新潟大学、東京工業大学、日本工業大学らの研究グループでは、総務省・戦略的情報通信研究開発推進事業(SCOPE)フェーズIIにおいて、「超小型マルチビームアンテナと無人飛行機による伝搬環境制御技術の研究開発」を進めてきました。その研究成果の一部として、日本工業大学 基幹工学部 電気電子通信工学科の平栗健史教授らは、疑似/仮想空間におけるCross-Layerシミュレーターを開発しました。
無線通信品質の計算機シミュレーション評価指標として、これまでは主に物理的な伝搬特性が使用されてきました。また、通信プロトコルなどの評価は、任意の伝搬パラメータなどを固定的に使用して評価されてきました。すなわち、各レイヤ(アンテナ、送受信機、通信プロトコルごと)で個別に評価されるのが一般的な方法となります。しかし伝搬特性は、変動することや、複雑な地形や構造物がある条件での通信品質を正確に評価するために、これまでの方法では、上位レイヤを含む通信システムやサービス(例えば、スマートフォンのネットサービスや音声通話、動画配信サービス、Wi-Fiや5Gなどの実際にユーザが体感できる通信速度など)としての性能を判断することは難しいものでした。
そこで、本研究開発では、飛行するドローン間の高速通信を実現することを目的とし、空中で飛行するドローンが建物などの障害物や地形の変化に応じて高低差のある立体的なネットワークを構築することを想定した、これまでに無い3次元無線ネットワークの研究開発に取り組んできました。
このような背景から、電波伝搬からアプリケーションにまたがったクロスレイヤ評価を実現する「3次元疑似空間における無線通信Beyond Cross-Layerシミュレーター」の開発に至っています。このシミュレーターの特徴は、図1のように疑似的な建物などの地図情報から、電波の反射をレイトレース法(注1)により計測し、複数の電波のパスから得られた電力や遅延データなどを、図2の構成のように上位の通信プロトコルに同時に引き渡すことによって、実際に使用するアプリケーション(ネットサーフィンや音声通話、映像配信など)としての通信品質評価を求めることができます。つまり、これまでは、このような詳細なデータを得るためには実機によって実際にフィールド実験をする方法が一般的でしたが、本シミュレーターでは現地での事前実験などが不要となります。
このシミュレーターは、飛行するドローンの通信評価のために開発されたものですが、実は汎用性が非常に高く、現在注目されている5G基地局の置局設計や、未だ開発されていない将来の6Gなどの通信品質も仮想的な空間でシミュレーションすることが可能となり、通信業者をはじめ、新たな無線サービスを始めるための評価ツールとして期待されています。図3は、このシミュレーターを用いて西新宿での地図情報をもとにWi-Fiの通信を評価した例です。今後は、研究開発ベースのものを商用化する形で企業などと連携して進めていく予定です。
【用語説明】
(注1)レイトレース法:電波を光に見立てて直接波や反射と回折の電波のパスを近似する方法
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