中部大学大学院応用生物学研究科の町田千代子名誉教授、小島晶子准教授、禹済泰教授、名古屋大学大学院理学研究科の町田泰則名誉教授らは、台湾国立成功大学、金沢大学、千葉大学、名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(ITbM)、奈良先端科学技術大学院大学、弘前大学、東京大学の研究者の協力を得て、シロイヌナズナの葉の初期発生に関わるタンパク質であるアシンメトリック・リーブズ2(ASYMMETRIC LEAVES2:AS2)が核小体ストレスを緩和するという新たな機能を明らかにした。
今回の研究成果は、9月30日付(英国時間)で英国の発生学の専門誌Development(vol.153,Issue18)に掲載され、Research Highlightにも選ばれた。詳しい内容は別添えの資料を参照していただきたい。
植物の葉は光合成をになう主要な器官である。植物は光合成によって空気中の二酸化炭素を吸収し、炭素を固定する。双子葉植物の扁平な葉の組織構造は高い光合成効率を支えており、地球規模の炭素循環に重要な役割を果たしている。植物は、常にさまざまなストレスにさらされながら発生・分化し、成長している。植物がストレスにさらされると核小体
(注1) に構造的、機能的不全を起こすことが知られており、このような現象を核小体ストレス
(注2) という。
今回、中部大学大学院応用生物学研究科の町田千代子名誉教授、
小島晶子准教授 、
禹済泰教授 、名古屋大学大学院理学研究科の町田泰則名誉教授らは、台湾国立成功大学、金沢大学、千葉大学、名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(ITbM)、奈良先端科学技術大学院大学、弘前大学、東京大学の研究者の協力を得て、シロイヌナズナの葉の初期発生に関わるタンパク質であるアシンメトリック・リーブズ2(ASYMMETRIC LEAVES2:AS2)が核小体ストレスを緩和するという新たな機能を明らかにした。
今回の研究成果は、9月30日付(英国時間)で英国の発生学の専門誌Development(vol.153,Issue18)に掲載され、Research Highlightにも選ばれた。詳しい内容は別添えの資料を参照していただきたい。
1.研究成果のポイント
DNAのねじれをほどく酵素であるトポイソメラーゼ1α(TOP1α)とAS2タンパク質は、葉の表側の細胞の分化と引き続く側方方向の細胞増殖を促進し、扁平な葉の形成に関わることを解明。
AS2タンパク質は、葉の発生過程において核小体ストレスから防御する機能を持つことを発見。
2.発表概要 植物は、常にさまざまなストレスにさらされながら発生・分化し、成長している。葉は、茎の先端の成長点にある幹細胞(茎頂メリステム
(注3) )から分化する地上部の主要な光合成器官である。モデル植物であるシロイヌナズナを用いた研究から、葉の発生・分化過程に関わる多くの遺伝子が同定されている。AS2は葉の発生初期に働く表側化因子の一つであり、植物界にのみ存在するAS2/LOBドメイン
(注4) をもつ。AS2/LOBドメインはDNA結合に関わるジンクフィンガーモチーフ(ZF motif)を含む約100アミノ酸からなる特徴的な構造を持つ。AS2は、特定のDNA配列に結合するMybドメイン
(注5) をもつ転写因子であるアシンメトリック・リーブズ1(AS1)と複合体を形成する。AS2-AS1複合体は、オーキシン応答因子(AUXIN RESPONSE FACTOR : ARF)ファミリー
(注6) に属し、葉の裏側化に関わる
ARF3(エチンETTIN) 遺伝子の上流域に結合して直接転写を抑制する。
AS2 遺伝子はシロイヌナズナの葉原基の表側の細胞で発現する(図1中央)。AS2タンパク質は核質全体で弱く、核小体のまわりにかたまり状に2個のAS2ボディとして局在する(図1左)。AS2ボディは、核小体周縁部のクロモセンター
(注7) (45S rDNAリピートを含む)と部分的に共局在する。また、核小体タンパク質ヌクレオリン1(NUCLEOLIN1 : NUC1)、RNAヘリカーゼ10(RNA HELICASE10 : RH10)、ルート イニシエーション ディフェクティブ2(ROOT INITIATION DEFECTIVE2 : RID2)やDNA合成に関わる因子をはじめとする60以上の因子の遺伝子の変異体と
