4.今後の展開
今後は、マイクロ流路の構造や刺激・計測方法を高度化することで、より少数の神経線維、さらには個々の神経細胞における痛みへの感受性の違いを精密に評価することをめざします。これにより、平均的な応答では捉えにくい神経線維ごとの違いを明らかにし、痛みのばらつきが生じる神経の仕組みの理解につなげます。さらに、ヒトiPS細胞由来の感覚神経などと組み合わせ、痛みへの感受性や薬剤応答を細胞レベルで定量化することで、主観的で個人差の大きい痛みを客観的に理解するための基盤技術へ発展させます。将来的には、一人ひとりの痛みに関わる末梢神経応答をモデル化し、治療効果の予測や個人に適した治療法の選択を支援することで、バイオデジタルツインを活用した個別化医療への貢献をめざします。
5.関連する過去の報道発表
・2019年10月18日「ナノ薄膜の立体構造を鋳型とした人工神経ネットワークの形成に成功 ~再生医療技術を支援する新しい生体インターフェースの実現に期待~」
https://group.ntt/jp/newsrelease/2019/10/18/191018a.html
・2023年3月29日「生体器官の運動模倣が可能な光駆動型オンチップ運動素子の作製に成功 ~オンチップ型の臓器モデルとしてバイオデジタルツインの構築・検証に期待~」
https://group.ntt/jp/newsrelease/2023/03/29/230329b.html
・2023年5月24日「多点立体電極基板を用いて細胞塊モジュール型神経ネットワークからの長期的な活動計測に成功 ~ 脳の特徴的な構造と機能を再現する生体機能チップ技術の実現へ ~」
https://group.ntt/jp/newsrelease/2023/05/24/230524a.html
本研究への支援
本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業 学術変革領域研究(A)「バイオ超越」(研究課題番号:JP25H02631)の支援を受けて実施しました。
論文情報
雑誌名:Small
題 名:In Vitro Reconstruction of Axonal Heat Sensing with a Photothermal Nerve-on-a-Chip
著者名:Koji Sakai, Yujiro Tanaka, Riku Takahashi, Toichiro Goto, Yosuke Mizuno, Taiki Otomo,
Aya Tanaka
DOI:10.1002/smll.73577
URL:
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/smll.73577
【用語解説】
※1 マイクロ流路
マイクロメートル(1mmの1000分の1)程度の微細な幅や高さを持つ流路です。本研究では、神経細胞から伸びる細い神経線維の伸びる経路を定めるために用いています。
※2 ヒトiPS細胞
ヒトの体細胞から作製され、さまざまな種類の細胞へ分化する能力を持つ細胞です。本研究では、ヒトiPS細胞から作製された感覚神経細胞を用いています。
※3 オンチップ生体モデル
細胞と人工構造物を組み合わせ、生体組織の構造や機能の一部をチップ上に再現する実験モデルです。生体機能の解明や病理モデリング、薬剤評価などへの活用が期待されています。
※4 末梢神経・神経線維
末梢神経は、脳や脊髄と身体の各部をつなぐ神経です。感覚神経では、神経細胞から長く伸びた神経線維が皮膚などで刺激を受け取り、その情報を電気的な神経信号として脊髄や脳へと伝えます。
※5 バイオデジタルツイン
個人の身体や心理の状態をデジタル空間上に再現し、将来の状態や治療などの介入による変化を予測することで、一人ひとりに適した予防・治療・ケアの実現をめざす技術概念です。NTTでは、その実現に向け、身体情報の計測や生体情報の処理・予測に加え、細胞・組織・臓器の機能を理解し、モデル化する研究を進めています。オンチップ生体モデルを用いて生体機能をチップ上に再現し、その応答を精細に捉える研究も、その取り組みの一つです。
※6 NTT R&D FORUM 2026
https://www.rd.ntt/forum/2026/
※7 温度受容体
温度変化に応答する分子で、神経細胞の膜などに存在します。痛みを感じるような高温に応答する代表的な温度受容体としてTRPV1が知られています。