遠隔での共同デジタル試作を可能にし、アフターコロナを見据えた新たな自動車開発を実現
株式会社東芝の100%子会社である東芝デジタルソリューションズ株式会社(本社:神奈川県川崎市、取締役社長:島田 太郎、以下 当社)は、自動車メーカーや部品サプライヤーで普及が進んでいるモデルベース開発を進化させ、サイバー空間上で企業の枠を超えた車載システムの共同デジタル試作を可能にする「分散・連成シミュレーションプラットフォーム」(以下、VenetDCP注1)の販売を開始します。当社は、アフターコロナを見据えた新たな自動車開発の姿を提案し、その発展に貢献していきます。
近年、車載システム開発では開発効率を高めるためにモデルベース開発が急速に普及しています。モデルベース開発とは、車載部品のモデルや、自動車を取り巻くさまざまな交通環境(道路、歩行車、自転車、標識、他の車など)を模擬した外界のモデルによるシミュレーションを用いた開発のことで、開発の前倒しや後戻りの抑制を実現できることから、車載部品単体の開発における活用が先行して進んでいます。
一方、自動運転のように多数の部品やシステムを相互連携して機能を実現する近年の自動車では、実車評価段階ではじめて「仕様の不備」や「仕様の誤解や見落とし」などがわかり、開発の後戻りが発生することもあります。そのため、各部品のシミュレーションだけでなく、各企業が保有する複数のモデルを集めて接続し、車両全体をシミュレーションするニーズが高まっています。
当社のVenetDCPは、自動運転や先進安全システムなどの大規模で複雑な車載システムの開発において、自動車メーカーと部品サプライヤーが“分散”して保有するモデルとシミュレーションツール同士を、サイバー空間上で一つにつなぎ“連成”させることで、開発の初期段階からシミュレーションを繰り返し実施することを可能にし、設計の手戻り作業の削減、品質の改善、生産性の向上を実現します。
VenetDCPは、米国マスワーク社製のMATLAB®/Simulink®など、車載システム開発で使われる多くのシミュレーションツールをつなぐことができます。異種のシミュレーションツールの間でモデルを相互利用するための世界標準規格であるFMI(Functional Mock-up Interface)注2に準拠しており、ツール間接続の親和性を高め、大規模な分散・連成シミュレーションが可能です。
当社は、企業間でのモデルの流通と連成シミュレーション活用の仕組みやプロセスの標準化活動団体である、ドイツのprostep ivip association注3に加盟しました。また、日本国内においては2018年4月に経済産業省が発表した「SURIAWASE2.0の深化」注4に賛同し、この活動に協力して参ります。これらの活動を通して、自動車メーカーと部品サプライヤーが共同で車載システムのデジタル試作を行うための標準プラットフォームの整備と確立を目指します。
また、当社は株式会社電通国際情報サービスとの間で、VenetDCPに関する共同マーケティングの実施とVenetDCPおよび関連サービスに関する両社の役割分担等の協業ストラクチャーの検討をすることで基本合意いたしました。VenetDCPと、株式会社電通国際情報サービスが提供するiQUAVIS (アイクアビス、設計開発の見える化ツール)やクラウドCAEソリューションなどのソリューションを融合させることで、車載システムの開発コスト削減や効率化の実現を目指します。
なお、今回販売開始するVenetDCPは、2019年11月の東芝グループ「2019年度技術戦略説明会」の場で新たに提供開始予定と紹介した、インダストリアルIoTサービス「TOSHIBA SPINEX注5」の一つ注6です。
新型コロナウイルス感染拡大に伴う世界的な社会およびビジネスの環境変化の中で、さまざまな企業がネットワークを介して有機的につながり、設計情報や知識を互いに共有し協働することが、企業活動を継続・発展させるためにますます重要になっていくと考えられます。当社は、サイバーとフィジカルを融合させるCPSテクノロジーにより、自動車メーカーと部品サプライヤーがサイバー空間上で車載システムの共同デジタル試作を行うための世界標準プラットフォームを提供し、アフターコロナの自動車産業の発展に貢献していきます。
今回のVenetDCPの販売開始にあたって、以下の会社および団体よりコメントを頂きました。