as2 変異体の二重変異体では表側細胞が分化せず、裏側的性質を持つ細胞からなる棒状の葉を形成することが、国内外の多くの研究グループが報告していた。しかしながら、これら60以上の遺伝子の変異体と
as2 変異体の二重変異体の葉がなぜ棒状化するのかは不明であった。
本研究では、葉の発生・分化を阻害して、
as2 変異体背景で棒状化した葉を形成する低分子化合物をスクリーニングした。スクリーニングには、主に天然から単離された化合物を中心としたケミカルライブラリーを用いた。その結果、8種の低分子化合物が同定された。興味深いことに、8種についてその分子標的は異なっているものの、動物細胞において、抗腫瘍活性を持つ分子として報告されているものであった。
その中に、IB型トポイソメラーゼの特異的インヒビターであるカンプトテシンが含まれていた。ケミカルと遺伝学的解析を使った研究により、第一に、AS2がTOP1αと共同して
ETT/ARF3 を抑制すること、
ETT/ARF3 を介して、サイクリン依存性キナーゼ阻害因子(CDKインヒビター)をコードする遺伝子の一つである
KRP5/ICK3 遺伝子の発現を抑制することが明らかになった(図1右)。第二に、葉の正常な初期成長にはAS2ボディが核小体の周縁部に2個のかたまりとして存在することが重要であり、そのためには核小体の正常な構造が保たれている必要があることが示唆された(図1左)。第三に、TOP1αは、核小体ストレス応答に関わる
ANAC082 の発現を抑制していた。
ANAC082 の変異(
sriw1 )が
as2 top1α 二重変異体の棒状葉の表現型を抑圧し、扁平な葉を形成した(図1右)。すなわち、
top1α 変異によって核小体ストレスが誘導されたとしても野生型のAS2が機能すれば、扁平な葉を形成できることが示された。AS2は葉の初期発生過程において核小体ストレスを緩和する機能を持つと考えられる。
気候変動によって増大する環境変化は植物にさまざまなストレスを与えると予測される。本研究は環境変化に強い植物の分子的理解に貢献できると期待される。
図1 シロイヌナズナの扁平な葉の発生・分化過程におけるAS2とTOP1αの役割
(左)核小体ストレスを誘導した際の、野生型および
as2 変異体における葉の表現型とAS2ボディの局在。(中央)シロイヌナズナの茎頂部の模式図。
(右)シロイヌナズナの葉の発生・分化過程におけるAS2-AS1、TOP1α、および核小体タンパク質によるAS2ボディを介した
ETT/ARF3 と
KRP5/ICK3 の抑制制御の経路と
SRIW1/ANAC082 を介した核小体ストレス応答経路。
3.論文の情報 雑誌名: Development
論文タイトル: Arabidopsis epigenetic factor AS2 mitigates nucleolar stress and promotes flat leaf development by repressing a CDK inhibitor
著者: Ayami Nakagawa, Hidekazu Iwakawa, Hiro Takahashi, Simon Vial-Pradel, Mari Takahashi, Kazuomi Ohga, Takuma Ito, Motoki Tamai, Eri Takada, Sumie Keta, Nanako Ishibashi, Sayuri Ando, Iwai Ohbayashi, Masaki Ito, Mami Yamazaki, Ayato Sato, Masaaki Umeda, Byung-Yoon Cha, Je-Tae Woo, Michiko Sasabe, Munetaka Sugiyama, Shoko Kojima, Yasunori Machida and Chiyoko Machida
URL:
https://doi.org/10.1242/dev.205275
