日本運動疫学会は、新型コロナウイルス感染症対策における外出自粛の要請にともなう身体活動不足や座りすぎによる健康被害を防ぐために、家の中やその周辺において人と人との距離を充分にとって実施する身体活動を推奨します。
この度の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大に際し亡くなられた方々に謹んでお悔やみを申しあげますとともに、罹患された皆様に心よりお見舞い申しあげます。また、感染拡大防止や治療に尽力されておられる皆さまに、心から敬意を表するとともに、深く感謝いたします。日本運動疫学会は、「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針*」における外出自粛要請や、密閉、密集、密接の「三つの密」を避ける方針に賛同いたします。
* 新型コロナウイルス感染症対策本部(2020年4月16日変更版) https://www.kantei.go.jp/jp/singi/novel_coronavirus/th_siryou/kihon_h_0416.pdf
1.声明
日本運動疫学会は、新型コロナウイルス感染症対策における外出自粛の要請にともなう身体活動*不足や座りすぎによる健康被害を防ぐために、「家の中やその周辺において人と人との距離を充分にとって実施する身体活動」を推奨します。
* からだを動かすこと。安静にしている状態よりも多くのエネルギーを消費する全ての動作を指します。「運動」と「生活活動」の2つに分けられます。(厚生労働省「健康づくりのための身体活動基準2013」)
2.声明の概要
「新型コロナウイルス感染症対策の基本対処方針」を受けて、国民の外出自粛に対する認識が高まっています。感染拡大の防止が最優先事項ですが、外出自粛を「家の中でじっとしていること」と解釈してしまうことによる著しい身体活動不足や長時間の座りすぎ(座位行動*2)による健康被害が懸念されます。日本運動疫学会は、運動および身体活動と健康に関連する疫学研究を発展させ、研究成果を社会に還元し、人々の健康の保持・増進に寄与することを目的に活動している学会であり、このような状況にあっても、人々が自らの心身を健康に保つために、自らの感染や感染の拡大防止に充分に配慮した上で、身体活動の実践や座りすぎの防止に取り組むことを推奨する声明を発表します。
3.声明の背景
世界保健機関(WHO)は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は世界的な大流行(パンデミック)の状態であり、すでに全世界の10万人以上が死亡したと報告しています。そして、このパンデミックによって多くの人が家の中にとどまることは、身体活動および社会的交流の減少をもたらし、身体的および精神的健康に悪影響を及ぼす可能性があると指摘しています。
このような状況にあっても、少しでも身体活動を増やし座位行動を減らすことは、心身の体調を整え、感染を予防する上で重要です。また、長期的には体重の適正化や生活習慣病のリスク軽減に貢献します。さらに、身体活動は、骨の強度や筋量を維持し、筋力を向上させ、バランス能力や柔軟性、持久力を向上させます。このことは、高齢者にとっては、バランス能力を改善し転倒やけがを防ぐのに役立ち、子どもたちにとっては、健康的な発育発達を促します。そして、身体活動やスポーツを通して、子どもたちは基本的な運動スキルを発達させると同時に、社会性を身につけることもできます。また、身体活動は、メンタルヘルスを改善し、うつ病や認知機能低下のリスクを軽減することで認知症の発症を遅らせます。
COVID-19の感染拡大の防止が最優先事項ですが
、著しい身体活動不足や長時間の座位行動の危険性に気づかずにいることは
、パンデミック後の社会で大きな健康問題になることが予想されます
。また
、今回の出来事がきっかけとなって
、不活動や座りすぎが人々の習慣として定着してしまうことが懸念されます
。そこで
、日本運動疫学会は
、外出自粛期間における身体活動の実践や座りすぎの防止に取り組むことを推奨する声明を発表します
。
4.身体活動や座位行動に関する推奨
以下の推奨は、本声明の発表時点(2020年4月18日)における情報に基づく、健康な人のための推奨です。疾患を持っている人は医師の指示に従ってください。また、今後の感染症状況の変化やCOVID-19に関する新たな知見によって推奨内容が変わる可能性がありますので、行政機関や感染症関連学会から発信されるCOVID-19の予防や管理に関する正確な情報を入手して、それぞれの推奨内容を判断してください。
(1)発熱や咳などの風邪(かぜ)様症状、だるさや息苦しさ、体調不良がある場合は運動(*3)を控えて安静にしましょう。
(2)「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針(2020年4月16日変更版)」において、屋外での運動や散歩などは生活の維持のために必要なものとされて外出の自粛の対象となっておらず、家の周辺など屋外で運動したり、散歩したりすることに問題はありません。ただし、自らの感染や感染の拡大防止のために、周りの人との距離(2メートル以上)を保つように注意するとともに、人が集まらない場所で実施しましょう。
