インパクト投資に新興国市場が絶好の場である理由とは

ジョナサン・フレッチャー
新興国株式ファンドマネジャー、
新興国株式サステナビリティリサーチ・ヘッド


投資家がポジティブなインパクトを与えるうえで、新興国市場以上に可能性に満ちた場所はないと言ってもあながち間違いではありません。


投資家の間では自らの投資判断がどのようなインパクトを与えているのか、その理解に対する関心が高まっています。その意味でますます重要視されているのが新興国市場です。
新型コロナウイルスが招いた健康に対する危機は、世界の多くの人々が日常的に直面している厳しい現実を改めて浮き彫りにしました。国連の推定データによると、20億人以上が安全で栄養のある十分な食糧を日常的に得ることができていません。また、24億人が今現在も基本的な衛生サービスを利用できず、子どもの20%は学校教育を受けられていません。
こうした影響を被っている人々の多くが新興国市場で暮らし、パンデミックが以前から続くこれらの課題を悪化させています。


インパクト投資とは
インパクト投資の本質は、株主にとっての経済的なリターンと共に社会的な利益の創出を目指し、そのインパクトを測定することです。

国連で採択された持続可能な開発目標(SDGs)は、インパクト投資家がこうした目標の達成度合いを測る際の枠組みとなります。17あるSDGsの項目にはそれぞれに行動喚起と8~12のターゲットがあり、このSDGsの開発によって投資家の目標と投資行動との紐付けがより明確・具体的に定義付けられることになります。

インパクト投資の市場規模は現段階では非常に小さく、インパクト投資の活性化を目的に創設されたグローバルなネットワークであるGlobal Impact Investing Network(GIIN)の試算によると、2019年末時点でおよそ7,150億ドルです。

GIINが行った、総額4,040億ドルのインパクト投資を運用する294の投資家からの回答が含まれる年次調査では、調査対象者のうち、48%が先進国市場に投資し、43%が新興国市場に投資しています。残りの9%は先進国と新興国どちらにも集中投資をしていない投資家となりました(総資産のうち75%以上を投資している先で判定)。

インパクト投資市場の2,200億ドルに絞った調査の場合は、上場企業に投資していると答えた人の割合は19%にとどまりました。外れ値を除くと、新興国市場に集中的に投資している投資家のうち、上場企業への投資配分はわずか3%でした。

インパクト投資市場の成長余地は極めて高く、自分の価値観と投資目標とを合致させたい投資家ニーズを追い風に、市場拡大が予想されます。

従来、こうした課題解決の多くは慈善活動に任されていました。ですが、市場への投資によって環境、社会的目標と投資目標とを同時に実現できるという認識が徐々に浸透しています。
では、インパクト投資の根幹要素は実際にどのように機能し、新興国市場でのインパクト投資の機会はどの程度あるのでしょうか?


インパクト投資において新興国市場を選ぶべき理由
どこよりも環境・社会的課題の解決を必要としているのは新興国市場です。新興国には、世界の人口の86%に相当するおよそ66億人が暮らしています(国際通貨基金(IMF)調べ)。

新興国は深刻な気候変動リスクにもさらされています。気候変動の影響を最も受けやすい都市トップ10のうち9つが新興国にあります。多くの新興国で大気の質が問題視され、大気汚染が深刻な都市トップ50のうち45都市が新興国にあります。

社会的関心の高まりとともに、各国政府がこれらの課題への対応を進めています。多くの新興国が気候変動に関わるパリ協定に署名していますが、中にはESG(環境・社会・ガバナンス)課題について取捨選択的な姿勢をとっている国もあります。新興国は世界でも最も深刻な課題に直面していることから、必要とされる対応もかなりの規模に及ぶため、国の経済モデル自体を見直さざるを得ない可能性もあります。

先進国からのテクノロジーの共有がなければ、産業全体に負の影響が生じ、雇用や暮らしを脅かしかねません。加えて官僚主義という問題があり、つまり変化が遅々として進まないか、少なくとも実行圧力が相当高まらない限り先延ばしされる事態が危惧されます。

上場企業は重要な役割を負っています。製品やサービスを通じてはもちろん、事業活動のあり方や環境負荷の管理、雇用の点でもそうです。これらに関する判断はより直接的であり、スピードもあります。従って、投資家がインパクトを与えられる可能性は大きいと考えられます。

新興国市場の企業は全体としてインパクト投資やESGの取り組みの初期段階にあり、その性質上、幅広い投資機会が存在すると言えます。投資基準に合致する企業に投資することによって持続可能な成長を後押しでき、将来により大きなインパクトを与えられます。


新興国市場への投資リスク
新興国市場は投資家が大きな影響力を持つことのできる市場である一方、世界の他市場と比べて投資リスクが高いという事実も強調しておく必要があります。例えば、政治的、法的リスク、カウンターパーティリスク、オペレーショナルリスク、流動性リスクです。
投資の価値や収益が変動し、投資額を回収できない場合もあります。


実際の仕組み
インパクト投資の大原則の一つは、社会的利益は実質的でかつ持続可能である必要があることに加え、社会的利益を生み出す意図があること、成果が測定可能であることです。ですが、これらの基準は実際に何を意味するのでしょうか。

「意図がある」とは、企業側に何らかの環境的、社会的課題の解決意図が存在することを示す証拠があることを意味します。
「測定可能」とは、その活動によって人や地球にもたらされた成果を企業が測定する必要があることを意味します。
「実質的」とは、企業の製品またはサービスが1つ以上の環境・社会問題の解決に実質的に役立っていることを意味します。
「持続可能」とは、その企業がすべてのステークホルダーに配慮した経営を行っていることを意味します。

