【昭和医科大学】漢方薬・大建中湯が消化管の微小血流を増加させる仕組みを解明 ― 術後回復促進の科学的根拠に ―

昭和医科大学

昭和医科大学(東京都品川区、学長:上條由美)大学院医学研究科・生体制御学分野の髙山靖規講師は、大学院生の片山諒さん、砂川正隆教授、東京大学先端科学技術研究センターの加藤真未研究員らとの共同研究により、漢方薬『大建中湯(だいけんちゅうとう)』が消化管の微小血流を増加させる仕組みを分子レベルで明らかにしました。 研究グループは、大建中湯が神経細胞に存在するイオンチャネル「TRPV1」を直接活性化し、さらにカルシウム活性化クロライドチャネル「ANO1」が連携して働くことを示しました。この分子機構により、神経細胞の興奮性が高まり、血管拡張作用を持つ神経ペプチド(CGRP)を介した、消化管の微小血流の増加が生じていると考えられます。本成果は、大建中湯が消化管の術後の回復を促進する作用を分子レベルで裏付けるものであり、漢方薬の科学的根拠(エビデンス)の蓄積につながることが期待されます。 【研究のポイント】 漢方薬・大建中湯が、消化管の術後の回復促進に関わるイオンチャネル*1TRPV1*2を直接活性化することを明らかにしました。 TRPV1とANO1*3という2種類のイオンチャネルが連携して働くことで、消化管の微小血流*4を増加させる分子メカニズムを解明しました。 大建中湯による消化管の微小血流増加は、主に生姜由来成分(6-shogaol、6-gingerol)によることを明らかにしました。 大建中湯は、大腸がんの進展への関与が報告されているTRPV4には作用せず、大建中湯の安全性を支持する結果が得られました。 【研究背景】  消化管手術後は、手術を行った部位の微小血流が良好であるほど組織の回復が促進されることが知られています。このため、微小血流の改善を目的として漢方薬・大建中湯が広く用いられています。  これまでの研究では、大建中湯に含まれる成分が、感覚神経に存在するイオンチャネル「TRPチャネル*5」を刺激し、その結果として神経末端から血管拡張作用をもつCGRP*6が放出され、血流が増加すると考えられてきました。しかし、大建中湯そのものがTRPチャネルを直接活性化するかどうかは十分に解明されていませんでした。 【研究内容】  本研究では、イオンチャネルの働きを測定できる「ホールセルパッチクランプ法*7」という電気生理学的手法を用いて、実際の服用時に近い濃度の大建中湯がTRPチャネルに及ぼす影響を解析しました。 1.大建中湯はTRPV1を選択的に活性化  TRPV1は唐辛子の辛味成分カプサイシンを感知する受容体として知られています。一方、TRPA1はワサビなどの刺激成分を感知する受容体です。  大建中湯を作用させた結果、TRPA1ではほとんど反応がみられなかった一方、TRPV1は強く活性化されることが明らかとなりました。 2.TRPV1の活性化によってANO1も強く活性化  感覚神経においてTRPV1は単独で神経興奮に関わるわけではありません。TRPV1活性化に引き続いて、アノクタミン1(ANO1(アノワン))というイオンチャネルが活性化することにより、感覚神経の興奮は高まります。そこで、TRPV1とANO1を同時に発現させた細胞を用いて解析したところ、TRPV1がわずかに活性化される濃度の大建中湯でもANO1が顕著に活性化されることが分かりました。  この結果から、大建中湯による消化管の微小血流増加には、TRPV1とANO1の協調的な働きが重要であることが示唆されました。 3.生姜由来成分がTRPV1活性化に大きく寄与  大建中湯に含まれる主要成分を比較したところ、山椒由来のHydroxy-α-sanshoolによるTRPV1活性化は弱く、生姜由来成分である6-shogaolと6-gingerolは強い活性化作用を示しました。  このことから、大建中湯による血流増加作用には、生姜由来成分が中心的な役割を果たしていることが示唆されました。 4. 大建中湯はTRPV4には作用しなかった  TRPV4は大腸がんの進展との関連が報告されているイオンチャネルです。本研究では、大建中湯がTRPV4へ及ぼす影響についても解析しましが、TRPV1を最大活性させる濃度であっても、TRPV4への作用は認められませんでした。  