(3)屋外で運動する際には、他の人が触れる場所(例えば、公園の遊具など)にできるだけ触らないようにしましょう。ウイルスが付着した手で目や鼻、口などを触ることが感染の原因となるからです。顔には触らないという意識が大切です。どうしても顔に触れたい場合には、手を洗ってから触れることが原則です。また、帰宅したらすぐに手を洗う、あるいはアルコールによる手指の消毒を行いましょう。
(4)家の中で、階段を上り降りしたり、居間や庭で柔軟運動したりするだけでも身体活動を増やすことができます。また、家の中で身体活動を促進するゲーム、テレビ番組、ラジオ放送、インターネットの動画を利用するなど様々な工夫をしてみましょう。その際、30分に一回以上、数分間程度、窓を全開しましょう。複数の窓がある場合は二方向の壁の窓を開放し、窓が一つしかない場合はドアを開けることを心がけましょう。
(5)家の中で運動する場合は、少ない人数で、間隔を2メートル以上離し、十分に換気した状態で行いましょう。特に、激しい呼気や大きな発声を伴う運動は感染のリスクとなることが指摘されていることから、そのような運動を行う場合は1人で行うか、他の人との間隔をさらに空けて行いましょう。
(6)長時間の座位行動(座りすぎ)をできるだけ減らし、できれば30分ごとに3分程度、少なくとも1時間に5分程度は、立ち上がって体を動かすようにしましょう。
5.年代別にみた身体活動や座位行動に関する推奨
(1)全世代
家の中やその周辺において人と人との距離を充分にとって実施する身体活動を推奨します。
厚生労働省の「健康づくりのための身体活動指針(アクティブガイド)」は全世代に向けて「プラス10(テン)」、まずは今より10分多くからだを動かすことを奨励しています。ご自身の世代で奨励された身体活動量に向けて「プラス10」してみましょう。少しでも良いので、それぞれの世代で奨励された身体活動量に向けてチャレンジしてみましょう。
(2)幼児期
文部科学省の幼児期運動指針は「毎日、合計60分以上、楽しく体を動かすこと」を身体活動量の目標として奨励しています。子どものいる家庭では、一緒に公園で遊んだり、家の周辺を散歩したりすることで、家族みんなの健康を維持しましょう。他の人が触っている可能性がある遊具は触らないようにするか、触った後は必ず手を洗うようにしましょう。
(3)6歳~17歳
「1日60分以上の身体活動」が奨励されています。屋外で他の子どもとの接触が少ない運動や家の中でテレビや動画を利用した運動を行いましょう。遊具等にはできるだけ触れないこと、顔を触らないこと、触った後は必ず手を洗うようにしましょう。
(4)18歳~64歳
「アクティブガイド」は「1日60分、元気に体を動かすこと」を身体活動量の目標として奨励しています。家の掃除なども身体活動です。生活のさまざまな場面で活動的に過ごしましょう。
(5)65歳以上
「アクティブガイド」は「1日40分、ゆっくりでもいいので体を動かすこと」を身体活動量の目標として奨励しています。座りすぎを避け、人が少ない場所での散歩など、さまざまな場面で体を動かす工夫をしましょう。毎日、ラジオ体操やテレビ体操を行うことを習慣化するのもいいでしょう。
6.用語解説
*1 身体活動
からだを動かすこと。安静にしている状態よりも多くのエネルギーを消費する全ての動作を指す。
運動(*3)と生活活動(*4)の2つに分けられる(厚生労働省「健康づくりのための身体活動基準2013」)
*2 座位行動
座位、半臥位または臥位の状態で行われるエネルギー消費量が1.5メッツ以下のすべての覚醒行動のこと。
※メッツ:安静状態のエネルギー消費量を 1とした時にその何倍のエネルギー消費量かを表す単位
*3 運動
体力の維持・向上を目的とし、計画的・意図的に実施する身体活動のこと。
*4 生活活動
日常生活における労働や家事における身体活動のこと。
7.外出自粛期間における身体活動の増加や座位行動の減少に役立つ情報
(1)身体活動や座位行動に関する情報
・NHK:ラジオ体操
https://www4.nhk.or.jp/radio-taisou/
・NHK:みんなの体操
https://www.nhk.jp/p/minna-taisou/ts/13PVMRP686/
・国立健康・栄養研究所:新型コロナウイルス感染症対策としての栄養・身体活動(運動)
https://www.nibiohn.go.jp/eiken/corona/pdf/corona_japanese.pdf
・国立健康・栄養研究所:避難生活におけるエコノミークラス症候群・自立度低下予防の運動・身体活動
https://www.nsca-japan.or.jp/pdf/charity_miyaji.pdf
・厚生労働省:運動施策の推進
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/undou/index.html
・厚生労働省:健康づくりのための身体活動指針(アクティブガイド)
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002xple-att/2r9852000002xpr1.pdf
・文部科学省:幼児期運動指針
https://www.mext.go.jp/a_menu/sports/undousisin/1319192.htm
