排出量ネットゼロの達成に向けた競争の中で、企業は気候変動リスクと脱炭素化の目標へのエクスポージャーを慎重に検討しています。一部の企業は確固たる気候変動目標を設定し、競争をリードしている一方で、ビジョンを実行するためのリソースや規制の枠組みが不足していることから遅れを取っている企業もあります。
オルガ・カウィングス
アクティブ・オーナーシップ・オペレーション
およびインサイト・マネジャー
投資家のエンゲージメントは、企業が障壁を克服、価値を引き出し、気候変動リスクを効果的に管理するためのツールとなり得ます。気候変動に関するシュローダーの投資先企業へのエンゲージメントと、企業の成果を調査しました。
その結果、弊社が気候変動に積極的にエンゲージメントしている企業は、同業他社よりも気候変動に関する新たな目標を設定する可能性が高く、エンゲージメント後は脱炭素化が加速していることがわかりました。特にエンゲージメントへのエクスポージャーが高い企業ほど、エンゲージメント開始から数年間、同業他社より高いリターンを享受しています。
排出量ネットゼロへの競争
飛行機を使わずに地球の裏側へ行くとしましょう。あなたならどうやって行きますか?この質問の一部は、あなたがどこにいるのか、いくらかかるのか、資金をどのように使いたいのかによります。しかし、どこかの時点で必然的に海を渡らなければなりません。そこで問題は、早く海を渡ったほうが費用対効果が高いか、そのとも遅い方が良いかということになります。
排出量ネットゼロに向けた競争の中で、世界中の企業が慎重に計画を立てています。一部の企業にとっては、その道のりは他の企業よりも複雑です。特に高いインフレとエネルギー安全保障への焦点のシフトに直面している場合、不透明な規制環境や政府からの限られた支援に直面する可能性があります。企業がネットゼロへの道のりをどのように計画するかは、こうした国内問題や地政学的な問題、圧力にも左右されます。
投資家は、企業が直面している機会、圧力、リスクを理解し、企業がより効果的に移行する方法についてのインサイトを共有することで、信頼できるパートナーとなることができます。
エンゲージメントを実施した企業は目標を設定する可能性が高い
この分析によると、シュローダーが気候変動についてエンゲージメントを実施している企業の86%が気候変動目標を掲げており1、61%がエンゲージメント後に新たな目標を設定、または目標を強化しています。一方、エンゲージメントを実施していない企業の40%が気候変動目標を設定しており、12%は同業他社に対するエンゲージメントが開始されて以降に新たな目標を設定したり、目標を強化しています。これらの数値は、協働エンゲージメントやセクター全体にわたるエンゲージメントを含む、エンゲージメント・プログラム全体における進捗を表しています。
さらに、同業他社で構成されるグループの中での私たちの影響力を評価し、同業他社比ベースでの進捗を考慮しています。
弊社の分析によると、シュローダーが少なくとも年1回エンゲージメントを実施した企業の16%が、エンゲージメント開始後に気候変動に関するコミットメントや目標を新たに設定しました。同地域、セクター、規模のグループにおいて、エンゲージメントを行っていない同業他社で同期間に新たな目標を設定した企業は4%でした。
弊社の移行戦略を支えるエンゲージメント・プログラムは、エンゲージメントによって、エンゲージメントを行わなかった企業よりも移行計画を策定する可能性が10%高くなるという前提で計算されました。これまでの進捗状況はこれを上回っています。
エンゲージメントを実施した企業は、エンゲージメント開始後スコープ1、2、3の目標を設定するのに平均1.3年かかった一方、エンゲージメント回数が少なかった企業(年間1~1.99回)では、1.6年と遅くなりました。
シュローダーが気候変動についてエンゲージメントを実施している場合、エンゲージメント開始時からスコープ1と2の排出原単位が31%削減されたのに対し、エンゲージメントを行わなかった同業他社の削減は7%にとどまりました。これは、エンゲージメントを受けた企業は目標が行動に結びついていることを示す初期の兆候です。
エンゲージメント率の高さは、リターンの向上にもつながります。シュローダーが年2回以上のエンゲージメントを実施した場合、エンゲージメント1年後のピア調整後の累積リターンは同業他社より4%高く、2年後のリターンは同業他社より12%高くなりました。
シュローダーが気候変動についてエンゲージメントを実施することで、目標設定の迅速化、排出削減の加速化、リターンの向上等、ポジティブな結果がもたらされます。思慮深く、熱心なエンゲージメントにより、各企業の移行経路に関する理解を深め、価値を高め保護することに繋がると考える変化を提唱することができます。
