技術開発統括部で安全戦略を担当する坂本さん(左)と、「AMSAS」の開発プロジェクトリーダー鈴木さん
「既存車両への適用」を見据えたアプローチ
二輪車が関連する事故は、主にライダーの「認知ミス(10%)」「判断ミス(17%)」「操作ミス(5%)」に起因されているとされています。また二輪車事故のうち約7割が、事故につながるきっかけが起きてから2秒以内に発生しているというデータもあります。このような事故原因の分析から、当社では運転支援技術の開発を「危険予知」「被害防止・防衛」「緊急回避」「被害軽減」の4つの視点で進めています。
昨年発表した二輪車安定化システム「Advanced Motorcycle Stability Assist System(AMSAS)」は、駆動力と操舵力の制御を用いて低速走行時に車両の姿勢を安定化させる技術です。その最も大きな特徴は「骨格となるフレームに手を加えることなく、既存車両への適用性の高い構造でアプローチしていること」と、開発プロジェクトリーダーの鈴木明敏さん。現在開発中のプロトモデルも、市販車「YZF-R25」をベースに、6軸センサーと駆動・操舵アクチュエーターを搭載して研究を進めています。
開発中の「AMSAS」装着車は、ライダーの技量に関わらず、歩く程度の低速で転ばずに走ることが可能です(映像(
https://www.youtube.com/watch?v=xw385spsEic)を参照)。
発進時から時速5㎞/h程度までの運転技量を要する速度域で運転を補助する「AMSAS」
各種パーソナルモビリティへの展開も視野
当社は、これまでにもヒト型自律ライディングロボット「MOTOBOT」や、AIと自立機構を備えた「MOTOROiD」を開発した実績があります。「AMSASの研究は、その2機種の開発で獲得した知見や技術を、世界中のライダーにお届けするというテーマでスタートしました」と鈴木さん。
一方、「AMSASが目指しているのは、ライダーが操作に集中できる環境を整え、誰もが人機一体感を楽しめるようになること」と話すのは、安全戦略を担当する坂本潤さん。「操作の技量が求められる低速での運転を補助することで、安心感をベースにしたヤマハらしい楽しさを幅広いライダーにお届けしたい」と続けます。
「AMSAS」は運転支援技術の核として、すでに実用化されている世界初の「レーダー連携ユニファイドブレーキシステム」など、他のデバイスとの組み合わせも想定し、開発が進められています。
「私たちが目指す『世界中のライダーにAMSASが生み出す価値をお届けする』というゴールに対して、基礎技術を確立した現在は、ちょうど折り返し地点」と鈴木さん。今後はさらに各デバイスのコンパクト化などを進めていくことで、「モーターサイクルだけでなく、自転車などより幅広いパーソナルモビリティに応用できる技術として育てていきたい」と高い目標を掲げています。
AMSAS開発の基点となったのは、自立機構を備えた「MOTOROiD」(写真)
■【動画】(外部)二輪車安定化支援システム AMSAS
https://www.youtube.com/watch?v=xw385spsEic
■広報担当者より
AMSASは駆動と操舵のアクチュエーターによって車体姿勢の安定化を実現するシステムです。前輪に装着するモーターはほうきを逆さにして手のひらでバランスをとる「倒立振り子」の原理で静止時の自立を実現し、操舵軸に取り付けられたアクチュエーターは、ペダルを漕がずに自転車をスタンディングさせる時のような細かいハンドル操作で安定感を高めています。この二つの動きを頭に思い浮かべていただけると、AMSASの機構をイメージしやすいかもしれません。