげる) <日本運動疫学会理事長>
   TEL: 03-3351-6141(内線237
   FAX: 03-3353-0162
   E-mail: jaee-info@gmail.com
   東京医科大学公衆衛生学分野 http://www.tmu-ph.ac/
   日本運動疫学会 http://jaee.umin.jp/

以上

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