【本件のポイント】
●イオン注入法を用いてダイヤモンド基板中にドーピングした不純物ボロンの実用レベルでの高効率p型活性化に世界で初めて成功した。
●基板温度室温でボロンイオン注入を行った後、1300℃程度の加熱処理により、不純物ボロン原子の置換率が約80%に達した。また、キャリア移動度も期待される最高値に匹敵する値が得られた。
●本研究により、イオン注入によるダイヤモンドへのp型不純物ドーピングに実用レベルで成功したことで、ダイヤモンド基板上への微細デバイス構造形成に向けた一つの解が示され、ダイヤモンドパワーデバイス実現への大きなブレイクスルーとなった。
●5Gと呼ばれる超大容量・超高速通信技術分野で米国、中国がしのぎを削っている中で、現在半導体製作技術の主流となっているSiのLSIプロセステクノロジーの範囲内で、ダイヤモンド半導体の高効率な電気的活性化に日本発として成功したことは特筆に値する。
Japanese Journal of Applied Physics(JJAP)誌に2020年2月7日にオンライン公開された理学研究科大学院生 関裕平(博士後期)、星野靖 特別助教、中田穣治 教授らによる共著論文が''SPOTLIGHTS(2020)''論文に選出されました。本研究が、ダイヤモンド半導体の実用化へ向けた大きなブレイクスルーとなったことが高く評価されました。
※このSPOTLIGHTS論文は、毎月JJAP誌に掲載される論文の中から、特に今後の応用物理の発展に寄与すると思われる優秀論文を編集委員会が選出するものです。
・雑誌名:Japanese Journal of Applied Physics, 巻号:59, 論文番号:021003
・論文タイトル:Electrical properties and conduction mechanisms of heavily B+-ion-implanted type IIa diamond: effects of temperatures during the ion implantation and postannealing upon the electrical conduction
・論文URL:
https://iopscience.iop.org/article/10.35848/1347-4065/ab699c
【研究の概要】
ダイヤモンドはバンドギャップ 5.5eVのワイドギャップ半導体であり、知られている半導体材料の中で最も高い絶縁破壊電界や熱伝導率を有することから、次世代の省エネルギー高出力パワー半導体デバイス基板として期待されています。これまで1970年代から約50年にわたり世界中の研究者により、ダイヤモンド半導体実現に向けた研究が精力的になされてきましたが、様々な理由から未だ実用化には至っていません。実用的な半導体デバイスの作製には、高品質基板の安定的供給とp型・n型キャリア伝導性の制御、動作温度におけるキャリアの十分な電気的活性化が不可欠です。特にデバイスの微細構造形成には、p型およびn型領域の高度なドーピング制御が求められます。シリコンテクノロジでは、イオン注入法を用いて、指定の領域と深さに対して不純物原子をドーピングすることが一般的な手法となっていますが、ダイヤモンド基板へのイオン注入による不純物ドーピングとその実用レベルでの電気的活性化に成功した例は皆無でした。
理学部数理・物理学科の中田穣治 教授、星野靖 特別助教の研究グループは、これまで不可能だと思われていたイオン注入によるダイヤモンドへの不純物ドーピングと電気的活性化に関する研究を10年以上にわたり取り組んできました。まず本研究において、高品質ダイヤモンド基板に対して、基板温度室温で130nm深さまで一様な濃度でボロンイオン注入を行った後、1150~1300℃程度の比較的低い温度で加熱処理することにより、注入したボロン原子の約80%がダイヤモンド炭素原子と置換されることを見出しました。また、キャリアの移動度もドーピングされた不純物の濃度に対して期待される値に匹敵するものが得られました。本研究によりイオン注入法を用いたダイヤモンドへの不純物ドーピングに実用レベルで成功したことで、ダイヤモンドパワーデバイス実現への大きなブレイクスルーとなりました。
特に本研究の成功に当たって重要な役割を果たしたものが、数理・物理学科中田研究室有する、液体窒素温度(-196℃)から1000℃の広い温度範囲において4インチ領域に一様にイオン照射可能な200kV中電流型イオン注入装置です。
【中電流型イオン注入装置(画像)】
5〜200keVのエネルギー範囲で各種イオンを加速し、ターゲット試料温度を-200℃〜1000℃まで制御してイオン照射が可能
※日本では他に例を見ない特別仕様のイオン注入装置は、ダイヤモンド半導体作製の研究以外においても、日本各地の研究機関や海外企業などから問い合わせがくる優れた研究装置の一つです。
※最後に、本研究の大部分は理学研究科博士後期課程(2020年3月修了(予定))関裕平を中心になされた研究の成果です。
▼本件に関する問い合わせ先
研究支援部 平塚研究支援課
TEL:045-481-5661
【リリース発信元】 大学プレスセンター
https://www.u-presscenter.jp/