新生児の経皮ビリルビン値及びバイタルサインの経時的マルチモニタリングをIoT技術で実現

 横浜国立大学工学研究院の太田裕貴准教授、稲森剛大学院生、横浜市立大学医学部小児科学の伊藤秀一主任教授、魚住梓助教らの研究グループは、新生児医療に向けた経皮ビリルビン値・SpO2・脈拍同時計測ウェアラブルデバイスを実証しました。シリコーンゴムを主材とした材料を新生児とデバイスのインターフェースに用いることで高密着性が実現され、微細加工を用いて光学設計を最適化することで経皮ビリルビン値・SpO2・脈拍の三つのバイタルを額から経時計測できるスマートデバイスを実証しました。さらに光療法中の経皮ビリルビン値の経時計測も可能であることも臨床試験で確認しました。その他のバイタルサインも同時に検出できるようなデバイスに発展させることで新生児医療の高度・高効率化及び在宅医療へのハードウェア技術としての展開が期待できます。本研究は、AMED 医療分野研究成果展開事業先端計測分析技術・機器開発プログラム(研究開発課題名:新生児黄疸治療最適化のためのスマート光線治療器の開発)のサポートのもとで行われました。
 成果は、Science姉妹紙であるScience Advancesに発表されました。。

本研究のポイント
  • 新生児黄疸の度合いの指標となる経皮ビリルビン値及びマルチバイタル(血中酸素飽和度(SpO2)、脈拍)についてIoT技術により同時かつ連続で取得することに成功した。
  • 経皮ビリルビン値の急激な上昇を捉え採血による治療判断が速やかに行えるようになる。
  • 光療法中においても経皮ビリルビン値の経時的計測が可能となる。
  • 今後、更に心電などの他のバイタルサインを同時に計測が可能な医療用スマートデバイスを実現することもできる。また在宅医療への展開を期待できる。

社会的な背景
 新生児は出産とともに、母体に依存した胎内環境から、自らの力で生存する必要がある胎外環境への適応を迫られます。その変化は極めて大きく、様々な事象により、その生命は容易に脅かされます。また、自ら症状を訴えることができないため、対応が遅れることも珍しくありません。そのような新生児における重要なパラメータの一部が脈拍、SpO2、経皮ビリルビン値です。
 計測方法については、医療従事者の負担を考慮し、経時的に生体情報を計測するための様々な機器が開発されてきました。また在宅医療への関心も高く一層手軽な生体情報の計測方法が求められています。
 ウェアラブル端末を用いたアプローチは、非侵襲的で望ましいですが、新生児の皮膚は非常にデリケートであるため、時間装着可能な、次世代のインターフェースの開発が必要不可欠となります。現在、脈拍、SpO2計測に関しては有線による計測を行うことができます。また、経皮ビリルビン値に関しては光学式ハンディデバイスでの計測が用いられています。それぞれが単独での計測であり、医療従事者の利用の観点から考えると新生児に対してアクセスしやすくかつ無線で経時計測が可能なデバイスが必要です。将来的に、小型、ウェアラブル、個人で購入可能な経皮ビリルビン値計測デバイスが実現されれば、新生児の入院日数を短くし、医師・看護師の負担が軽減され、さらには在宅医療における両親の安心や子の安全に繋げることができます。

実験手法
 フレキシブル基板上に青・緑・赤・赤外LED、フォトダイオード(PD)、プロセッシング回路、Bluetoothモジュールを載せることでデバイスの基板を作製しました。この基板は折り畳みが可能であるため、折り畳むことで従来よりも小型化することができ、そのうえで、基板の周囲を柔らかいシリコーンゴムを主材として構成し、額との密着性を高めました。さらに、透明な柔らかいレンズをLED上に形成することによって新生児の皮膚に計測光を効率的に入射することができるようになりました。無線を使用し本デバイス1台を用いて商用の黄疸計及び新生児用パルスオキシメータと比較しました。また、本研究では従来の黄疸計では困難であった光療法中の経皮ビリルビン値の経時的計測を実証しました。

研究成果
 新生児は出生により胎内から体外へ環境が変化することで、臓器をはじめとした体内環境が非常に不安定です。そのため、経時的なバイタルサインの計測が必要不可欠となります。新生児において特に重要な指標の一つが経皮ビリルビン値です。経皮ビリルビン値が高くなると黄疸が発症します。新生児黄疸は新生児の6割~8割で発症し、重症な場合は脳機能障害等の重篤な後遺症につながります。黄疸を発症しやすい黄色人種の世界的な進出とともにこのような経皮ビリルビン値計測に関する需要は世界的に高まっています。また経皮ビリルビン値と他のバイタルサインの手軽かつ経時的な計測方法の確立は、新生児のQOL(Quality of Life)の改善だけではなく、在宅医療への高い需要に応える技術となります。本研究では、シリコーンゴムを主材とした材料を新生児とデバイスのインターフェースに用い、光学設計を最適化することによって、デバイス装着の高密着性を実現しつつ高効率で新生児に対して負荷が少ないウェアラブル型の経皮ビリルビン値・SpO2・脈拍計測デバイスを実現し(図1)、臨床でその有効性を実証しました(図2)。額から計測したバイタルサインを(図3)、Bluetoothを介してPC及びスマートデバイスで同時かつ経時的に確認できるようになりました。経時的計測の実現により経皮ビリルビン値の急激な変化を捉えることができ、さらにはビリルビン値が高い新生児の一般的な治療法の一つである光療法中の経皮ビリルビン値の計測も可能となり、これまでにない簡便かつ小型な新生児用ウェアラブル型スマートデバイスを実現しました。

今後の展開
 本研究グループは、脈拍、SpO2、経皮ビリルビン値が計測できる大きさ縦3cm×横5cm、16グラムの新生児向けのウェアラブルセンサを開発しました(図1)。今後はさらに心電、呼吸などの他のバイタルサインの計測と連動して、新生児の様々なバイタルサインを包括的に計測できるウェアラブルセンサを開発して行く予定です。これらをセンシングできる安定的なデバイスを実現することで、在宅で両親が安心して新生児・小児を看護できる環境や在宅医療への更なる展開を期待することができます。




図1 新生児用ウェアラブル型マルチバイタル計測デバイス



図2 開発したデバイスを用いて計測した心拍数, SpO2, 経皮ビリルビン濃度



図3 デバイスを装着した新生児


発表雑誌
雑誌名:Science Advances
論文題目:Neonatal Wearable Device for Colorimetry-based Real-time Detection of Jaundice with Simultaneous Sensing of Vitals
著者:Go Inamori, Umihiro Kamoto, Fumika Nakamura, Yutaka Isoda, Azusa Uozumi, Ryosuke Matsuda, Masaki Shimamura, Yusuke Okubo, Shuichi Ito, Hiroki Ota
DOI:10.1126/sciadv.abe3793.
本件に関するお問合わせ先
横浜市立大学 広報室
E-mail:koho@yokohama-cu.ac.jp

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