白鴎大学教育学部の山野井准教授らの研究チームが「子供の自然離れ」について調査 -- 子供と親の興味関心が影響



白鴎大学(栃木県小山市)教育学部の山野井貴浩准教授らの研究チームは、栃木県内の小学5・6年生約5,400人を対象に「子供の自然離れ」に関するアンケート調査を実施。地域の都市化が進んだとしても、子供と親の興味関心を促せば、子供の自然体験は維持できるとの調査結果を発表した。調査内容は、国際学術雑誌『Landscape and Urban Planning』誌(2018年12月号)に掲載予定。




■本件の背景
 急速な都市化の進行や生活環境の変化に伴い、子供たちが自然と接する頻度は減少の一途を辿っている。実際に、独立行政法人国立青少年教育振興機構が2010年に全国の小中高生を対象に行った調査によれば、山登りや木登り、昆虫採集などの自然体験をしたことがない子供の割合は、ここ10年間で軒並み増加していることが分かっている。こうした「子供の自然離れ」は、日本国内だけでなく、英国・米国、中国など多くの先進国でも報告されている。

 このように、子供が日常生活で自然と積極的に関わらなくなることは「経験の消失」と呼ばれ、健康や教育等の面から大きな社会問題として、また環境破壊に歯止めをかける上での根本的な障害のひとつとして認識されている。しかしながら、この「経験の消失」がどのような要因によって引き起こされ、「経験の消失」を回避するためにはどのような対策が必要なのかは未だ分かっていない。

■調査概要・結果
 今回、白鴎大学と東京大学、東京学芸大学の研究チームは、栃木県教育委員会の賛同を得て、県内全域の5,402人の小学生5、 6年生(計45校の小学校)を対象としたアンケートを実施(図1)。子供の日常的な自然体験頻度(近くの林や草むらに行ったり、動植物を観察する頻度など)がどのような要因によって引き起こされているのかについて調査した。
 具体的には、
(1)学校周辺の都市化度(周囲1km以内の市街地率)
(2)自然に対する関心の高さ
(3)放課後の自由な時間の量
(4)デジタル娯楽(テレビやスマホ、ゲーム等)の使用
(5)子供の自然遊びに対する保護者の態度
の5つの要因に焦点を当て、どれが最も子供の自然体験頻度と関連しているのかを調べた(表1)。

 アンケートを集計した結果、子供の自然体験頻度は、対象とした小学生の中でも大きなばらつきがあることが分かった(図2)。例えば、身近な緑地等(公園や草むら、雑木林や河川敷)への訪問については、全体の約7%の小学生は「ほとんど毎日している」と答えた一方、約20%の子供は「全くしない」と答えた(図2)。これは、身近な緑地での動植物の観察でも同じだった(図2)。次に、この「自然体験のばらつき」が何によって引き起こされているのか調べた。

 データ解析の結果、子供の自然体験頻度は、大きく(1)学校周辺の都市化度(2)自然に対する関心の高さ(3)子供の自然遊びに対する保護者の態度 の3つの要因と有意に関連していることが分かった。
 具体的には、都市化があまり進んでいない学校に通う子、自然に対する関心が高い子、自然遊びに対してポジティブな態度をとる保護者(例:自然がある場所に連れていったり、自然遊びは楽しいことだと子供に言う大人)の子は、より沢山の自然体験を日常的に行うことが分かった。
 3つの要因の相対的な影響力を調べてみると、自然に対する関心の高さと、子供の自然遊びに対する親の態度の2つの要因が突出して強い影響力を持つことが分かった。学校周辺の都市化度については、統計的には有意な影響を持っていたものの、その相対的な影響力は他の2つの項目と比較して弱いことも判明した。

 以上の結果をまとめると、「子供の自然体験は、学校周辺の自然度の高さではなく、子供自身の自然に対する興味や保護者の態度によって決まる」ということがいえる。この結果は、子供と自然との関わり合いを考える上でとても重要な示唆を含んでいる。
 具体的には、(1)今後、子供の自然遊びを増やすためには、学校周辺に自然と遊べる環境を増やすだけでは不十分であり、子供と親の自然に対する関心・興味を促すことが肝要であること。またその一方で、(2)たとえ都市化が進んだ地域でも、子供と親の自然に対する興味や関心を促せば、子供の自然体験は維持することができること を示している。
 学校教育等を通じて子供や保護者の自然に対する興味や関心を促すことは、子供の「経験の消失」を防ぐ上でとても重要な働きを持つと考えられる。

■掲載誌
国際学術雑誌『Landscape and Urban Planning』誌(2018年12月号)で公表される予定
タイトル:What are the drivers of and barriers to children's direct experiences of nature?
(和訳:何が子供の自然体験の原動力および障壁なのか?)
著者:曽我昌史(東京大)、山野井貴浩(白鴎大)、土屋一彬(東京大)、小柳知代(東京学芸大)、金井正(白鴎大)

<参考資料>
図1. 今回の調査でご協力いただいた45校の栃木県内の公立小学校
図2. 調査対象の子供の自然体験頻度
表1. 今回の研究で、子供の自然体験に影響を与えると想定した5つの要因の回答結果

■研究者プロフィール
 山野井 貴浩 (ヤマノイ・タカヒロ)
 白鴎大学教育学部准教授
・学位:博士(学際情報学)
・専門分野:理科教育
・受賞
 2010年1月 日本生物教育学会 奨励賞
 2012年6月 日本進化学会 教育啓蒙賞 など
・著書:「改訂生物」(共著)、「改訂生物基礎」(共著)など

▼研究に関する問い合わせ先
 白鴎大学教育学部・山野井研究室      
 TEL:0285-22-8900(代表) 

▼本件に関する問い合わせ先
 白鴎大学 広報課
 〒323-8586 栃木県小山市駅東通り2-2-2
 TEL:0285-20-8117


【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/

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組織名
白鴎大学
ホームページ
http://www.hakuoh.ac.jp/
代表者
北山 修
上場
非上場
所在地
〒323-8585 栃木県小山市大行寺1117

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