半導体光触媒を用いた人工光合成において世界最長の連続動作時間を実現 ~樹木が年間で固定する炭素量を上回る炭素固定量を350時間連続動作で達成~

 日本電信電話株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:島田 明、以下「NTT」)は、太陽光エネルギーを利用する半導体光触媒と二酸化炭素(CO2)を還元する金属触媒を電極として組み合わせた人工光合成デバイスを作製し、世界最長の350時間連続炭素固定を実現しました。CO2変換反応による累積炭素固定量は420 g/m2に達し、これは樹木(スギ)が年間で固定する単位面積当たりの炭素量を上回る量に相当します。
 今後は、より高性能な人工光合成デバイスを実現するために、電極での反応の高効率化、電極の長寿命化の両立を図ります。さらに、屋外試験を通じて、太陽光エネルギーを用いたCO2削減技術のひとつとして確立し、気候変動の抑制に寄与し、持続可能な社会の実現に貢献します。
 本成果のベースとなる技術は、2023年11月14日~17日に開催されるNTT R&D フォーラム― IOWN ACCELERATION(※1)に展示予定です。
図1. NTTが掲げるカーボンニュートラルと人工光合成の研究開発

1.研究の背景
 気候変動を抑制するため、世界中で脱炭素に向けた取組が加速しています。NTTグループでは、2040年にグループ内でのカーボンニュートラルを実現するため[1]、再生可能エネルギーの導入やIOWNによる消費電力の削減など、さまざまな温室効果ガス排出量削減の取り組みを進めています(図1a)。これらに加え、既に大気中に排出されたもしくは排出されるCO2を一酸化炭素(CO)(※2)やギ酸(HCOOH)(※3)などに変換して固定化する技術として、半導体(※4)や触媒(※5)などの無機物で構成され、植物の光合成を超えるCO2変換性能(※6)を実現できる人工光合成の研究開発を行っています(図1b)。
 人工光合成はこれまでに世界中で様々な研究が進められており、特に高いCO2変換効率(※7)を実現できる触媒に関する検討が盛んです。一方で、連続したCO2変換の試験時間は数時間から数十時間レベルに留まっており、長時間化に向けた劣化抑制の技術確立が課題となっています。

2.研究の取り組みおよび成果
 人工光合成は、図2に示されるように、半導体光触媒(※8)を用いた酸化電極(※9)と金属触媒を用いた還元電極(※10)から構成されます。実用化に向けての具体的な課題として、腐食等による劣化を抑制し、長時間の反応に耐えうる長寿命な電極設計が求められています。また、人工光合成によるCO2変換は、水溶液中の溶存CO2をCOやHCOOHへ還元する手法が広く用いられていますが、水溶液中に溶解できるCO2の量には限りがあり、副反応(※11)が起こりやすくなります。このため、CO2を選択的に変換する電極構造やデバイス設計が求められています。
 NTTでは、長時間連続して気相中のCO2をより効率的に変換可能な人工光合成の実現をめざし、光をエネルギーとして利用するための長寿命な半導体光触媒電極と、気相のCO2を高効率に変換するために電解質膜と一体化した繊維状の金属触媒電極により構成した人工光合成デバイスを設計しました。
図2.人工光合成デバイスの概略図

<技術のポイント>
①半導体光触媒電極の劣化反応抑制技術
半導体光触媒として用いている窒化ガリウム(GaN)(※12)系電極は、GaN表面と水溶液の界面で生じる劣化反応の抑制が課題でした。そこで、GaN表面の凹凸をより滑らかにし、光を十分に透過する厚さ2 nmの均一な酸化ニッケル(NiO)(※13)薄膜を保護層として形成することでGaNと水溶液の接触を防ぎ(図2a)、電極の劣化を大幅に抑制することに成功しました。