これらの基準が新興国市場へのインパクト投資を検討する鍵になります。企業への投資を判断する場合、シュローダーではここから導き出した3つの問いを用いています。
  1. 社会的貢献:その企業はすべての人々のより良い未来のために貢献しているか?社会的貢献を確認するために基本となるSDGと紐付けて考えます。
  2. 持続可能性:長期的な観点からビジネスが行われているか?長期的な事業継続性は持続可能性目標の支えです。シュローダーは、すべてのステークホルダーを公平に取り扱い、長期的な事業継続が可能と考えられる企業にのみ投資を行います。
  3. 経済的なリターン:その株式は優良な投資先であるか?シュローダーは資本コストを上回る持続可能なリターンが見込める企業を探します。

シュローダーでは、企業が環境や社会に与えるインパクトをより正確に測定するため、受賞歴のあるインパクト測定ツールであるSustainExを含むさまざまな独自ツールを開発しています。

前述の通り、新興国市場へのインパクト投資には一連の流れがあります。企業とエンゲージメントを実施し、慣行の改善や情報開示の強化を促すことがその基礎となります。

企業が上に挙げた基準をクリアしているかや、ステークホルダーにとっての成果に対するコミットメントは、定期的な対話があって初めて確認が可能になります。こうしたエンゲージメント活動に応じるかどうかだけでも、ビジネスの持続可能性に対する姿勢を示す証拠になり得ます。

新興国市場ではデータが不足しているケースも多々あります。データ不足はエンゲージメント活動なくして穴埋めできません。エンゲージメント活動はその企業が何を標榜しているかを確認する機会でもあり、グリーンウォッシングに惑わされるリスクを回避できます。グリーンウォッシングとは、環境への配慮を装いながらその実体がないことを言います。


基準に合致する投資
新興国市場にはインパクト投資の機会となる多種多様な企業が存在しています。例えば、製薬会社やクリーンエネルギーテクノロジー企業等、日々の事業活動を通じて何らかのSDGsに貢献している企業や、それ以外にも社会・環境問題の解決に貢献するために事業運営を進化させている企業もあります。

投資家であるシュローダーは、投資機会の分析を行う際にさまざまな定量的ファクター、ファンダメンタルファクターを考慮します。以下に、先程述べた基準をシュローダーではどのように判断しているか例を挙げてご説明します。ここに掲載する企業は有価証券の売買を勧める目的ではありませんのでご注意ください。通常の投資判断と同じく、バリュエーションが要です。優良企業へ投資することがが必ずしも正しいわけではありません。なお、記載されたコメントはそれぞれの企業の株価や企業価値に関する見解ではありません。


・Weg:ブラジルに本社を置く世界的電気機器メーカーです。再生可能エネルギーソリューションとより効率性の優れたモーターの普及に寄与しており、両事業ともに売上の約20%を占めています。
自社工場を含め、垂直統合された同社は古いモーターの交換と材料の再利用が可能です。バスや飛行機などのエレクトリック・モビリティやエネルギー貯蔵にも投資を行っています。ブラジル国内で大規模な投資を必要とする水・衛生設備に使用される装置を供給しています。




・ゲデオン・リヒター:ハンガリーの医薬品メーカーです。世界38カ国以上に拠点を置いています。
同社がインパクトを与えている主な領域は女性のヘルスケア、中枢神経系、バイオシミラー(先発バイオ医薬品の特許が切れた後に発売されるバイオ医薬品)に特化した医薬品の提供です。




・サムスンSDI:韓国の電気自動車、エネルギー貯蔵システム向けバッテリーの世界的メーカーです。
2003年からサステナビリティレポートを公表しているほか、詳細なサプライチェーンレポートを作成し、コバルト採掘に関する監査やリスク評価の点で業界を牽引しています。主要製品が持つプラスの影響のほかにも、温室効果ガス排出量とバッテリー製造時のエネルギー消費量の削減目標を定めています。



パンデミックによって高まる新興国市場へのインパクト投資の重要性
私たちは、投資家がさまざまな世界的課題にインパクトを与え、その解決を促すことができる可能性は高いと考えています。SDGsはこのプロセスを支える枠組みであり、世界中の政府や企業にそのメリットに対する認識が広がっています。例えば、中国は2060年までにカーボンニュートラルの実現を目指すと発表しており、政策面からもさらなる支援が期待できます。

新興国市場は、新型コロナウイルスの影響によってインパクト投資へのニーズが高まる一方です。世界がパンデミックから脱し始めるにつれ、環境・社会問題に一層の注目が集まることが予想されます。
インパクト投資へのニーズが高まる背景にはもう一つ、人口構造の変化という要因があります。具体的にはミレニアル世代やZ世代に富が移ることによって、経済的重要性も間もなく変化すると考えられます。これらの世代は環境・社会への影響といった問題への意識が高く、自分たちの価値観にあった投資ニーズの高まりが予想されます。

インパクト投資の重要性、妥当性はかつてないほど高まっています。



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この企業の情報

組織名
シュローダー・インベストメント・マネジメント株式会社
ホームページ
https://www.schroders.com/ja-jp/jp/asset-management/
代表者
黒瀬 憲昭
資本金
49,000 万円
上場
非上場
所在地
〒100-0005 東京都千代田区丸の内一丁目8番3号丸の内トラストタワー本館21 階
連絡先
03-5293-1500

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