<マツダ株式会社 統合制御システム開発本部技監 原田靖裕様>
マツダは、1990年代半ばから開始したマツダ・デジタル・イノベーション(MDI)を通して培ってきたバーチャル・シミュレーションやモデルベース開発に関する知見を活かして、社内設計部門間および部品サプライヤーとの間でシミュレーションとモデルを共有する取り組みを行ってきました。また、経済産業省の「SURIAWASE2.0」の活動を通して、バーチャル・シミュレーションを活用した自動車開発における国際標準ルール作りに参画しています。
東芝デジタルソリューションズのVenetDCPは、これからのモデルベース開発の企業間連携を普及・加速させるための有力ツールとして大いに期待できるものだと考えております。
<株式会社電通国際情報サービス 上席執行役員 製造ソリューション事業部長 岩本 浩久様>
株式会社電通国際情報サービスが開発・提供するiQUAVISは、自動車や精密機器などの複雑なシステム製品の構想設計段階において、設計のすり合わせが必要な箇所を特定し、最適な設計手順を導くことができる日本初の構想設計支援システムです。
今回、東芝デジタルソリューションズのVenetDCPをソリューションとして提供することによりiQUAVISも含めたモデルベース開発に取り組む顧客企業の更なる設計検討プロセス効率化に貢献してまいります。
<prostep ivip association General Manager, Alain Pfouga様>
デジタル化社会に向けてのprostep ivipの諸活動をよりグローバルな規模に拡大するために、東芝デジタルソリューションズが取り組みを加速させていることに感謝します。prostep ivipへの加盟を歓迎します。
図1 分散・連成シミュレーションプラットフォームの概要図
図2 VenetDCPの主な特長
注1:VenetDCP(DCP:Distributed Co-simulation Platform)、ベネットDCP
注2:FMI
https://fmi-standard.org/
注3:prostep ivip association
https://www.prostep.org/en/
注4:経済産業省 平成30年4月4日 ニュースリリース
自動車産業におけるモデル利用のあり方に関する研究会今後の方針『SURIAWASE2.0の深化』をとりまとめました
https://www.meti.go.jp/press/2018/04/20180404003/20180404003.html
注5:TOSHIBA SPINEXとは、「東芝IoTリファレンスアーキテクチャー」に準拠したインダストリアルIoTサービスの総称です。グローバル標準に準拠した東芝IoTリファレンスアーキテクチャーを採用することで、スピーディーにサービス提供を実現するとともに、高い保守性を確保したサービスとして展開していきます。
https://www.toshiba.co.jp/iot/spinex/
注6:VenetDCPは、2019年11月28日 東芝グループ「2019年度技術戦略説明会」にて今後提供開始予定として発表した「TOSHIBA SPINEX」のサービスの一つで、製造業向け「車載制御モデル 分散連成シミュレーションプラットフォーム」に該当します。
https://www.toshiba.co.jp/about/press/2019_11/pr_j2801.htm
注7:通信仕様とは、通信のデータ形式、通信周期、送受信の相手を規定したものです。(図1,2)
注8:バスコネクタとは、通信仕様に従い、データを送受信する機能モジュールです。(図1,2)
*VenetDCPは、東芝デジタルソリューションズ株式会社の日本における登録商標または商標です。
*iQUAVISは、株式会社電通国際情報サービスの登録商標です。
*MATLAB,Simulink は、The MathWorks, Inc.の登録商標です。
*その他、本文章に記載されている社名および商品名はそれぞれ各社が商標または登録商標として使用している場合があります。
■「分散・連成シミュレーションプラットフォーム」
https://www.toshiba-sol.co.jp/industry/venetdcp/index_j.htm