もやもや病の責任遺伝子が脂肪代謝の制御因子であることを発見 -- 京都産業大学



日・中・韓で多い原因不明の難治性脳血管疾患であるもやもや病の責任遺伝子としてミステリンが見つかっていたが、そのはたらきは不明であった。京都産業大学タンパク質動態研究所の永田和宏所長、森戸大介主任研究員(現・昭和大学医学部講師)はミステリンの分子クローニングを行い、その活性、構造、発現制御機構などを明らかにしてきたが、今回、ミステリンが細胞内の“脂肪滴”に局在して、脂肪の分解を止めて、細胞内の脂肪蓄積を増やすはたらきを持つことを突き止めた(青山学院大学、北海道大学との共同研究)。
今回の発見はもやもや病の全容解明へ向けての大きな一歩であり、また、脂肪代謝の新たな制御メカニズムの発見でもある。





 もやもや病は東アジア(日・中・韓)に多い脳血管疾患で、脳への主要な血液供給路である内頸動脈が、脳底部で原因不明の狭窄・閉塞を起こし、血流障害、血液不足(虚血)による虚血発作・脳梗塞を引き起こす疾患である。
 60年以上前に日本で見つかった疾患で原因は現在も不明であり、重篤、また根治療法の確立されていない疾患であることから、「難病の患者に対する医療等に関する法律」(平成26年法律第50号)に基づき難病に指定されている。
 これまで京都産業大学タンパク質動態研究所の永田和宏教授、森戸主任研究員らはミステリン遺伝子の初めての分子クローニングを行い、ミステリン遺伝子には巨大な細胞内タンパク質がコードされており、ATP加水分解活性や物理運動活性、ユビキチンリガーゼ活性を示すことなどを解明してきた(2014年、2015年、 2017年)。しかし、ミステリンがこれらの酵素活性を使って細胞内で何をするのかは不明であり、また、もやもや病変異により、どのような機能異常が起こるのかも明らかでなかった。

 今回、永田教授、森戸研究員、杉原宗親大学院生、會退詩央莉大学院生らの研究グループが、ミステリンタンパク質の細胞内局在を高解像度の共焦点レーザー顕微鏡により観察したところ、ミステリンが脂肪滴と呼ばれる細胞内の脂肪貯蔵部位に集積して、脂肪代謝の制御因子としてはたらくことが明らかとなった(図1)。
 ミステリンは脂肪滴上に局在して、脂肪滴表面の主要な脂肪分解酵素ATGLを脂肪滴から排除することで、脂肪滴を安定化するはたらきを持っていた。ミステリンのATP加水分解酵素活性を破壊すると、ミステリンは脂肪滴へ局在しなくなり、脂肪安定化機能も失われた。リアルタイム蛍光観察データや、以前に解明したミステリンのATPアーゼサイクル型複合体形成メカニズムと合わせて、ミステリンはATPアーゼサイクルと連動して脂肪滴に局在していることが推測された(図2)。
 さらに、白人もやもや病患者で同定されたユビキチンリガーゼ変異により、ミステリンは脂肪滴から離れ、異常な凝集様の構造を形成することも分かった。これらの観察から、脂肪分解バランスの異常かミステリン凝集による未知の毒性のどちらか、またはその両方がもやもや病の原因である可能性が示唆された。
 今回、もやもや病の責任遺伝子が意外にも脂肪代謝の制御因子であることが明らかになった。この発見を機に、これらの解析を進めることで、近い将来にもやもや病発病プロセスの全貌が明らかになることが期待でき、さらに根治療法確立への大きなヒントが得られるものと考えられる。
 また、今回の発見は脂肪代謝の新たな因子の発見でもあり、今後、この因子ミステリンの機能をさらに解明することにより、各種の脂質代謝異常(肥満、動脈硬化、糖尿病等)の解決につながる可能性がある。
 本研究の成果は、米国東部時間2019年1月31日9時(日本時間2019年1月31日23時)に、細胞生物学の専門誌「The Journal of Cell Biology」(ロックフェラー大学出版)のオンライン速報版で公開された。

むすんで、うみだす。  上賀茂・神山 京都産業大学

※図の解説
・図1:ヒト子宮がん由来HeLa細胞を用いた染色。左図と右図は同一の視野の特定の染色シグナルだけを抜き出している(左図:赤、右図:赤、青、緑)。赤色はミステリン、青色は細胞核(N)、緑色は脂肪滴の中性脂肪(LD)を示す。右上の白線は5 mを示す。ミステリンが直径1 μmの脂肪滴を密に取り囲んでいるのが分かる。画像は共焦点レーザー顕微鏡を用いて撮影しているので、細胞の水平断面として視覚化している。実際にはミステリンは円を形成するのではなく球を形成している。
・図2:ミステリン(青紫)は通常、1分子の状態で細胞内に浮遊している。ATPと結合した状態で、脂肪滴(LD)の表面に移動して、推定6分子のドーナツ状複合体を形成する。この状態でATPを加水分解して、化学エネルギーを物理エネルギーに変換し、何らかの機械的な運動をした後、脂肪滴から遊離して1分子状態に戻ると考えられる(ATPアーゼサイクル型複合体形成)。ミステリンが脂肪滴上で実際にどのような機械運動をしているのか不明だが、結果として、脂肪分解酵素ATGLが脂肪滴上に存在できないような環境を作り出すらしい。


【関連リンク】
・もやもや病の責任遺伝子が脂肪代謝の制御因子であったことを発見
 https://www.kyoto-su.ac.jp/news/20190201_850_mysterin.html
・京都産業大学 総合生命科学部 永田和宏 教授らの研究グループが モヤモヤ病の発症に関わるタンパク質ミステリンの構造を解明
 http://www.kyoto-su.ac.jp/department/nls/news/20140325_news.html
・京都産業大学研究ブランディングサイト「生命とタンパク質の世界」
 https://www.kyoto-su.ac.jp/protein/


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