日本人 2 型糖尿病患者における新規 GLP-1 受容体関連薬の治療効果の違いを明らかに

 横浜市立大学 循環器・腎臓・高血圧内科学教室の塚本俊一郎医師、田中翔平医師、涌井広道准教授、田村功一主任教授らの研究グループは、日本人の2型糖尿病*1患者を対象に、新規GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)*2であるセマグルチド(商品名:オゼンピック、リベルサス)やGLP-1/GIPデュアルアゴニストであるチルゼパチド(商品名:マンジャロ)について、従来の薬剤との比較や用量毎の治療効果の違いをネットワークメタ解析*3という手法を用いて解析しました。
 セマグルチド(皮下注射薬、経口薬)はプラセボ(偽薬)と比較して体重を減少・低下さ せる効果が高く、チルゼパチドはさらに体重を低下させることが示されました。また、これ らの薬剤は従来の GLP-1RA であるデュラグルチドやリラグルチドと比べても有意に治療効 果が大きいことが明らかになりました。肥満を合併している 2 型糖尿病患者数は年々増加 しており、心血管疾患や腎臓病のリスクが高いことも知られていることから、より適切な治 療の選択肢を提供することに貢献できると考えられます。
 本研究成果は、査読付き英文雑誌「Diabetes, Obesity and Metabolism」に掲載されました。(日本時間2023年10月13日14時)

研究成果のポイント
  • チルゼパチドは比較した薬剤の中で最も体重減少/HbA1c*4低下効果が高かった
  • セマグルチドは注射製剤も経口製剤も従来のGLP-1RAと比べて体重減少とHbA1c低下効果が高かった
  • 目標HbA1c(7%未満)の達成はチルゼパチドとセマグルチドで同等であった














研究概略図:RCT/ランダム化比較試験
研究背景
 日本では2型糖尿病を患う人が増加しており、糖尿病患者数はおよそ1000万人、糖尿病予備軍も含めるとおよそ6人に1人が該当することになります(平成28年 国民健康・栄養調査)。糖尿病や肥満は心血管疾患、慢性腎臓病、がんなどの重要な危険因子です。また、糖尿病患者のおよそ8割に肥満を合併していることも報告されております。肥満は糖尿病だけでなく、高血圧や脂質異常症などの生活習慣病にも繋がります。さらに、最近では肥満や糖尿病が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)重症化のリスクファクターであることもわかってきました。2型糖尿病患者に対する血糖コントロールだけでなく、肥満に対しても適切なコントロールが求められています。
 GLP-1RAは血糖コントロールと体重減少効果を併せ持つ糖尿病治療薬として知られています。新規のGLP1-RAであるセマグルチドは注射剤と経口剤の2種類が発売されており、どちらも別々の試験においてプラセボ(偽薬)や従来のGLP-1RAと比べて高いHbA1c低下効果と体重減少効果が示されていました。しかしながら、注射製剤と経口製剤の効果の違いについては不明でした。また、GIP受容体とGLP-1受容体の2つのアゴニストであるチルゼパチドも、プラセボや従来のGLP1-RAと比べて大きな治療効果を持つことが示されていました。しかしながら、同じく治療効果の大きなセマグルチドとの日本人患者における比較データは存在しませんでした。
 そこで、我々はセマグルチドやチルゼパチドを含んだ複数の臨床試験の結果を統合して解析することで、日本人患者におけるこれらの薬剤の治療効果の違いを解析することを目的としました。

研究内容
 研究グループは、Pubmed, Embase, Cochrane Library*5で文献検索を行い、日本人の2型糖尿病患者を対象にGLP1-RAの効果を検証したランダム化比較試験を用いてネットワークメタ解析を行いました。チルゼパチド、セマグルチド(注射製剤、経口製剤)のほかに、従来のGLP-RAであるデュラグルチドやリラグルチドも解析に含まれました。
 解析に含まれたのは18の研究で3,875人の日本人患者を対象としました。HbA1c低下効果については、全薬剤の中でチルゼパチド(15mg)が最も治療効果が高く、プラセボと比較してHbA1cをおよそ2.8%低下させました。またその効果は薬剤の用量が多いほど増加していました(図1)。注射製剤と経口製剤のセマグルチドを比較すると注射製剤のセマグルチドの方が治療効果は大きかったものの、どちらの製剤もプラセボや従来のGLP-1RAと比べて優れたHbA1c低下効果を認めていました。
 体重についても、HbA1cと同様にチルゼパチドが全薬剤の中で最も体重減少効果が高く、プラセボと比較しておよそ9.5kg体重減少効果を認めていました。セマグルチド注射剤はプラセボと比較し4.4kg、セマグルチド経口剤はプラセボと比較して2.6kgそれぞれ体重を減少させました(図2)。










