建築や都市に自然を取り込む「バイオフィリックデザイン」の導入効果を定量的に調査・集計

「JR熊本駅ビル」における体験価値や建物全体などの価値向上を実現

株式会社日建設計(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:大松敦)は、建築や都市に自然を取り込み、人に対してポジティブな影響をもたらすコンセプト「バイオフィリックデザイン」を取り入れた建築物の導入効果について定量的観点による可視化を試みています。この度、本コンセプトに基づいて設計した「JR熊本駅ビルプロジェクト」の調査結果をまとめましたので、お知らせします。


■ JR熊本駅ビル「バイオフィリックデザイン」調査実施背景
世界中の都市で急激な開発が進み、多くの自然が失われつつあります。一方で2050年には地球人口の約7割が都市に住むと言われており、都市における自然との共生は非常に重要な課題、かつ人々が健康で創造的に暮らしていくために必要な要素です。こうした背景から、都市にその地域らしい自然の要素を取り込み、人々の生活を豊かにする手法として「バイオフィリックデザイン」という考え方が着目されています。

日建設計では、これまでも多くの建築や都市開発プロジェクトで効果的に自然を取り込んだ空間創出、環境価値の見える化を図った冊子『建築の環境価値BOOK』の作成などを通じ、「建築物の環境価値」に着目した取り組みを展開してきました。今後は自然が人に与える効果を具体的に評価していくアプローチも期待されると考え、実際にバイオフィリックデザインを取り入れたプロジェクトについて、定量的な観点で建築の環境価値を評価するため、今回「JR熊本駅ビルプロジェクト」における調査を行っています。

本調査は、社会環境デザインの先端を拓く専門家集団である日建設計が培ってきたノウハウを最大限に活用し、客観的で科学的なエビデンスをもとに取りまとめたものです。日建設計では今後も自然が少ない都心部においてバイオフィリックデザイン導入へ取り組むことを目指しており、今回、その効果を定量的に可視化することで、社会のバイオフィリックデザインへの理解を深め、今後の導入促進の一助となると考えています。

■ JR熊本駅ビル「バイオフィリックデザイン」調査結果(要点抜粋)
今回の調査では、JR熊本駅ビルにおける「バイオフィリックデザイン」が生んでいた主要な3つの効果として、「体験価値の向上」「滞在行動の喚起」「場所・建物全体の価値向上」があることがわかりました。具体的な要素と調査結果は以下のとおりです。
※本リリースでは調査結果を抜粋しているため、調査全容に関しては以下のレポートを参照ください。
 https://www.nikken.jp/ja/dbook/nikken_biophilic_design_book/

「水と緑の立体庭園」がもたらした効果
  • 立体庭園を経由することで駅ビル内の回遊・滞在が誘発され、立ち寄り店舗数1.5倍・滞在時間1.4倍に
  • 自然が持つ魅力を再現した居心地がよく解放感あふれる空間


都市部の開発が進み、人と自然との関係が希薄になりつつある現代において、人々の生活の中で身近に自然を感じられる居場所を提供するために、熊本の阿蘇地方の自然と建築を融合させた「立体庭園」を屋内に創出しています。立体庭園は商業ビルの室内から屋外まで連続する「水」をテーマとしたパブリックスペースとなっており、各所に阿蘇地方特有の自然のエッセンスを取り入れた水や緑を感じられる滞留スペースを点在させ、人々に健康と幸福を与えるバイオフィリックデザインに取り組んでいます。

駅ビル内の回遊行動調査を行い、立体庭園に訪れる人の割合や、立体庭園が駅ビル内回遊行動(滞在時間、来訪店舗数)に与える影響、立体庭園の各フロア(1F、3F、5F)でのパブリック空間の魅力度と環境要素の魅力度を調査し、両者の関係を分析しました。その結果、来場者の約3割が立体庭園を経由し、立体庭園を経由した来場者の方が、立ち寄り店舗数が1.5倍、駅ビル滞在時間が約1.4倍長くなる傾向を示し、またフロア別の空間魅力度については各フロアとも「居心地」「解放感」「落着き」「眺望」といった項目で約9割の人は魅力が高いと回答しました。環境要素の魅力度については、フロア別に特徴があるものの、「緑」については約9割、「水景」についても1階、3階では約9割の人が「魅力度が高い」と回答しています。

「水の音」がもたらした効果
  • 高さ10m の滝のダイナミックさと室内環境として心地よい音環境デザイン
  • 低層階から上層階まで魅力度の高い音環境と評価


メインとなる水景は熊本の名所である鍋ヶ滝をモチーフとした落差約10m、幅10mの滝です。この滝により、建物内には滝の音と気流が発生します。屋内空間において高さ10mの滝のダイナミックさを損なわず、かつ室内環境として心地よい音環境としてデザインされています。

