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芳香浴でテレワーク中の気分やパフォーマンスが改善する可能性を確認 <国立大学法人筑波大学><公益社団法人 日本アロマ環境協会>

公益社団法人 日本アロマ環境協会

 

 
  テレワーク就業者の心身に対する芳香浴の影響を調べました。4週間にわたって日中と夜間に、嗜好する精油(エッセンシャルオイル)を選んで芳香浴を行った結果、プレゼンティーイズム(健康問題が理由で生産性が低下している状態)が減少し、仕事のパフォーマンスが高まる可能性が示唆されました。

 
 コロナ禍を機にテレワークの普及が進む中、オンオフの切り替えの難しさや集中力の低下といった課題も浮き彫りになってきました。これらは仕事のパフォーマンスにも影響を与える可能性があり、効果的な対策が求められています。そこで本研究では、ストレス軽減や睡眠の質向上、仕事のパフォーマンス改善との関連が報告されているアロマテラピーの一手法である芳香浴に注目し、テレワーク就業者の気分、睡眠の質、認知機能、仕事のパフォーマンスに及ぼす影響を検討しました。
 テレワーク就業者30名を対象に精油の香りを用いた芳香浴を行ったところ、開始10分後に、二次元気分尺度の活性度、安定度、快適度の値が有意に上昇しました。また、芳香浴を4週間実施した結果、プレゼンティーイズム(健康問題が理由で生産性が低下している状態)が有意に低下し、テレワーク就業者の気分改善や仕事のパフォーマンス向上に有用である可能性が示されました。
以上のことから、アロマテラピーは、テレワーク就業者の心身に対する手軽で実用的なセルフケアの手段の一つとなり得ると考えられます。

■研究代表者
筑波大学 体育系
水上 勝義 教授


 
研究の背景

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行に伴い、2020年4月の緊急事態宣言を契機としてテ レワークの実施率が急増しました。それ以前は1割未満でしたが、都内企業では2023年7月時点で、45.2%に達しています。テレワークにはワークライフバランス向上などの利点がある一方、コミュニケーション不足や孤独感の増大、運動不足による心身の健康問題が指摘されています。今後もテレワークの継続が予想される中、就業者の心身の健康と仕事の生産性向上は重要な課題です。
 このような状況を受け、厚生労働省はメンタルヘルス対策を推奨していますが、テレワーク就業者のセルフケアに関する研究は未だ限られています。そこで本研究では、ストレス軽減や睡眠の質向上、仕事パフォーマンスの改善との関連が報告されているアロマテラピーに着目し、その一手法である芳香浴注1)をテレワーク就業者のセルフケア手段として行った際の、心理、睡眠、認知機能、仕事パフォーマンスへの影響を明らかにすることを試みました。

 
研究内容と成果

 本研究では、週3日以上のテレワーク勤務を 1 年以上継続していて、精油を日常的に活用していない 健常な 25〜49 歳の男女30名を対象に、精油(エッセンシャルオイル)の香りを用いた芳香浴を4週間実施し、その前後の、心理、睡眠、認知機能、仕事パフォーマンスへの変化を、STAI(State-Trait Anxiety Inventory、状態・特性不安尺度)注2)、POMS®2 注3)、アテネ不眠尺度注4)、のう KNOW オンライン認知検査注5)、SPQ 東大1項目版注6)により検討しました。また、初回の芳香浴の直前と開始10分後の気分変化について、二次元気分尺度(TDMS-ST)注7)を用いて測定しました。さらに、3日間の精油使用における睡眠構造および主観的熟睡感の変化について、Fitbit Charge3注8)による測定および起床後熟睡感の自己評価を検討しました。
精油は、日中はローズマリー・シネオールまたはスイートオレンジ、夜間は真正ラベンダーまたはベルガモットの中から、実施時ごとに参加者自身が選択して使用し、対照として精製水を用いてクロスオーバー試験注9)を行いました。
芳香浴を4週間実施した結果、SPQ 東大1項目版によるプレゼンティーイズム注10)の値は低下し、精製水における変化量と有意差が認められました(p<0.05)。また、芳香浴開始10分後に、二次元気分尺度の活性度、安定度、快適度の値がいずれも有意に上昇しました(p<0.05)。一方で、芳香浴後の睡眠に関しては、有意な変化は得られませんでした。
以上のことから、芳香浴がテレワーク就業者の気分改善や仕事のパフォーマンス向上に有用である可能性が示唆されました。

