【広島大学・学習院大学・神戸大学】ゼニゴケのクローン繁殖を誘導する遺伝子を発見―農作物種を含むさまざまな植物への応用に期待―

学習院大学

ポイント ・ゼニゴケのクローン繁殖体形成に必須の新規遺伝子を発見しました。 ・この遺伝子を活性化させることで、クローン繁殖体の形成を誘導することに成功しました。 ・本研究の成果は、植物がクローンで増えるメカニズムの解明やその人為的制御手法の開発に貢献するとともに、農作物種を含むさまざまな植物への応用が期待されます。 ■概要  広島大学大学院統合生命科学研究科の平川有宇樹 教授と髙橋剛 研究員の研究グループは、学習院大学理学部生命科学科/大学院自然科学研究科 清末知宏 教授、山屋沙織 大学院生(研究当時)、英国Cambridge大学 Jim Haseloff 教授、Facundo Romani 博士、神戸大学大学院理学研究科 石崎公庸 教授、広島大学大学院統合生命科学研究科 嶋村正樹 教授らと共同で、コケ植物の一種であるゼニゴケがクローン繁殖体を発生させる引き金となる遺伝子を発見しました。  ゼニゴケは無性芽と呼ばれる小さなクローン繁殖体を自身の体から生み出し、雨水などによって散布されることで個体数を増やすことができます。本研究で発見した遺伝子「GEMMIFER(ジェミファー)」は無性芽の形成に必須の遺伝子であり、さらに、この遺伝子を活性化させると無性芽形成を人為的に誘導できることが分かりました。本研究の成果は、植物がクローン繁殖を行うメカニズムの解明やその人為的制御方法の開発に重要な知見をもたらすと考えられます。  本研究は、国際学術誌Current Biologyのオンライン版で2026年5月5日午前0時(日本時間)に掲載されました。 ■論文情報 雑誌名:Current Biology タイトル: Initiation of asexual reproduction by the AP2/ERF gene GEMMIFER in Marchantia polymorpha 著者:Go Takahashi(髙橋剛), Saori Yamaya(山屋沙織), Facundo Romani, Ignacy Bonter, Kimitsune Ishizaki(石崎公庸), Masaki Shimamura(嶋村正樹), Tomohiro Kiyosue(清末知宏), Jim Haseloff, Yuki Hirakawa*(平川有宇樹) DOI: 10.1016/j.cub.2026.03.083 論文URL:https://www.cell.com/current-biology/fulltext/S0960-9822(26)00431-8 (open access) ■背景  植物は、雄(花粉)と雌(雌しべ)の受粉によって種子をつくるといった有性生殖の他に、無性生殖によっても繁殖します。無性生殖では、不定芽、塊茎、塊根などのさまざまな栄養器官において、配偶子(精子や卵)の形成を経ずにクローン体が生じます。短期間に多くの個体を生産できる繁殖の速さや、雌雄の出会いを必要としない生殖効率の高さから、無性生殖は植物の繁栄を支える重要な仕組みの一つとなっています。また、生殖において遺伝子の混合を伴わないことから、農作物の品質のばらつきを抑える上で有用な仕組みでもあります。しかしながら、植物の無性生殖が起こる発生学的なメカニズムに関する知見は少なく、不明な点が多く残っています。  近年、分子遺伝学的解析の可能なモデル生物として、コケ植物タイ類のゼニゴケが注目されています。ゼニゴケは、胞子を介した有性生殖の他に、無性芽と呼ばれるクローン繁殖体をつくり、この無性芽が雨水などによって外部に散布されることでも繁殖します。これまでに無性芽の発生に関する遺伝子の研究が進められてきましたが、無性芽の発生を開始させる引き金となる遺伝子は分かっていませんでした。 ■研究成果の内容  本研究では、無性芽の発生を開始させる遺伝子「GEMMIFER(ジェミファー、短縮表記GMFR)」を発見しました(図1:研究成果の概要)。 1|ゼニゴケの無性芽形成に必須の遺伝子GMFRを発見  研究チームは、先行研究において、CLEペプチドと呼ばれるホルモンの一種がゼニゴケの成長や無性生殖を調節することを見出していました。特に、CLEペプチドの過剰産生株では、無性芽をつくるための器となる構造である「杯状体」が少ないことが分かっていました。この株を用いたトランスクリプト―ム解析によって、発現量の変動する遺伝子群を見つけており、この中には無性芽や杯状体の形成に関与する遺伝子が含まれるのではないか、と考えていました。  本研究では、このうちの一つの遺伝子の働きを抑える実験を行いました。CRISPR-Cas9によるゲノム編集技術と人工miRNAによるノックダウン技術によって遺伝子を不活性化させると、ゼニゴケは無性芽と杯状体をつくれなくなりました(図2)。そのため、この遺伝子は無性芽形成に必須の遺伝子であることが分かりました(「無性芽(GEMMA)をつくる」遺伝子としてGEMMIFER/GMFRと命名)。  さらに、ゼニゴケの中でGMFR遺伝子が発現している部位を調べるため、蛍光タンパク質を利用したプロモーター活性解析を行いました。その結果、無性芽が生じる起点となる「杯状体底部細胞」や「発生初期段階の無性芽細胞(幹細胞)」において、GMFR遺伝子の発現を示す蛍光タンパク質のシグナルが検出されました(図3)。このことから、GMFR遺伝子は無性芽発生のごく初期の段階で働いていると考えられました。 2|GMFR遺伝子の働きを活性化すると無性芽を誘導できる  次に、本遺伝子の機能を詳細に解析するため、薬剤投与によって対象遺伝子を強制的に働かせる(過剰発現)ことができる組換え系統を作出しました。