ウィルスを使わないナノカプセルでがん治療へ向けた共同研究を開始
国立大学法人信州大学(長野県松本市,学長:濱田州博,以下,信州大学)医学部小児医学教室の中沢 洋三教授らの研究グループと、株式会社東芝(本社:東京都港区,代表執行役社長:綱川 智 以下,東芝)は、ナノサイズのカプセルである生分解性リポソームによって遺伝子を細胞に運ぶ技術をがんの遺伝子治療(注1)に応用する共同研究を開始しました。生分解性リポソームは、標的となる細胞にカプセル内の治療遺伝子を効率よく運ぶことが可能であり、また量産にも適していることから、適用範囲の拡大も期待できます。今後、信州大学のがん研究と東芝の材料研究を融合することで、がんの遺伝子治療の普及に貢献してまいります。
がんは1981年以降一貫して日本人の死亡原因の1位(注2)であり、2018年のがんによる死亡者数は約37万人、生涯でがんに罹患する確率は男性62%、女性47%に上ります(注3)。がんを患っても、効果の高い治療によって生存率を向上することは社会的に重要な課題です。
こうした課題を解決するため、近年、次世代のがんの治療法として遺伝子治療の有効性が注目され、実用化が始まっています。がんの遺伝子治療は、治療遺伝子をがん細胞の中に運ぶことによって、がん細胞の増殖を抑制したり、がん細胞を強制的に死滅させたりする効率的ながん治療法です。遺伝子治療は、抗がん剤治療や放射線治療が効かなくなったがんにおいても高い治療効果が期待できます。現在のがんの遺伝子治療では、治療遺伝子の運搬にウィルスが使われていますが、安全性や量産性の点で課題もあります。遺伝子治療を普及するためには、運搬効率が良く、安全で量産が容易な遺伝子運搬技術の開発が望まれます。
そこで、信州大学と東芝は、ウィルスを使わない治療遺伝子の運搬容器として生分解性リポソームを活用する共同研究を開始しました。本共同研究では、信州大学の医学的知見に基づく治療用遺伝子を患者のがん細胞に効果的に運搬し、細胞内で治療効果を発揮するため、治療用遺伝子を内包した生分解性リポソームの研究開発を行います。生分解性リポソームは、細胞の中でのみ分解する独自の脂質を主成分としており、ウィルスを使用せずに簡便で効率よく細胞の中へ遺伝子を運ぶことができます。また、細胞の細胞膜の特性の違いに応じて生分解性リポソームの構造を設計することで、標的となるがん細胞へ遺伝子を運びます。さらに、工業的なプロセスによる量産化が可能です。
今後、信州大学のがん研究と東芝の材料研究を融合することで、遺伝子治療の普及に向けた課題の解決に取り組んでまいります。
東芝グループは、「東芝Nextプラン」において「超早期発見」「個別化治療」を特徴とした精密医療を中核として医療事業への本格的な再参入を表明しております。東芝の材料技術である「生分解性リポソーム」により、患者のがん細胞の特徴に応じた遺伝子の運搬が期待できます。これにより、遺伝子治療の効果の向上、適用範囲の拡大の実現へ向けた貢献を進めていきます。
東芝グループは、精密医療事業を本格的に推進するため、「一人ひとりのクオリティ・オブ・ライフ(QOL)の向上を応援します」「積み重ねた技術力と、新たなパートナーシップでこれからの先進医療・ライフサイエンスを支えます」「次の世代も見据えた予防医療にデジタルの力を活かします」の3つを目標とする「精密医療ビジョン」を実現するため、同じ未来を志すパートナーの皆さまとともに、予防から治療まで一人ひとりに寄り添った精密医療の実現に貢献してまいります。
(注1)遺伝子治療
ある遺伝子を細胞内に入れ、その遺伝子が作り出すたんぱく質の生理作用により細胞の機能を修復、増強、または抑制することで病気を治療する方法。
(注2)がんは日本人の死亡原因の1位
平成30 年の死亡数を死因順位別にみると、第1位はがん(悪性新生物<腫瘍>)で37万3547人(死亡率(人口10万対)は300.7)、第2位は心疾患(高血圧性を除く)で20万8210(同167.6)、第3位は老衰で10万9606人(同88.2)、第4位は脳血管疾患で10万8165人(同87.1)。
主な死因の年次推移では、がん(悪性新生物<腫瘍>)は一貫して増加し、1981年以降現在まで死因順位は第1位。
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai18/dl/gaikyou30.pdf
(注3)2014年全国推計値データに基づく累積罹患リスク https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html