 
今後の展開

 本研究により、精油の芳香浴がテレワーク就業者の気分改善と仕事のパフォーマンス向上に寄与する可能性が初めて示されました。テレワークが定着化しつつある中で、就業者に対する有効なセルフケア法 の一つとして、産業衛生の観点からも大きな意義を持つと考えられます。

 
参考図

図1
精油のおよび精製水の4週間使用前後の変化を、STAI、POMS®2成人用短縮版、アテネ不眠尺度、のうKNOW オンライン認知検査、SPQ東大1項目版について測定した結果SPQ東大1項目版において、精油と精製水それぞれにおける変化量の差に有意差を認めた(p=0.03)。 すなわち、精油を4週間使用した場合にプレゼンティーイズムの値は増加した。

図2
テレワーク就業中の14〜16時の間に芳香浴を実施した際の、開始直前と10分後の気分の各成分の平均値の変化
芳香浴開始10分後に、活性度、安定度、快適度の値が有意に増加したことから、芳香浴がテレワーク就業者の心理面に及ぼす、速やかな好ましい影響が示された。

 
用語解説
注1) 芳香浴
精油(エッセンシャルオイル)の香りを空間に拡散して楽しむこと。
注2) STAIS(State-Trait Anxiety Inventory、状態・特性不安尺度)
不安状態(状態不安)と不安になりやすい性格傾向(特性不安)を自己報告により定量的に測定する心理検査。
注3) POMS®2(Profile of Mood States 2nd Edition、気分プロフィール検査)
「怒り〜敵意」「混乱〜当惑」「抑うつ〜落込み」「疲労〜無気力」「緊張〜不安」「活気〜活力」「友好」の7尺度と、ネガティブな気分状態を総合的に表す「TMD 得点」から気分を評価する検査。
注4) アテネ不眠尺度
WHOが作成した不眠症の判定尺度であり、8つの質問項目に対し、4 段階件法(0〜3点)で回答を求め、その合計点から睡眠の質を評価する検査。
注5) のう KNOW オンライン認知検査
認知機能のセルフチェックのためのデジタルツールであり、「脳の反応速度」「注意力」「視覚学習」「記憶力」の4つの尺度から「集中力スコア」および「記憶力スコア」を算出する検査。
注6) SPQ 東大1項目版
平成27年度健康寿命延伸産業創出推進事業「東京大学ワーキング」で開発された、1項目の設問でプレゼンティーイズム(健康問題が理由で生産性が低下している状態)を測定する尺度。
注7) 二次元気分尺度(TDMS-ST)
活性度(Vitality)、安定度(Stability)、快適度(Pleasure)、覚醒度(Arousal)を基準とし、セルフモニタリングにより心理状態の特徴とその変化を視覚的に把握する検査。
注8) Fitbit Charge3
就寝中の心拍数や体動などから各睡眠ステージの時間を測定し、眠りの質を把握する市販のウェアラブルデバイス。
注9) クロスオーバー試験
対象を2群に分け、各群に別々の試験を行い評価した後に、各群の試験法を交換して再度評価する方法。
注10) プレゼンティーイズム(presenteeism)
欠勤にはいたっておらず勤怠管理上は表に出てこないが、健康問題が理由で生産性が低下している状態。
(経済産業省「健康経営オフィスレポート」平成 27 年度発行より)


研究資金
本研究は、公益社団法人 日本アロマ環境協会(AEAJ)の研究費助成を一部受け実施されました。

掲載論文
【題 名】テレワーク就業者の心身に対する精油の香りの影響
(Effects of a scent of essential oils on the mental and physical health of people who work from home)
【著者名】澤井 久子、水上 勝義
【掲載誌】アロマテラピー学雑誌
【掲載日】2025年2月7日
【DOI】10.15035/aeaj.260104

問合わせ先
【研究に関すること】
水上 勝義(みずかみ かつよし)
筑波大学 体育系 教授
URL:https://www.cvs.cs.tsukuba.ac.jp

【取材・報道に関すること】
筑波大学広報局
TEL :029-853-2040
E-mail:kohositu@un.tsukuba.ac.jp

公益社団法人 日本アロマ環境協会(AEAJ) 広報担当
E-mail:aeaj-pr@aromakankyo.or.jp
 

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