東京工科大学(学長:大山恭弘)医療保健学部作業療法学科の清家庸佑助教らの研究グループは、日本臨床作業療法学会学術誌(注2)の2019年最優秀賞を受賞した、精神障がい者の生活障害の観察評価手法に関する研究(注1)もとに、新たなリハビリテーション開発の臨床研究に着手しました。
本研究は、吉備国際大学の京極真教授らとの共同研究によるもので、統合失調症など精神障害領域の当事者121名(表1)に対する調査をもとに、同研究グループが考案した生活障害の観察評価尺度と精神障がい者の主観的状態や健康状態との関連性を検証しました。その結果、観察評価でも当事者の主観と関連をもったアセスメントが可能であることが示されました。
現在、本研究成果をもとに、当事者の生活障害を改善するより質の高い精神科リハビリテーションの方法を検証するため、全国約20施設の協力のもと新たな臨床研究に着手しています。また従来は十分な生活支援の提供が困難であった重度の精神障がい者に対しても、より効果的な支援の可能性を探索しています。
【背 景】
近年、根拠に基づいた医療の重要性が高まるなかで、精神医療においても臨床評価に基づいた実践(MBC: Measurement-Based Care)は不可欠な要素とされています。うつ病患者を対象に行った無作為比較試験では、MBCを用いることで精神症状の早期軽減を実現することや、評価を定期的に行うことで治療の短縮化に有効であるとの報告もされています。一方で、全般的な精神医療では経験則に基づく実践が残存し、MBCの遅れが指摘されていいます。また現在の精神障害領域の作業療法は、身体障害領域に比べ集団療法が基本であり、自己の生活状況を適切に伝えることが困難な事例が存在するなど全てのクライエントにMBCを導入するには課題がありました。
【目 的】
本研究グループでは、クライエントが生活行為を適切にやり遂げることができない状態(作業機能障害)を改善する作業療法において、MBCを実施するための適切な評価手法として、作業機能障害の種類に関するスクリーニングツール(STOD: Screening Tool for the classification of Occupational Dysfunction)を開発しました。これは、クライエントの生活様式や心理的側面を観察で採点するものですが、こうした項目がどの程度健康状態や主観的状態と関連を有しているかは未解明であるため、本研究ではその関連性を検証することで、評価結果の解釈が深まることが期待されます。
【成 果】
121名のクライエントから得た回答をもとに、STODとクライエントの健康状態および主観的状態における関連性について、マルチレベル構造方程式モデリングにて分析を行った結果、STODはクライエントの健康状態および主観的状態と関連をもつことが明らかになりました。またSTODを用いた作業機能障害の観察評価は、クライエントの健康状態やQOL、リカバリーと関連する情報を提供し、精神障害領域のMBCに貢献することが示唆されました(表2、表3)。
(注1)論文名『「作業機能障害の種類に関するスクリーニングツール」と精神障害者の健康状態および主観的状態との関連性の検討』
■掲載URL
http://jscot.kenkyuukai.jp/journal2/journal_detail.asp?journal_id=3156
(注2)掲載誌(オンラインジャーナル)名『日本臨床作業療法研究No.6』(2019年12月9日発行)
■医療保健学部WEB
https://www.teu.ac.jp/gakubu/medical/
【リリース発信元】 大学プレスセンター
https://www.u-presscenter.jp/