昭和大学(東京都品川区・学長:久光正)大学院医学研究科博士課程3年の加藤真未(生理系生理学生体制御学分野専攻)と高山靖規講師(医学部生理学講座生体制御学部門)、砂川正隆教授(同)らは、フラボノイドの一種であるリクイリチゲニンが炎症悪化や腫瘍増殖に関わっているTMEM16A(*1)というイオンチャネルを阻害することを同定しました。これに加えて、リクイリチゲニンと生理活性が似ているエストロゲンによってもTMEM16Aが阻害されることが判明しました。これまでTMEM16Aを阻害する生体内ホルモンは発見されていなかったため、本研究結果は、特に性ホルモン研究における新たな視点を提唱することになります。
リクイリチゲニンは、漢方薬や甘味料として広く利用されている甘草(リコリス)に由来するフラボノイドの一種です。現在処方されている多くの漢方薬に含まれていますが、その生理活性に関する分子機構は不明確なままでした。
これまで、リクイリチゲニンとTMEM16Aに関する研究は、それぞれ別の研究領域に属していました。しかし、それらの既報を整理すると、リクイリチゲニンの生理活性はTMEM16Aの持つ生理的意義と一致している点が多いことが分かりました。
そこで本研究では、パッチクランプ法(*2)を用いてTMEM16Aの電流を解析することで、リクイリチゲニンのTMEM16Aに対する直接作用を検討しました。その結果、リクイリチゲニンはTMEM16Aに対し阻害効果を持つことが判明しました。
このことは、リクイリチゲニンの持つ抗炎症作用や抗がん作用における最初の作用点がTMEM16Aであることを示唆します。本研究により、これまで分断されていた2つの研究領域をつなぎ合わせることができました。
加えて、リクイリチゲニンはエストロゲンと同じような生理活性を有することが分かっています。そこで、エストロゲンによってもTMEM16Aは阻害されると考え、同じように実験を行いました。エストロゲンには複数の類似物がありますが、今回検討したものはエストロン、エストラジオール、エストリオール、エステトロールの4種類です。その結果、妊娠期に胎児の発達とともに分泌されるエストリオールによってTMEM16Aは阻害されました。このことは、妊娠期特有の生理学的変化にTMEM16A阻害が関わる可能性を示唆します。
また、ホルモンによるTMEM16A阻害はこれまで報告がありませんでした。本研究をきっかけとして、研究分野に新たな視点がもたらされると期待されます。
本研究成果は、2021年4月8日に『Frontiers in Pharmacology』に掲載されました。
■用語解説
*1 TMEM16A
Transmembrane 16ファミリーに属するクロライドチャネルの1つ。細胞内のカルシウム濃度が上昇すると活性化し、クロライド流動に起因するさまざまな生理現象に関与する。
*2 パッチクランプ法
イオンチャネルの活性化をイオン流動による電気的変化として捉える実験手法。イオンチャネルの機能を解析することに特化している。
■論文タイトル・著者情報
・雑誌名:Frontiers in Pharmacology
・論文タイトル:The Calcium-Activated Chloride Channel TMEM16A is Inhibited by Liquiritigenin
・著者名:Mami Kato, Yasunori Takayama*, Masataka Sunagawa* (*Corresponding author)
・掲載日時:2021年4月8日
・DOI : 10.3389/fphar.2021.628968
▼本件に関する問い合わせ先
昭和大学 医学部生理学講座生体制御学部門 講師
高山 靖規(たかやま やすのり)
TEL:03-3784-8110
Mail: ytakayama@med.showa-u.ac.jp
昭和大学 医学部生理学講座生体制御学部門 教授
砂川 正隆(すながわ まさたか)
TEL:03-3784-8110
Mail: suna@med.showa-u.ac.jp
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