東京農工大学が電子材料や生理活性物質の鍵構造である「共役テトラエン」を安価な原料からワンポットで合成する世界初の触媒反応に成功~電子材料やビタミン類、医薬品の合成経路の大幅な短縮に期待~



 東京農工大学大学院工学研究院応用化学部門の平野雅文教授と、同大学工学府の清田小織技術専門職員は、これまで合成が難しく、少なくとも7工程を要した「共役テトラエン」(注1)を、安価な原料から1工程で合成する世界初の反応に成功しました。これは、安価で容易に入手することのできるブタジエン(注2)とアセチレン誘導体(注3)を直接的にカップリング(結合)できる触媒の開発によるもの。反応の過程では廃棄物が発生せず、ワンポット(1つのフラスコ)で合成できる点が大きな特徴となっています。これにより、さまざまな電子機器の製造などに利用される電子材料物質やビタミン類などの天然物、抗生物質などの医薬品の合成に要する工程を大幅に短縮させることが期待されます。

本研究成果は、アメリカ化学会Organometallics誌(1月8日付)に掲載されました。
URL:http://pubs.acs.org/doi/pdf/10.1021/acs.organomet.7b00801




【現状】
 共役テトラエンなどの共役ポリエン構造(注4)は、導電性分子などの電子材料、ビタミン類などの天然物や抗生物質などに多く見られる構造です。
 この共役ポリエンの合成には、アセチレンを重合する方法などもありますが、この方法では特定の分子を合成することはできず、混合物となってしまいます。
 したがって、これまでに共役ポリエンの合成は、主としてWittig反応(注5)やHWE反応(注6)と呼ばれるリン化合物を用いた反応を繰り返し行うことによって行われていました(図1)。

 この反応は信頼性の高い反応ですが、1つの炭素--炭素二重結合を伸張するのに、還元と酸化を含む3段階の反応が必要となります。また、それぞれの段階からリン酸化合物、リチウム塩、アルミニウム化合物、酸化マンガンなどの廃棄物が発生していました。
 そのため、各段階で発生するこれら廃棄物を分離して溶媒を留去し、中間体を取り出す必要があり、それらの工程とエネルギーも必要としていました。
 これらの工程数を考えると、共役テトラエンを合成するためには従来、1週間程度を要していました。

【研究体制】
 この研究は、東京農工大学工学府の清田小織技術専門職員と、同大学大学院工学研究院応用化学部門の平野雅文教授らにより行われました。
 また、本研究はJST 戦略的創造研究推進事業 先導的物質変換領域研究ACT-C(JPMJCR12Z2)ならびに科学研究費補助金 基盤研究(B) 17H03051の助成により行われました。

【研究成果】
 この研究では、0価ルテニウム錯体触媒(注7)を用いた鎖状分子の合成法の開拓を行いました。鉄と性質のよく似た金属であるルテニウムは、鉄と同様に0価の酸化状態では非常に酸化されやすく、不飽和分子の存在下では不飽和分子をカップリングしながら酸化される性質を発見しました。さらに同じ不飽和分子であるブタジエン誘導体とアセチレン誘導体の分子を識別できる0価ルテニウム錯体触媒を開発したことにより、安価な化学物質であるブタジエンとアセチレン誘導体2分子との反応が選択的に進行し、ブタジエンの特定の位置の水素が移動することによって、触媒的に共役テトラエンが位置および立体選択的に生成する新しい触媒反応を実現しました(図2)。
 このように、共役ジエンとアルキンの直接的なカップリングにより、水素の分子間移動で炭素--炭素結合を形成し、共役テトラエンを合成する反応は世界で初めての方法となります。

 今回の研究結果の特徴は、▼廃棄物が発生しない原子利用効率100%の反応であること、また▼触媒とブタジエンとアセチレン誘導体を入れるだけで、ワンポット(1つの反応容器内)で反応させることができることが挙げられます。
 収率の向上のため、論文上では反応時間は1日としていますが、室温で反応時間30分以内に反応の大部分が進行していることから、本質的には非常に速い反応であると言えます。
 また、同位体ラベル実験(注8)により、ブタジエンの水素がアセチレン誘導体に位置および立体選択的に移動することによりこの反応が進行していること、ならびに触媒反応の中間体の観測によりその反応機構を明らかにしています。

 この研究の成果は、アメリカ化学会における有機金属化学専門誌であるOrganometallics誌に掲載されたほか、平成30年3月に開催される日本化学会第98春季年会において発表されます。
 
【今後の展開】
 今回の研究成果により、電子材料用機能性分子やビタミン類などの天然物、さらに抗生物質などの医薬品に重要な共役テトラエン構造の構築に要する工程数が、7工程から1工程になり、反応時間も1週間程度から30分~1日へと大幅に短縮させることができます。
 また、新しい合成経路であるため、上記以外にも、安価に多様な関連分子を合成する道が拓かれることが期待されます。この技術により有機半導体物質などの電子材料の簡単な合成や、一般に「細菌」に較べて治療が困難である「真菌」をターゲットとした抗生物質の合成分野での応用が期待されます。今後は共役テトラエン以外にも多様な共役ポリエン分子が合成できるような反応に展開し、共役ポリエンの簡便な合成法となるように研究を進める予定です。


(注1)二重結合と単結合を交互に繰り返す構造のうち、4つの二重結合を有する分子
(注2)C4H6の分子式で表される気体で、タイヤなどのゴムの製造に多く用いられている
(注3)一般式RC*CR(*は三本線の=で、三重結合の記号)で表される分子であり、アセチレン(HC*CH)(*は三重結合の記号)は高い燃焼温度を保つため金属の溶接などにも用いられている
(注4)二重結合と単結合を交互に繰り返す構造
(注5)リン化合物を用いて炭素--酸素二重結合を炭素--炭素二重結合に変換する反応。一般にリン化合物としてはトリフェニルホスフィンが用いられる。アルキルリチウムなどの強塩基存在下で反応が行われる
(注6)正式名称はHorner-Wadsworth-Emmons反応であり、ホスホン酸イリドと呼ばれるリン化合物とアルデヒドの反応により炭素--酸素二重結合を炭素--炭素二重結合に変換する反応。アルキルリチウムなどの強塩基存在下で反応が行われる
(注7)酸化状態が0価であるルテニウムという金属の分子触媒。原理的には反応により失われることがないため、1分子の触媒から何分子もの生成物を作り出せる。
(注8)同位体元素を目印に用いた実験。生成物に取り込まれた同位体の位置や数により反応機構を考えるために手立てとなる。

◆研究に関する問い合わせ先◆
 東京農工大学大学院工学研究院 応用化学部門 教授
 平野 雅文(ひらの まさふみ)
 TEL/FAX:042-388-7044  E-mail:hrc(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp

【リリース発信元】 大学プレスセンター http://www.u-presscenter.jp/

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