・国際機関Active Healthy Kids Global Alliance日本チーム
:Active Healthy Kids Global Alliance
(
http://www.activehealthykids.org/)の翻訳と子どもの運動遊びを紹介
http://activekids.jp/
http://activekids.jp/wp-content/uploads/2020/04/website_exercise-for-kids.pdf
(2)身体活動や座位行動に関する動画
・同志社大学スポーツ医科学研究センター(日本運動疫学会推薦)
https://www.youtube.com/channel/UCFkLjDyju3sbrsmxkxXUrdQ
・名城大学・香村恵介先生:家でもできる子どもの運動
https://www.youtube.com/channel/UC4PJNKQW-CvD3SV0C406Qog/
・NHK:ラジオ体操
ラジオ体操第1
https://www.youtube.com/watch?v=feSVtC1BSeQ
ラジオ体操第2
https://www.youtube.com/watch?v=dzQIMo-Xvyg
・NHK:みんなの体操
https://www.nhk.or.jp/d-garage-mov/movie/222-3.html
・NHK:みんなで筋肉体操
https://www.nhk.or.jp/d-garage/program/?program=82
・NHK:筋肉元気体操 ~自宅でできる”やさしい”筋トレ!~
https://www.youtube.com/watch?v=Pzd96jiJZv0
・NHK:筋肉わんぱく体操 ~子どもと一緒に 筋トレにチャレンジ!~
https://www.youtube.com/watch?v=2apJI-fUqLE
・歩く人:歩く人体操 コロナウイルス対策(日本語)
https://www.youtube.com/channel/UCR8FRaRc6y7ogxRjeCl8Rkw/
・歩く人:歩く人体操 コロナウイルス対策(英語版)
https://youtu.be/5F5GlzqlNSg
(3)各種学会からの身体活動や座位行動に関する情報
・日本老年医学会:「新型コロナウイルス感染症」 高齢者として気をつけたいポイント
https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/citizen/coronavirus.html
・日本健康心理学会:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応についての情報提供
http://jahp.wdc-jp.com/news/covid.html
(4)WHOや米国スポーツ医学会の身体活動や座位行動に関する情報(英語)
・WHO
:Be Active during COVID-19
https://www.who.int/news-room/q-a-detail/be-active-during-covid-19
・WHO/Europe
:How to stay physically active during COVID-19 self-quarantine
http://www.euro.who.int/en/health-topics/disease-prevention/physical-activity/news/news/2020/3/how-to-stay-physically-active-during-covid-19-self-quarantine
・ISBNPA
:Physical Activity Can Be Helpful in the Coronavirus Pandemic - a letter from Jim Sallis and Michael Pratt
https://www.isbnpa.org/index.php?r=article/view&id=146
・ACSM
:Staying Physically Active During the COVID-19 Pandemic
https://www.acsm.org/read-research/newsroom/news-releases/news-detail/2020/03/16/staying-physically-active-during-covid-19-pandemic
(5)情報提供を準備している学会
・日本臨床運動療法学会と日本心臓リハビリテーション学会:在宅運動療法動画コンテンツ公開
http://www.kmuhsc.net/clext/
http://www.jacr.jp/web/
8.声明に関するお問い合わせ先
日本運動疫学会 事務局
(東京医科大学 公衆衛生学分野内)
日本運動疫学会 理事長: 井上 茂 (いのうえ しげる)
TEL
: 03-3351-6141
(内線237
)
FAX
: 03-3353-0162
E-mail
: jaee-info@gmail.com
日本運動疫学会
http://jaee.umin.jp/
東京医科大学公衆衛生学分野
http://www.tmu-ph.ac/
以上