試合観戦者の満足度は80%以上と高く90%以上に再来場意向があり、観戦後の体験の向上に今後の可能性が期待できると考えられる。
デロイト トーマツ グループ(東京都千代田区、グループCEO:木村研一、以下「デロイト トーマツ」)は、スポーツ観戦・視聴の体験を試合前後も含め可視化・分析することで、スポーツの魅力や価値の向上を支援しています。その一環として、公益社団法人 日本プロサッカーリーグ(東京都千代田区、チェアマン:野々村芳和、以下「Jリーグ」)が実施したスタジアム来場者・配信コンテンツ視聴者へのオンラインアンケートをもとに、独自の視点も加えて分析した「Jリーグが提供する観戦体験分析レポート」(以下「本レポート」)を発行しました。
本レポートは、Jリーグ60クラブの全てのホームゲームの中から国立競技場開催を含む各クラブ4試合ずつを対象に、来場者へのオンラインアンケートにより延べ126,721人から得た回答をもとにしています。また、試合等の配信コンテンツの視聴者にもアンケートを行い延べ6,752人の回答を得ており、観戦体験を比較しています。調査・分析は新規のファン獲得や観客数の増加、エンゲージメント強化施策検討に資するため、来場頻度によりコア層*1とライト層*2に分けて行っており、より良い観戦体験のためのファンとの対話・コミュニケーションそしてパートナーシップを活性化し、Jリーグや所属クラブの発展に貢献することを目指しています。
*1 コア層・・・2022年、23年の2シーズンのスタジアムでの観戦回数がそれぞれ4回以上もしくは2シーズンとも2-3回の方と定義
*2 ライト層・・・2022年、23年の2シーズンのスタジアムでの観戦回数がそれぞれ3回以下もしくは2シーズンのうちどちらかが2-3回の方と定義
■主な分析結果
スタジアムに来場する観戦者と、試合等の配信コンテンツの視聴者の年齢層やJリーグ観戦歴に大きな差はなく、40代~50代が多く、夫や妻と一緒にもしくは一人で観戦する人が多数を占めています。回答者の約8割がコア層(参考:JリーグID保有者の割合は、コア層70%:ライト層30%)であることから、頻繁に来場するファン層に支えられていることがわかります。
来場観戦者の試合全体の満足度は80%を超えており、再来場意向も90%以上と非常に高く、J1は好きな選手を応援する「推し活」の割合が高くなる傾向があり、J2、J3はJ1に比べて地元を応援する意識が高い傾向にあります。
一方、国立競技場開催試合来場者の推奨度は、他のJ1試合よりも高い傾向があり、しかもライト層の方がコア層よりも高い傾向にあります。また一緒に来場する相手はコア層、ライト層ともに「友人・知人」「恋人」が通常の試合より多く、異なる観戦スタイルの傾向がみられました。
来場観戦者と配信コンテンツ視聴者の満足度を比較してみると、試合観戦そのものに対する満足度は来場観戦者の方が高い傾向にありますが、スタジアムでの観戦において、試合後の観戦体験は満足度が低くなる傾向がありました。試合後の余韻を過ごす時間の満足度向上や、次節に向けての観戦意欲向上を目的とした施策について検討の余地があると考えられます。一方、配信コンテンツ視聴者は試合後のコンテンツや情報確認・発信等試合後の満足度が高い傾向にありますが、サードパーティが提供する試合配信に関連したサービスの認知度は低く、利用経験も5%にも満たないことから、関連サービスの利用促進がよりよい視聴体験の提供につながると考えられます。
「Jリーグが提供する観戦体験分析レポート」は下記よりダウンロードしていただけます。
https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/consumer-and-industrial-products/articles/sb/j-league-spectator-experience-2023-report.html
J1は好きな選手を応援する「推し活」の割合が高く、J2、J3はJ1に比べて地元を応援する意識が高い
カテゴリ別のコア層、ライト層のプロファイルを比較すると、共通してコア層は「クラブの応援」が観戦の主目的である一方で、ライト層は「サッカーの試合」「スタジアムの雰囲気」を楽しむ傾向にあります。またJ1の観戦者は、応援しているクラブの観戦に加えて好きな選手を応援する「推し活」の割合も高くなる傾向があります。J2、J3に関しては、J1に比べて地元を応援する意識が高くなっています。
全リーグ共通で40代~50代が多く、夫や妻と一緒にもしくは一人で観戦している人が多く、継続的に観戦している期間は、J1、J2は10年以上、J3はクラブの発足時期にも依存しますが5~10年が多数を占めています。
全カテゴリーに共通して、コア層が約80%を占めており、頻繁に来場するファン層に支えられていることがうかがえます。
観戦全体の満足度はコア層よりライト層が高い傾向、再来場意向は90%以上と総じて高い結果
来場者の満足度、再来場意向ともにシーズンを通して高い傾向にあります。コア層はライト層よりも満足度は低いものの再来場意向は高く、これはコア層は「再来場する」ことを前提とし、かつ期待値も高くなっていることが要因であると考えられ、ライト層についても90%以上が再来場意向があると回答しています。他人に勧めたいという推奨意向はシーズン序盤から徐々に上がっていきますが、終盤になると下がる結果となっています。
また、国立競技場で開催される試合の満足度は、国立競技場以外のスタジアム開催時よりも高い傾向にあり、推奨意向も他の試合に比べて高い傾向がみられました。
観戦前よりも観戦後の体験の方が満足度は低く、コア層、ライト層とも試合結果が満足度へ与える影響の傾向はほぼ同じである。ライト層の方がコア層より勝敗の影響はやや小さい