このゼニゴケ株では、薬剤のデキサメタゾンを与えることでGMFR遺伝子の働きを一時的に活性化することができます。デキサメタゾン処理を行ったところ、2日後には無性芽発生の起点となる幹細胞ができることが分かりました(図4)。さらに、デキサメタゾンを除いて育成を続けると、1週間ほどで多数の無性芽が生じました。この無性芽を新しい培地に植え替えると新たな個体として成長することも確認しました。この結果から、GMFR遺伝子を活性化することによって無性芽の起点となる幹細胞がつくられ、無性芽の発生を誘導できることが分かりました。 3|GMFR遺伝子は他の必須遺伝子の発現を高めることで機能する  先行研究において、GMFR遺伝子と同じように無性芽形成に必須の遺伝子が複数報告されていました。ただし、これらの遺伝子を活性化しても無性芽が生じることはありません。GMFR遺伝子とこれらの必須遺伝子との関係を調べるため、定量PCRによる発現解析や二重形質転換株の作出による機能解析を行いました。その結果、GMFR遺伝子は他の必須遺伝子の発現量に影響を与えていることが分かりました。既知の遺伝子の中で特に重要な役割を持つと考えられていたのがGCAM1遺伝子ですが、本研究の結果、GMFR遺伝子はGCAM1遺伝子の発現量を高める働きを持ち、このことが無性芽や杯状体の形成に重要であることが分かりました。 ■今後の展開  本研究により、GMFRという単一の遺伝子が指令を出すことで、無性芽の起点となる幹細胞が生まれ、無性生殖が開始することが分かってきました(図1)。しかし、GMFR遺伝子によって駆動される細胞運命制御のメカニズムの詳細は不明であり、今後解明していく必要があります。GMFR遺伝子はゼニゴケに特有の遺伝子ではなく、無性生殖を行わない種を含む多くの陸上植物が持つことも分かっています。今後の研究においてGMFRの作用機序の詳細が解明できれば、農作物種を含むさまざまな植物のクローン繁殖制御に応用できるかもしれません。また、ゼニゴケの体の中ではGMFR遺伝子が働く時期や強度を調節することで、無性生殖の時期や部位を制御していると考えられます。活性のオン・オフを制御する仕組みの解明も、今後の研究対象として重要です。 ■謝辞 本研究は以下の支援を受けて実施しました。(順不同) ・日本学術振興会科研費(JP22H02676) ・科学技術振興機構 革新的GX技術創出事業(JPMJGX23B0) ・日本学術振興会 地域中核・特色ある研究大学強化促進事業 ・英国バイオテクノロジー・生物科学研究会議(BBSRC) ・公益財団法人 武田科学振興財団 ・公益財団法人 木下記念事業団 ・公益財団法人 内藤記念科学振興財団 ・公益財団法人 住友財団 ・広島大学APC助成 ■参考資料 図1.研究成果の概要 ゼニゴケは、無性芽と呼ばれる小さな繁殖体をつくってクローンで繁殖することができます。本研究ではこの無性芽の発生を開始する際に働く遺伝子を発見しました。 図2.GMFR遺伝子の機能欠損による無性芽・杯状体の形成不全 ゲノム編集技術によりGMFR遺伝子の機能を欠損させたゼニゴケ(右)では、野生株(左)とは異なり無性芽と杯状体がまったく形成されない。やじり(ピンク)は無性芽を含む杯状体を示す。 図3.GMFR遺伝子は無性芽発生のごく初期で発現する 蛍光タンパク質を利用したGMFR遺伝子のプロモーター活性解析。図中、緑色で示す蛍光タンパク質のシグナルが、杯状体底部細胞(矢印)および発生初期の無性芽(アスタリスク)で検出された。 図4.GMFR遺伝子の活性化により誘導される無性芽の発生 (左)薬剤誘導後、無性芽の起点となる細胞(アスタリスク)が生じる。 (右)誘導4日後に薬剤を除去し、さらに1週間育てると多数の無性芽が生じる。 ■お問い合わせ先 研究に関するお問い合わせ先 広島大学大学院統合生命科学研究科 基礎生物学プログラム 教授 平川 有宇樹 TEL:082-424-7455 E-mail:yuki-hirakawa@hiroshima-u.ac.jp 学習院大学理学部生命科学科/大学院自然科学研究科 教授 清末 知宏 E-mail:tomohiro.kiyosue@gakushuin.ac.jp 神戸大学大学院理学研究科 教授 石崎 公庸 E-mail:kimi@emerald.kobe-u.ac.jp 報道に関するお問い合わせ先 広島大学 広報室 TEL:082-424-4518 FAX:082-424-6040 E-mail:koho@hiroshima-u.ac.jp 学習院大学 学長室広報センター TEL:03-5992-1008 FAX:03-5992-9246 E-mail:koho-off@gakushuin.ac.jp 報道に関するお問い合わせ先 広島大学 広報室 TEL:082-424-4518 FAX:082-424-6040 E-mail:koho@hiroshima-u.ac.jp 学習院大学 学長室広報センター TEL:03-5992-1008 FAX:03-5992-9246 E-mail:koho-off@gakushuin.ac.jp 神戸大学 企画部広報課 TEL:078-803-5106 FAX:078-803-5088 E-mail:ppr-kouhoushitsu@office.kobe-u.ac.jp ▼本件に関する問い合わせ先 学長室広報センター TEL:03-5992-1008 FAX:03-5992-9246 メール:koho-off@gakushuin.ac.jp 【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/

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