「Development」誌に掲載されるすべての論文について、Woodland Trustとの提携により、英国ダービーシャーにある「Young People’s Forest」に新しい木が植樹される。
新たな生物多様性保全の取り組みである「The Forest of Biologist」については
URL: https://forest.biologists.com/about/ を参照。
4.用語解説 注1:核小体 光学顕微鏡で明瞭に観察できる核内構造体である。rDNAが転写、プロセシングされ、リボソームタンパク質とともにリボソームの大サブユニットと小サブユニットが構築される場。
注2:核小体ストレス リボソームの生成の各々の段階における不全は、核小体の機能と形態に変化を引き起こし、このような現象を核小体ストレスと言う。
注3:茎頂メリステム 茎頂分裂組織ともいう。地上部のすべての器官を形成する能力を持った幹細胞。葉は茎頂メリステムの周縁部領域の細胞から分化する。
注4:AS2/LOBドメイン AS2/LOBドメインはジンクフィンガーモチーフ(ZF motif)、保存されたグリシンを含む配列(ICG sequence)、ロイシンジッパー様モチーフ(LZL motif)の約100アミノ酸からなる、植物界にのみ見られるドメインである。ZF motifはDNA結合に必要である。LOBはLATERAL ORGAN BOUNDARIES DOMAIN protein の略称であり、AS2と類似のドメインをもつタンパク質である。AS2/LOBドメインを持つタンパク質ファミリーをAS2/LOBファミリーと呼ぶ。シロイヌナズナにはAS2を含む42個のタンパク質がある(AS2とASL1-41)。AS2/LOBファミリーは、葉や花の器官形成、環境応答、植物ホルモンなどの植物固有のプロセスの制御に関わる。これまで知られている転写因子とは異なり、単なる転写の制御だけではなく、例えばAS2の場合にはエピジェネティックな制御にも関わることが明らかになっている。
注5:Mybドメイン Mybの名称は、トリ骨髄芽球症ウイルス(Avian myeloblastosis virus)の癌遺伝子
v-myb として発見された遺伝子名に由来する。v-myb遺伝子がコードするタンパク質は特定のDNA塩基配列に結合するアミノ酸配列をもち、Mybドメインと呼ばれる。Myb DNA結合ドメインを持つタンパク質は転写因子として機能することが知られている。
注6:オーキシン応答因子(AUXIN RESPONSE FACTOR : ARF)ファミリー オーキシン応答因子(AUXIN RESPONSE FACTOR : ARF)は、オーキシン初期応答遺伝子のプロモーター領域にあるTGTCTCオーキシン応答配列に結合する転写因子でありARFファミリーと呼ぶ。エチン(ettin)変異はシロイヌナズナの雄しべの数や雌しべにおける軸方向のパターン形成異常を引き起こす変異として単離され、変異の原因遺伝子はARF3をコードする遺伝子である。ARF4は、葉と花器官形成においてETT/ARF3と重複した機能を持つARFファミリーのメンバーの一つである。また、ETT/ARF3とARF4遺伝子のmRNAはtasiR-ARFと呼ばれる低分子RNAの標的となっており分解制御されている。
注7:クロモセンター 染色中心とも言う。セントロメア近傍にある巨大なヘテロクロマチン領域は密に凝集しており、DNA染色試薬で強く染まる。
5.お問い合わせ先 【研究内容について】
町田千代子 中部大学大学院応用生物学研究科 名誉教授、研究推進アドバイザー
電子メール:chiyoko.machida[at]fsc.chubu.ac.jp ※アドレスの[at]は@に変更してください。
【ケミカルライブラリーについて】
禹済泰 中部大学大学院応用生物学研究科 教授
電子メール:jwoo[at]fsc.chubu.ac.jp ※アドレスの[at]は@に変更してください。
▼本件に関するお問い合わせ先
中部大学 入試・広報センター(広報課)
TEL:0568-51-5541
メール:chubu-info@fsc.chubu.ac.jp
【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/