②気相CO2の変換技術
従来の水溶液中に溶存しているCO2を変換する金属電極は板状の構造が主流ですが、今回、気相のCO2を変換するために、CO2拡散性の高い繊維状金属とCO2変換反応に必要なプロトン(H+)を反応場に供給する役割を持つ電解質膜(※14)を一体化した電極構造を考案しました(図2b、左)。これにより水溶液中に電極を浸漬させることなくCO2変換反応に必要なプロトン(H+)を反応場に供給できるようになり、気相のCO2を直接変換することを可能にしました。これらの電極構造の工夫により、従来に比べ10倍以上のCO2変換効率を実現しました。
上述した人工光合成デバイスに疑似太陽光(※15)を照射し、気相のCO2変換試験を行った結果、350時間連続してCO2がCOやHCOOHに変換されたことを確認しました。生成したCOやHCOOHから算出した単位面積当たりの累積炭素固定量(※16)は420 g/m2に達し、半導体光触媒を用いた人工光合成において世界最長の350時間連続動作を実現しました。この検証による炭素固定量は、樹木(スギ)の木1本が1m2当たり約1年間で固定するCO2を上回る量に相当します。 
図3.光照射時間に対する炭素固定量の変化

3.今後の展開
今後、より高性能な人工光合成反応を実現するために、電極での反応の更なる高効率化、電極の長寿命化およびこれらの両立をめざします。また、実験室環境での検討だけではなく屋外での試験を通じて、太陽光エネルギーを用いたCO2を減らす技術のひとつとして確立し、気候変動の抑制に寄与し、持続可能な社会の実現に貢献します。

<引用>
[1] 新たな環境エネルギービジョン「NTT Green Innovation toward 2040」https://group.ntt/jp/newsrelease/2021/09/28/210928a.html

<用語解説>
※1 「NTT R&D FORUM 2023 -IOWN ACCELERATION」公式サイト
 URL:https://www.rd.ntt/forum/
※2 一酸化炭素(CO):CO2が電子(e-)とH+により還元されることで発生する常温で気体の物質
※3 ギ酸(HCOOH):CO2が電子(e-)とH+により還元されることで発生する常温で液体の物質
※4 半導体:電気伝導性の良い金属などの導体と、電気抵抗率の大きい絶縁体の中間的な抵抗率をもつ物質
※5 触媒:触媒材料自身は変化せず、目的とする化学反応を促進する物質
※6 CO2変換性能:光合成によりCO2を変換することができる量などの能力
※7 CO2変換効率:入力した太陽光エネルギーのうちCO2変換に利用された割合
※8 半導体光触媒:半導体に光が照射されることにより、それ自身は変化せず、化学反応を促進する半導体※9 酸化電極:光エネルギーにより水の酸化反応(2H2O + 4h+ → O2 + 4H+)が起こる電極
※10 還元電極:CO2の還元反応(CO2 + 2e- + 2H+ → CO + H2O もしくは HCOOH)が起こる電極
※11 副反応:目的とする反応とは異なる別の反応
※12 窒化ガリウム(GaN):紫外光領域の光を吸収し、光エネルギーを変換することが可能なガリウムの窒化物であり半導体デバイスとしての応用が盛ん
※13 酸化ニッケル(NiO):ニッケル(Ni)の酸化物であり、GaNと水が直接接触せず、光が透過するよう薄膜化し利用し、目的とする反応を助ける材料
※14 電解質膜:水溶液と気相CO2の間に設置されており、水溶液からH+だけを透過させることができる膜
※15 疑似太陽光:太陽光に近い波長分布の特性を持っている照明
※16 炭素固定量:人工光合成反応によりCO2が変換され、有機物などの別の物質に変換された際の炭素の量のこと

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この企業の情報

組織名
日本電信電話株式会社
ホームページ
https://group.ntt/jp/corporate/overview/
代表者
島田 明
資本金
93,800,000 万円
上場
東証プライム
所在地
〒100-8116 東京都東京都千代田区大手町一丁目5番1号大手町ファーストスクエア イーストタワー
連絡先
03-6838-5111

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