    
    図 1:HbA1c 低下効果の比較(横軸は HbA1c 減少効果)
    (A) 経口セマグルチド(14mg)と比較したときの体重減少効果
    (B) プラセボと比較したときの体重減少効果











    図2:体重減少効果の比較(横軸は体重減少効果)
    (A) 経口セマグルチド(14mg)と比較したときの体重減少効果
    (B) プラセボと比較したときの体重減少効果

 なお、糖尿病患者における血糖コントロールの目標であるHbA1c 7%未満の達成率については、チルゼパチド、セマグルチド(注射製剤、経口製剤)のいずれも同等でした。

今後の展開
 本研究は日本人の2型糖尿病患者において新規GLP-1受容体関連薬(セマグルチドやチルゼパチドなど)の治療効果を比較した初めての研究です。今回の研究では、薬剤間だけでなく用量による効果の違いも検証しているため、より個々の患者さんに適した薬剤選択につながることが期待されます。また、セマグルチドは糖尿病だけでなく肥満症に対する治療薬としても2023年に承認されています。
 セマグルチドやチルゼパチドに関しては、体重減少や血糖低下だけでなく、心血管イベントや腎イベントのリスク低下効果も報告されはじめており、今後ますます注目される薬剤となっています。

研究費
 本研究は、上原記念生命科学財団、横浜総合医学振興財団などの助成を受けて実施しました。

論文情報
タイトル: Effect of tirzepatide on glycemic control and weight loss compared with other       glucagon-like peptide-1 receptor agonists in Japanese patients with type
      2diabetes mellitus

著者   :Shunichiro Tsukamoto, Shohei Tanaka, Takayuki Yamada, Kazushi Uneda,
      Kengo Azushima, Sho Kinguchi, Hiromichi Wakui and Kouichi Tamura
掲載雑誌 : Diabetes, Obesity and Metabolism
DOI   : https://doi.org/10.1111/dom.15312

用語説明
*1. 2型糖尿病:
血糖を下げるホルモンであるインスリンの分泌低下や効きの悪さ(抵抗性)をきたす複数の遺伝因子に過食、運動不足などの環境要因が加わって慢性のインスリン作用不足を生じて発症する糖尿病。

*2. GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA):
血糖値を下げる働きをするGLP-1というホルモンの働きを補う薬剤。GLP1-RAは血糖値を下げるだけでなく、体重減少効果を有することが知られてる。

*3. ネットワークメタ解析:
治療薬などの複数の臨床研究の結果を統計学的に統合する解析方法。従来のメタ解析は 2 者の比較に限定されていたのに対して、ネットワークメタ解析は 3 者以上の比較を行うことができる。

*4. HbA1c:
血液中のヘモグロビンの中で糖化ヘモグロビンがどのくらいの割合で存在しているかをパーセント(%)で表したもの。血糖値の上昇に伴って増加し、糖尿病の診断や管理に利用される。

*5. Pubmed, Embase, Cochrane Library:
PubMedは生命科学や生物医学に関する参考文献や要約を掲載する無料検索エンジン、Embaseはエルゼビアの Emtree®を使用して索引されている。最新の生物医学データベース、Cochrane Libraryは、国際的な医療評価プロジェクトであるコクラン共同計画が発行するデータベースで、ある特定の治療が有効か、他の治療法に比べどれだけ優れているか、安全かなど、治療・予防の問題解決のためのデータベース。
















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組織名
横浜市立大学
ホームページ
https://www.yokohama-cu.ac.jp/
代表者
近野 真一
所在地
〒236-0027 神奈川県神奈川県横浜市金沢区瀬戸22-2
連絡先
045-787-2311

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