【京都産業大学】ジャコビニ・ツィナー彗星でダストは崩壊していなかった~特異な彗星の新たな素顔が偏光撮像観測で明らかに~米国天文学会誌The Planetary Science Journal(オンライン版)に掲載



新中善晴氏(研究機構)、河北秀世教授(理学部・神山天文台長)らの研究グループは、ジャコビニ・ツィナー彗星が2018年に地球に接近した際、独自に開発した偏光撮像装置を用いて観測しデータ解析をしたところ、彗星に含まれているダストについて、粒子サイズの分布が彗星コマの中の位置によらず均一であることが明らかになった。これはコマの中でダストが大規模に崩壊していないことを示す結果である。この彗星のダストには有機分子が豊富に含まれると推定され、彗星コマ環境では崩壊しにくい一方、彗星から放出されたダストが起源とされる10月りゅう座流星群の流星体が、大気飛翔中の発光の途中でバラバラになりやすい特徴も説明できる。




彗星や小惑星をはじめとする太陽系小天体は「太陽系の化石」と呼ばれており、小天体は太陽系誕生時の情報をそのまま真空パックの状態で保持しているタイムカプセルで、当時の環境を解明する手がかりを得られる資料である。太陽系誕生の初期、太陽の周囲をガスや氷、ダストから成る円盤(原始太陽系円盤)が取り巻いており、小惑星、彗星、そして惑星がこの円盤の中で誕生した。彗星の核は氷とダストから成るが、氷の組成比は彗星によって異なり、彗星が多様な環境で誕生したことを裏付けている[図 1]。原始太陽系円盤にあったダストも彗星に含まれているので、彗星のダストを観測・分析することで、彗星の誕生プロセスはもちろん原始惑星系円盤における微惑星の成長メカニズムも明らかにできると期待されている。
新中氏らは国立天文台の 50 センチ公開望遠鏡に、新中氏らの研究グループが開発した偏光撮像装置(PICO)を搭載し、ジャコビニ・ツィナー彗星を観測(観測日 2018 年 9 月16 日)。この彗星に含まれるダストの性質を探るため偏光度の空間分布を取得することが目的で、取得したデータの基礎的な解析において、均一な偏光度を示す可能性があることが分かった。そこで、今回ノイズ源となる彗星の背景を通過する星の影響を可能な限り取り除いたほか、核から離れて暗くなる(カウントが少ない)場所について特に丁寧に解析した結果、彗星核の中心から>10,000 km にわたって偏光度が変化していないことが明らかになった。[図 2][図 3]。これは彗星から放出されたダストの粒子サイズ分布がコマの場所によらず均一であり、ダストが大規模には崩壊していないことを示しており、有機分子が豊富に含まれるダストは彗星コマ環境では崩壊しにくいという、これまでの研究で得られた知見を支持するものであった。
ジャコビニ・ツィナー彗星から放出されたダストが起源とされる「10 月りゅう座流星群」の流星体が大気飛翔中の発光途中でバラバラになりやすい特徴は、彗星コマで大規模なダスト崩壊は見られないという新中氏らの解析結果と一見矛盾するように思える。しかしながらこの現象については説明が可能でダストの主成分が有機分子であった場合、コマ内の環境(最大で数百℃)では昇華しないのに対し、流星体であるダストが大気に突入するさいに最大で 10,000℃まで加熱されることから有機分子の昇華が起こって物質の結合作用が失われ、崩壊したということである。
2010 年代に入るとアルマ望遠鏡やジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡などが登場し、異なる惑星系の様々な進化段階についても詳細に観測できるようになってきている。太陽系の歴史を明らかにできる彗星は、太陽系の比較対象という観点からも研究対象としての存在感を高めてきており、彗星について偏光観測を行えば、本研究のように彗星ごとのダストの性質を明らかにできる。ジャコビニ・ツィナー彗星から検出された有機分子が他の彗星にも普遍的に存在するかについても、分析を深めることが可能で、こうした研究を足がかりとして、彗星ごとのダストの性質の違いや約 46 億年前の原始惑星系円盤中での微惑星形成プロセスの解明、他の惑星系との比較など、応用研究への幅広い展開が期待される。

新中氏は今回の研究成果について「昔から変わり者として知られていたジャコビニ・ツィナー彗星やこの彗星が起源とされる10月りゅう座流星群の謎を一つ明らかにできた。こうした研究を積み重ねることで、太陽系形成に関する理解を深めていくことができると考えている。また本研究では、偏光という光の性質を高精度に測定することが必要であったが、我々のグループで開発した偏光撮像装置PICOが非常に重要な役割を果たすことができた。今後の京都産業大学神山天文台の研究成果にも期待いただきたい」とコメントしている。

 この研究成果は、2023年7月17日(日本時間)に米国天文学会誌The Planetary Science Journal(オンライン版)に掲載された。

むすんで、うみだす。  上賀茂・神山 京都産業大学

関連リンク
・神山天文台の研究チームが参加するコメット・インターセプター彗星探査計画が欧州宇宙機関の新しい探査計画に選ばれました
 https://www.kyoto-su.ac.jp/news/20190621_859_comet.html
・ジャコビニ・ツィナー彗星から複雑な有機物由来の赤外線輝線バンドを検出
 https://www.kyoto-su.ac.jp/news/20191119_859_comet.html
・オーロラの光で探るジャコビニ・ツィナー彗星誕生の現場
https://www.kyoto-su.ac.jp/news/20200413_859_comet.html




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