大規模修復プロジェクトが進む武庫川女子大学甲子園会館で、東棟の屋根瓦の葺き替えが完了。甲子園ホテルとして竣工した当時の織部色がよみがえりました。すべての瓦の葺き替えが完了するのは2025年3月の予定です。
甲子園会館は、フランク・ロイド・ライトの愛弟子である遠藤新が設計し、1930年に竣工した旧甲子園ホテル。「東の帝国ホテル、西の甲子園ホテル」と並び称され、阪神間モダニズムを代表する社交場でしたが、戦争のためわずか14年で閉館しました。1965年に武庫川女子大学のキャンパスとなり、2006年からは建築学科の学舎となって、建築を学ぶ学生の"生きた教材"として活用されています。
建物は中央のパブリック部分を挟んで塔と客室棟を東西・左右対称に配置。東西の客室棟は、それぞれが五つの正四角錐の方形屋根の下にあり、屋根は3層に重なっています。これまで屋根瓦の部分的な葺き替えは行ってきましたが、2022年1月からは屋根瓦の全面葺き替えに着手し、東棟から実施していました。
甲子園会館の瓦には平瓦のほか、葺く位置により、"役物"と言われる熨斗瓦、隅棟瓦などがあります。全面葺き替えにあたり、すべての瓦をいったん降ろしました。
そのうえで、
・屋根の野地板の上に強固な防水シートを敷設し、縦桟と横桟を置く
・瓦の強度や釉薬を調査
・再利用する旧瓦には強風対策を施し、再焼成可能なものは焼き直す
・新たに成型し、焼成する平瓦は既存の平瓦の大きさに合わせるため新たに金型を制作
・取り換える役物は一つずつ手作業で成型し、目指す色や光沢の釉薬で焼成
しました。
こうした瓦を再び屋根に葺く際、同じ種類の色が縦横や斜めに続くとその部分が目立ちます。そこで瓦が葺かれる一つ一つの位置に"番地"を与え、どの番地にどの種類の色の瓦を配置するかを、コンピューターの上でシミュレーション。その結果に基づいて、屋根の上に実際に瓦を置いて検討を重ね、配置を決定しました。これが瓦を配置するための"地図"となりました。
葺き替えを指揮する建築学部の岡﨑甚幸学部長は「平瓦や役物の瓦を屋根の上に置いてみて、太陽光と瓦の角度や天候による違いを調査しながら、何度も配置を検討しました」と話します。
旧甲子園ホテルは松林が美しい枝川(廃川となった武庫川の支流)の南堤防の上に建てられており、両岸には美しい松並木が続いていました。ホテルが設計、施工された当時、瓦は周辺の松林になじむよう、織部色に彩色されていました。また、着工から1年という短期間で竣工していることから、瓦は複数の場所で制作された可能性が高く、もともと色むらがありました。当時の色を類推するため、瓦の重なり部分等、日焼けや劣化を免れた部分を丹念に調べました。
「一色の瓦で覆われた巨大な屋根にならないよう、屋根の向こうに見える松や楠のように多様な色の集合体からなる色の屋根を目指しました」と岡﨑学部長。
屋根の葺き替えに伴い、各屋根の頂点に設置されていた陶製の部品から構成されている棟飾りも降ろし、修復しました。棟飾りは下から露盤、四つの打出の小槌、水煙の各陶製部品が、屋根裏の木造の軸組みから立ち上げた約2.6メートルの芯柱(鉄パイプ)にモルタルで固定されていました。芯柱をステンレスの鋼管に変更し、各陶製部品を補修し、ステンレス鋼で芯柱から支持するという方法に改めました。
これらの作業には、瓦職人や鉄工所の技術者、大工、設計者としての建築学科の教員、大学院の授業「実務演習」で参加した大学院の学生、施設部の技術者ら多くの人が関わっており、まさに"令和の大修復"というべき技の結集となっています。
▼本件に関する問い合わせ先
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