試合の認知から試合後までの行動を14項目に分類してそれぞれの満足度の平均値を算出し、満足度をカスタマージャーニーマップの形で可視化してみると、観戦のメインコンテンツである「8.試合プレー・判定」の満足度が低い傾向にあり、当然ながら応援するクラブの勝敗が満足度に大きく影響しています。
観戦前の体験よりも観戦後の体験の方が満足度が低くなる傾向があり、試合に行くまでのプロセスを重視する傾向にあると考えられます。コントロールが不可能な試合結果を除いた、試合前後の満足度向上の余地は大きく、特に試合後の余韻を過ごす時間の満足度向上や、次節に向けての観戦意欲向上を目的とした施策について検討の余地があると考えられます。
「スタジアム観戦前の体験」と「応援・サポーターとの交流」が満足度等に大きな影響を与えている
コア層、ライト層に共通している点として「スタジアム観戦前の体験」が満足度、再来場意向、推奨意向に影響力があり、かつその満足度が高いことが挙げられます。一方で「応援・サポーターとの交流」も満足度への影響力があるにも関わらず、その満足度は決して高くないことから、改善することで観戦全体の満足度向上につながると考えられます。また「観戦後の体験」「グッズ」「グルメ」は自身の満足度や再来場の意向に与える影響は低いながらも、推奨意向への影響は高いことが特徴です。
サードパーティが提供する試合配信に関連したサービスは、視聴者への認知度も低く、利用経験も5%に満たないことから、現状は「視聴するのみ」の状態
配信コンテンツ視聴者の年齢層やJリーグを継続的に観戦し始めた時期は来場観戦者のプロファイルと大きな差はなく40代~50代が多く、夫や妻と一緒にもしくは一人で視聴する人が多数で、継続的に観戦している期間も5~10年が多数を占めています。「自宅で」「ライブ配信」を観る人が圧倒的に多く、プライベートな観戦手段として扱われていると考えられ、アウェイ戦やチケット代等経済的な理由やコストパフォーマンスの観点から視聴を選択する傾向があります。
配信に関連したサードパーティが提供するサービス(例:投げ銭や、リモート応援等)は新型コロナウイルス禍に開始されたものが多いですが、認知度も低く、利用経験は多いものでも5%に満たない結果となりました(図表5)。現状は「視聴するのみ」の状態であることから、今後配信に関連したサービスの充実によるビジネスの伸びしろは大きいと考えられます。また、来場観戦者との満足度を比較したところ、試合後のコンテンツや情報確認・発信は視聴者の方が満足度が高く、積極的に情報収集をしていることがうかがえます(図表6)。試合前のコンテンツの充実等により、配信コンテンツ視聴者の体験改善について検討する余地は十分にあると言えます。例えば、音楽イベントの配信等では70万人とリアルなスタジアムでは動員不可能な数のファンへのリーチができており、ファンのすそ野拡大や来場への動機づけ、選手のモチベーションアップにつながるほか、クラブの収益源としても大きな役割を果たす可能性もあり、そのようなスポーツ以外の事例も参考になると考えられます。
■公益社団法人日本プロサッカーリーグ 事業マーケティング本部 マーケティング部 部長 鈴木章吾氏のコメント
デロイト トーマツの協力のもと、コロナ禍で中断していた「観戦者調査」を新たな方式で再開しました。
この調査・分析は、Jリーグ・各クラブのファンベースの定点観測指標として非常に有用であると考えております。
今回の調査・分析での発見が3点あります。
・頻繁にスタジアムを訪れていただけるコア層の方々に支えられていることがあらためて可視化されました。一方で、新規層・ライト層へのリーチ量や接点構築に課題があることも認識しました。
・当然ながら、観戦体験の満足度には試合結果が大きく影響を及ぼします。しかし、「勝敗に比較的影響されやすい項目」と「勝敗に比較的影響されにくい項目」が存在することが分かりました。各クラブが勝利に最善を尽くすことは大前提としつつ、観戦体験の向上のためには、スタジアムグルメや物販、試合後の観戦体験といった勝敗に影響されにくい項目の改善にも努めていく必要があることを認識しました。
・また、コラムでは国立競技場での開催試合の特徴が初めて可視化されました。国立競技場での開催試合は、特にライト層の満足度・推奨意向が高くなる傾向にあることが分かりました。
Jリーグとしては、この調査結果をもとに各クラブとのコミュニケーションを積極的に行い、観戦体験の改善に努めていくことで、更なるファンベース拡大と収益力向上に繋げていきます。
■調査概要
【来場観戦者】
調査期間:2023年3月~2023年10月
調査対象クラブ:J1リーグ:全18クラブ、J2リーグ:全22クラブ、J3リーグ:全20クラブ
調査対象試合:
3-4月(春休み)期(3月18日~4月9日)、ゴールデンウィーク(GW)期(4月29日~5月14日)、夏休み期(7月9日~8月26日)、9-10月(シーズン終盤)期(9月24日~10月29日)から1クラブ当たり各1試合(1クラブ合計4試合=総合計240試合)
※上記のうち国立競技場で開催された8試合を含む
調査対象者:
JリーグID保有者の中で該当試合のホームゲームのチケット購入履歴または来場履歴のある方(JリーグIDを保有していない場合でも該当試合のホームゲームの来場者のうち会場でチラシを配布してアンケートを案内(一部クラブのみ))
調査方法:
Jリーグから上記対象者に対してメールにてアンケートサイトを送付し、Qualtricsを使用して回答を回収および集計
総回答者数(のべ):126,721人
【配信視聴者】
調査期間:2023年6月17日-2023年6月27日
調査対象クラブ:クラブは特定せずカテゴリー(J1,J2,J3)のみを分類
調査対象者:JリーグID保有者
調査方法:Jリーグから上記対象者に対してメールにてアンケートサイトを送付し、Qualtricsを使用して回答を回収および集計
総回答者数(のべ):6,752人