“小さいことも気にしよう”: ESGの失敗が将来のリターンに与える影響

キャサリン・デヴィッドソン
グローバル株式 ファンドマネジャー

ステークホルダーを軽視する企業は投資家にとって大きなリスクとなるというシュローダーの考えが、新しい研究によって裏付けられています。


私たちはこれまで、「企業の因果応報」について広く書いてきました。ステークホルダーへの接し方が巡り巡って自分に返ってくるという考え方です。

新型コロナウイルスのパンデミック発生以降、私たちは、特に雇用主が従業員をどう扱うかについて新しい社会契約が現われつつあるという見解を示してきました。と同時に、どのようにすれば企業がすべてのステークホルダーの要求のバランスを取ることができるのかも示してきました。

また、企業の中で進むステークホルダー支援にも目を向けてきました。そして何よりも、「企業の因果応報」がなぜ投資リターンに大きく影響するのかを強調してきました。

ステークホルダーに配慮する企業は、顧客によるボイコット、ストライキや職場放棄、訴訟、規制、環境災害、労働災害などの論争に陥る可能性が低くなり、すなわち、ポートフォリオのリスクが低下します。


研究が示すこと
フォルクスワーゲンのディーゼル不正問題(いわゆる「ディーゼルゲート」)や2020年にファッション通販サイト、ブーフー(Boohoo)で起きた現代の奴隷問題など、大ニュースになるような出来事は幸いなことに非常にまれであるため、こうした論争は実証研究が容易ではありません。

ですが、バージニア大学が最近発表した論文[1]では、環境への悪影響、差別、就業環境における安全・衛生に関する問題、地域社会との対立的関係性、反競争的行為など、よりマイナーなESGインシデントを検証することによってデータセットを広げています。米国の上場企業では、2007~2017年の10年間に8万件ものこうしたインシデントが確認されています。

論文によると、過去のインシデントと将来の業績や株価の推移には明確な相関関係があります。
ESG(環境・社会・ガバナンス)インシデント発生率が高い株式ポートフォリオはリターンが低く、セクターエクスポージャーやその他のリスクファクターを加味した場合でも、幅広い市場と比較してリターンは年間でおよそ3.5%下回りました。

これは欧州市場でも成立し、同様のポートフォリオが年間2.5%、市場平均を下回る計算になります。
[1] ESG Incidents and Shareholder Value, Simon Glossner, University of Virginia – Darden School of Business, February 17, 2021


論争がリターンの低下につながる理由
比較的小さなインシデントであったとしても、それは内部統制の弱さや企業文化の問題の兆候かもしれず、従って、将来、同じ企業でこうした事象がさらに起きる可能性を否定できません。

論争の予測は誰にもできません。だからこそアナリストは「インシデントを起こしやすい」企業の持続的な収益力を過大評価しがちです。その結果、その後の業績の下方修正、リターンの低下に直面することになります。

また、アナリストは小さなインシデントを調査する傾向にあるため、大きなインシデントに不意を突かれやすくなります。

論文では、英国の石油・石油化学製品会社BP社の事例が挙げられています。2010年に同社の石油掘削施設、「ディープウォーター・ホライズン」で原油流出事故が起きた結果、4月から6月末の間に時価総額が半減しました。これに至る以前からBP社は環境や労働安全問題を長期間にわたって抱えてきましたが、原油流出事故まではこれらが株価に深刻な影響を与えることはありませんでした。

インシデントが小さい範囲に止まっているとしても、時間の経過とともに企業の評判、顧客や従業員、投資家からの信用が損なわれることもあります。


市場ではESG要素の価値評価がいまだ非効率
サステナブル投資への関心が急速に高まる一方で、金融市場はいまだ、短期的収益に明確な影響がない場合は特に、ESG情報の価格設定が不十分です。論文ではこの原因を「注意力不足理論」だとしています。それによって、投資家は簡単に処理できる目立った情報を理解しやすいと考えます。

さらに、インシデントデータと業績との相関関係が、数百のデータポイントを1つのスコアまたはランクに集約する第三者機関によるESG評価よりもはるかに強いことが突き止められました。

単にアルゴリズムに数字を打ち込むのではなく、過去のデータやインシデントがその企業の文化や統制について何を物語っているのか、入念に紐解く必要があります。

短期的視点の投資家の割合が高い銘柄はインシデントが起きた場合の負の反応が最も大きくなります。原因として、おそらくこのような投資家は企業の長期的収益力に対するESG実績の影響を軽視する傾向にあるからであると考えられます。長期投資家は将来の論争を予測し、リスクの高い銘柄を適切に売却しているようです。


投資家がESG情報を活かすには
これは、論争を見定める時には近因ではなく根本的な原因に目を向けるべきであることを示しています。

例えば、リコール問題が起きた場合は、その細かな内容よりも、それがビジネスの拡大を優先し、品質管理を犠牲にした文化を示唆していないかの方が重要です。

論争の後は、インシデントの再発防止のために行った改善を実証するよう企業に求め、説明責任を果たすよう要求しなければなりません。

そして、ポートフォリオを構築する際、他のすべての条件が同じであれば、「改善中」に分類される企業は、リスクの高さと長期的収益力の不確実性を反映させ、保有ウェイトを下げる必要があります。




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組織名
シュローダー・インベストメント・マネジメント株式会社
ホームページ
https://www.schroders.com/ja-jp/jp/asset-management/
代表者
黒瀬 憲昭
資本金
49,000 万円
上場
未上場
所在地
〒100-0005 東京都千代田区丸の内一丁目8番3号丸の内トラストタワー本館21 階
連絡先
03-5293-1500

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