パブリック空間調査での音の魅力度調査をみると、滝壺のある1階が最も魅力的と評価されながら、上層階のどのフロアも魅力度が高くなっています。滝壺に近い低層階では視覚的にも聴覚的にも迫力のある音が楽しめ、5 階カフェ空間ではほどよい大きさの滝の音を体験できることで、各種既往文献に記されている音によるベネフィット「水音はポジティブな感情を生み出す」「高周波成分を含む水音ほど快適性が高い」「視覚・聴覚が組合わせることで評価が高まる」が立体的な空間構成により実現されたことがわかりした。

「風」がもたらした効果
  • 滝から生まれる風は「1/f ゆらぎ」をもつ自然の風に近い
  • 多くの施設利用者が滝からの風を魅力に感じている



1Fの滝の近くでは、気持ちのよい風が感じられます。その滝から生まれる風のスペクトル特性(風速の強さを周波数に分解したときの、各周波数での成分の大きさ)は、自然の風の特性と呼ばれる「1/f ゆらぎ」に近い特性を持っていることがわかりました。

自然の風は単純な機械的リズムの風よりも好まれやすいことが知られており、熊本駅ビルの滝もショッピングを楽しみながら自然の風を感じることのできる環境となっています。

「光」がもたらした効果
  • 天井窓から1階まで落ちてくる自然光により、庭園周辺は太陽光に近い波長特性に
  • やわらかい光により高い魅力度評価が高い

JR熊本駅ビルは周囲の視界がひらけた立地にあり、自然光を取入れやすい環境にあります。また建築的にも最上階の天窓や壁面ガラスには水が流れ、吹き抜け空間は開放感のあるガラス壁面となっていることで、多くの自然光を取り入れることができます。上層階から取り入れた光はそのまま1 階まで降り注ぎ、熊本の自然光が持つ波長特性に近い光環境がJR熊本ビルの中でも形成されています。

立体庭園における光環境に関する魅力度評価でも、各階ともに高い魅力があると評価されており、特に立体庭園1階での魅力度評価が高くなっています。

総合的な「バイオフィリックデザイン」がもたらした効果
  • つい語りたくなる独特な環境要素をもつ空間
  • 来訪者の「新しさ」「美しさ」「快適さ」といった様々な感覚価値に訴求


SNS(Twitter、Instagram)上に投稿されるテキストデータや画像データについて、熊本駅ビル関連で投稿されたデータを収集し、特性を分析することで熊本駅ビルが有する感覚価値を評価しました。SNSの投稿データはテキストを付帯するため、そこに含まれる単語から来訪者が熊本駅ビルの滞在・体験で得た「感覚・感性」を抽出することを試みています。

その結果、駅ビル開業により感覚価値が向上したこと、とくに「新しさ」「美しさ」「快適さ」に訴求している傾向があることなどがわかりました。さらに、熊本駅ビルの空間デザインの特徴である「立体庭園」に関連する環境要素が様々な感覚価値を喚起していることが示唆されたこともわかっています。

■ 参考情報:関連リンク
・NIKKEN BIOPHILIC DESIGN BOOK
 https://www.nikken.jp/ja/dbook/nikken_biophilic_design_book/
・JR熊本駅ビルバイオフィリックデザイン動画(英語)
 https://www.youtube.com/watch?v=Z02d4V4aq_I
・JR熊本駅ビルプロジェクト紹介
 https://www.nikken.jp/ja/projects/mixed_use/jr_kumamoto_railway_station_building.html

■ JR熊本駅ビル受賞歴
・グッドデザイン賞(2021) https://www.g-mark.org/award/describe/52589
・ Stephen R. Kellert Biophilic Design Award First Place Award(2022)
https://trimtab.living-future.org/biophilic-design/announcing-the-2022-stephen-r-kellert-biophilic-design-award-finalists/
・IFLA AAPME Awards ( 国際ランドスケープアーキテクト連盟賞-アフリカ・アジア太平洋・中東地区大会) Award of Excellence (2022)
https://iflaapr.org/sites/default/files/content-files/AAPME%202022%20-%20Winners%20List/8_BP-Social%20and%20Community%20Health.pdf

■ 日建設計について
日建設計は、建築・土木の設計監理、都市デザインおよびこれらに関連する調査・企画・コンサルティング業務を行うプロフェッショナル・サービス・ファームです。1900年の創業以来120年にわたって、社会の要請とクライアントの皆様の様々なご要望にお応えすべく、顕在的・潜在的な社会課題に対して解決を図る「社会環境デザイン」を通じた価値創造に取り組んできました。これまで日本、中国、ASEAN、中東でさまざまなプロジェクトに携わり、近年はインド、欧州にも展開しています。2021年3月には、脱炭素社会への取り組みに向けた「気候非常事態宣言」を宣言しました。
https://www.nikken.jp/ja/
本件に関するお問合わせ先
株式会社日建設計 広報室 
Tel. 03-5226-3030(代表) e-mail:webmaster@nikken.jp

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この企業の情報

組織名
株式会社日建設計
ホームページ
https://www.nikken.co.jp/ja/index.html
代表者
大松 敦
資本金
4,600 万円
上場
非上場
所在地
〒102-8117 東京都千代田区飯田橋2丁目18番3号
連絡先
03-5226-3030

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