この結果は、本研究の範囲では、大建中湯がTRPV4を介して大腸がん再発リスクを高める可能性は低いことを示唆しています。 【今後の展開】  本研究は、大建中湯がTRPV1を直接活性化し、ANO1との連携によって消化管の微小血流を増加させる仕組みを初めて示しました。また、大建中湯の服用によって大腸がん再発リスクを高める可能性が低いことも分析しました。  本成果は、大建中湯による消化管の術後の回復促進作用を分子レベルで裏付ける知見であり、漢方薬の科学的根拠の充実につながることが期待されます。  今後は動物モデルや臨床研究を通じて本研究成果をさらに検証し、消化管手術後をはじめとしたさまざまな疾患への応用につながることが期待されます。 【用語説明】 *1 イオンチャネル  細胞膜に存在し、活性化すると細胞内外のナトリウムやカルシウムなどのイオンの通り道となる。細胞内外の環境変化に伴い、細胞の働きや恒常性を調節するタンパク質。 *2 TRPV1  主に末梢の痛み神経に発現しているイオンチャネル。唐辛子辛味成分であるカプサイシンや43℃以上の熱刺激によって活性化し、痛み神経を興奮させ、焼けるような痛み(灼熱痛)を引き起こす。 *3 ANO1  細胞内カルシウム濃度の上昇によって活性化するクロライドチャネル。全身の色々な細胞に発現しており、末梢の痛み神経においては、TRPV1と協調して神経の興奮を増強する。 *4 微小血流  毛細血管などの非常に細い血管を流れる血液の流れ。組織への酸素や栄養の供給に重要。 *5 TRPチャネル  Transient Receptor Potentialチャネルの略称。TRPスーパーファミリーを形成しており、TRPV1やTRPV4など複数のTRPチャネルサブタイプが存在する。温度や痛み、化学物質などの刺激の感知に関わっており、全身の細胞に発現している。 *6 CGRP  カルシトニン遺伝子関連ペプチド。感覚神経の興奮と共に神経末端から放出される神経ペプチドの1種。強い血管拡張作用がある。 *7 ホールセルパッチクランプ法  生体膜におけるイオンチャネルの活性化を調べるために、イオンチャネルを介して移動するイオン流動を電流変化として測定する間接的な実験手法。 【研究成果の公表情報】 論文タイトル: Japanese traditional medicine Daikenchuto (TJ–100) selectively activates TRPV1 leading to ANO1 interaction in heterologous expression systems  (漢方薬・大建中湯(TJ-100)は、異種発現系においてTRPV1を選択的に活性化し、ANO1との相互作用を引き起こす) 著者: Ryo Katayama1, 3, Mami Kato2, 3, Yasunori Takayama1,*, Masataka Sunagawa1 1昭和医科大学 大学院医学研究科,2東京大学 先端科学技術研究センター, 3同等貢献,*責任著者 掲載誌: PAIN RESEARCH(2026年6月24日掲載) DOI: https://doi.org/10.11154/pain.41.98 掲載URL: https://www.jstage.jst.go.jp/article/pain/41/1/41_98/_article/-char/en 研究助成: 日本学術振興会 科研費、上原記念生命科学財団の支援により実施 ▼本件に関する問い合わせ先  昭和医科大学 大学院医学研究科 生体制御学分野 講師  髙山 靖規(たかやま やすのり)  TEL: 03-3784-8110  E-mail: ytakayama@med.showa-u.ac.jp ▼本件リリース元  学校法人 昭和医科大学 総務部 総務課 大学広報係  TEL: 03-3784-8059  E-mail: press@ofc.showa-u.ac.jp 【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/

その他のリリース

話題のリリース

機能と特徴

お知らせ