効果的なエンゲージメントには協力が必要
前進するためには協力が必要です。私たちが投資先企業と気候変動対策についてエンゲージメントを行う際、多くの場合、文化や政治的見解の異なる初対面の人々と協力しなければなりません。その人、事業、外圧を理解するために時間をかけることは重要であり、熟慮を重ねたエンゲージメントは、両者が相互に利益を得られるような方針や計画を見出すのに役立ちます。
2021年後半には気候移行アクションプランを立ち上げ、パリ協定の目標達成に向けた企業支援に取り組んでいます。ネットゼロ目標の設定やエネルギー移行計画を中心に、投資先とのエンゲージメントを強化しています。また、操業上の安全性、サプライチェーン管理、生物多様性への影響等、気候リスクと気候変動に関する他の側面についても引き続きエンゲージメントを実施しています。
ケーススタディ:グリーン移行への資金供給
低炭素経済への世界的な移行に伴い、銀行は財務、規制、レピュテーションの面で大きなリスクに直面しています。オフィスや支店等、銀行の業務の二酸化炭素排出量は比較的少ないものの、投融資先の排出量は地球に大きな影響を与える可能性があります。したがって、気候変動という観点における銀行の重要な指標は、「投融資先の排出量」です。銀行は、顧客の排出量の多い活動からの移行を支援する上で、重要な役割を担っています。
当事例では、エンゲージメント先企業に対する気候変動に関するエンゲージメントは集中的かつ一貫しており、2020年以降、年3回ほど話し合いが行われています。しかし、このトピックに関する弊社と同社との最初のエンゲージメントは2008年まで遡ります。現在、弊社の欧州株式チームが中心となって化石燃料への融資(オイルサンドを含む)に関する調査や、欧州全域におけるより広範な銀行とのエンゲージメントを行っています。
当初は、同社に対し、融資活動に関連する排出量を測定し、気候変動目標を設定し、確固とした気候変動方針を策定するよう奨励しました。同社が前進するにつれて、最近のエンゲージメントはよりテクニカルなものとなり、目標の範囲と完全性、排出量測定の確実さ、顧客の移行に関する報告に重点を置くようになりました。
2020年、同社は排出量ネットゼロへのコミットメントを発表し、大きな一歩を踏み出しました。同年にターゲット・メソドロジーを開発し、エネルギーと電力の2つの主要セクターにおいて目標を設定しました。2023年時点、排出量の多い6部門について排出削減目標を設定しており、また、低炭素ビジネスモデルへの移行を支援するための顧客移行フレームワークとともに、サステナブルおよびトランジション・ファイナンスを顧客に提供するための10億ドルの目標を発表しました。
同社のエネルギー部門への融資に関連する絶対排出量は、過去3年間で約3分の1に減少しており、気候変動目標に向けて大きく前進していることを示しています。同社は現在、オイルサンドの探鉱・生産企業への融資や、新たなオイルサンドの生産・処理用資産やパイプラインの建設への融資を行わないことを約束しています。
まとめ
ネットゼロ移行に向けた競争が始まっています。企業は、気候変動リスクを効果的に管理し、機会を引き出すためのロードマップを作成しています。投資家によるエンゲージメントは、企業が移行への道筋を描くのを支援する効果的なツールとなり得ます。
この分析で示された進展は、責任ある投資家にとって心強いものです。全体として、エンゲージメントを実施した企業は、エンゲージメントを実施しなかった企業と比べ、気候変動に関するコミットメントや目標を掲げている可能性が2倍以上高いといえます。私たちは、気候変動は運用上の制約ではなく、投資上の課題であり、投資パフォーマンスにとって逆風ではなく追い風であると考えています。
気候変動対策は運用プロセスに組み込まれる必要があり、この分析はその潜在的な効果を示しています。弊社がエンゲージメントを実施した企業は、エンゲージメント開始から数年間、同業他社より高いリターンを示しています。エンゲージメントレベルが低い企業は2年目の終わりまでに同業他社を7%上回る結果となり、エンゲージメントレベルが高い企業(少なくとも年2回実施)の場合、この間の累積リターンは同業他社を12%上回りました。
バリュエーションとファンダメンタルズに関するインサイトは、気候変動へのエクスポージャーを他の無数の要因とともに考慮するために非常に重要です。思慮深いエンゲージメントが鍵となります。投資先が直面する規制や地政学的プレッシャーについて十分理解することは、ネットゼロへの道のりで現実的なマイルストーンを設定し、長期的な価値を解き放つのに役立ちます。
調査の方法論に関する詳細はPDFをご覧ください。