日本産ナカジロシタバ属の種の識別・分布・幼虫の食性
研究のポイント
- サツマイモの著名害虫「ナカジロシタバ」が2種から成ることを発見し、日本産ナカジロシタバ属をナカジロシタバAedia leucomelas、リュウキュウナカジロシタバAedia limitaris、クマモトナカジロシタバAedia kumamotonisの3種に整理しました。
- 各種ともに成虫・幼虫は外見から見分けることができ、種の判別に有用な遺伝子配列の違いによっても識別できることが分かりました。
- ナカジロシタバとリュウキュウナカジロシタバは、いずれも幼虫がサツマイモの葉を食べて成長・羽化できることを明らかにしました。
- ナカジロシタバとリュウキュウナカジロシタバの分布は一部の地域で重なっており、サツマイモの害虫として混発している可能性があります。
概要
東京農業大学大学院 農学研究科 生物資源開発学専攻の綿引大祐准教授と荒井周氏(大学院研究生)は、サツマイモの重要害虫として知られる「ナカジロシタバ」について、日本産の近縁種を含めた分類学的な再検討を行いました。 その結果、これまで1種として扱われてきた「ナカジロシタバ」が、ナカジロシタバAedia leucomelasとリュウキュウナカジロシタバAedia limitarisの2種から成ることを解明しました。これにより、日本産ナカジロシタバ属はナカジロシタバ、リュウキュウナカジロシタバ、クマモトナカジロシタバAedia kumamotonisの3種から構成されることが明らかとなりました。
これら3種は、形態的にも遺伝的にも識別できることが分かり、さらにナカジロシタバとリュウキュウナカジロシタバはともに幼虫がサツマイモの葉を食べて成長・羽化できることを確認しました。従来ナカジロシタバは1種として扱われてきたため、これまでに報告されてきた分布・発生時期・食性・サツマイモへの被害記録などの情報は、再検討する必要があります。
本研究成果は、日本応用動物昆虫学会が発行する「Applied Entomology and Zoology」に2026年2月7日付で掲載されました。
背景
「ナカジロシタバ」(チョウ目:ヤガ科)は、サツマイモの代表的な害虫種として古くから知られており、1930年代には東北から沖縄地方にかけて被害をもたらした記録があります。特に終齢幼虫は短期間に大量の葉を食害するため、多発すると根塊の肥大が抑制され、サツマイモの減収につながることがあります。そのため、本種は日本の植物防疫法に基づく指定有害動植物に指定されています。
一方で、「ナカジロシタバ」については、1960年代に成虫の外見の違いから複数の種が含まれている可能性が指摘され、「リュウキュウナカジロシタバ」という暫定的な和名も与えられていました。しかし、正式な学名が提唱されるには至らず、この和名も次第に使われなくなりました。1980年代には、形態的な特徴についてより細かな検討が行われましたが、別の種と判断できるほど明確な違いは見つからず、それ以降も「ナカジロシタバ」はAedia leucomelas1種として扱われてきました。
研究内容
本研究では、日本各地から収集された多数の標本に基づいて、成虫と幼虫の外部形態を詳細に比較するとともに、種の判別に有用な遺伝子の解析を行うことで、本種にまつわる分類学的問題の解決に取り組みました。
その結果、従来「ナカジロシタバ」として扱われてきた種には、ナカジロシタバAedia leucomelasとリュウキュウナカジロシタバAedia limitarisの2種が含まれていることが明らかとなりました。後者は、これまでオーストラリア周辺に分布するAedia acronyctoidesの新参異名※1として扱われていましたが、本研究では形態および遺伝子解析の結果に基づき、limitarisという学名を復活させて独立種として扱うことを提唱しました。リュウキュウナカジロシタバという和名は、前述のとおり、過去に本種に対して暫定的に与えられていた和名を踏襲したものです。
これにより、日本産ナカジロシタバ属はナカジロシタバ、リュウキュウナカジロシタバ、クマモトナカジロシタバの合計3種となりました。そこで、本研究ではこれら3種の識別点についても整理し、成虫のみならず終齢幼虫でも外部形態から識別できることを明らかにしました。なお、種の判別に有用とされるミトコンドリアCOI遺伝子の一部配列の違いによっても識別可能であることを確かめました。
さらに、リュウキュウナカジロシタバの雌から卵を得て、孵化させた26頭の幼虫をサツマイモの葉で飼育したところ、そのすべてが蛹化し、17頭が羽化して無事に成虫となりました。 この結果から、ナカジロシタバだけでなくリュウキュウナカジロシタバもサツマイモの葉を食べて成長・羽化できることが明らかとなりました(クマモトナカジロシタバについては、幼虫がサツマイモの葉では成長できないことが先行研究で示唆されています(綿引,2025;蛾類通信 No. 313: 365–366))。
ナカジロシタバとリュウキュウナカジロシタバの日本国内分布について標本に基づき検討したところ、前者は本州から沖縄地方にかけて分布するのに対し、後者は主に九州から沖縄地方にかけて見られることが分かりました。また、少なくとも2023年以降は本州の関東地方でもリュウキュウナカジロシタバが多数得られており、一部の地域では両種の成虫が同時に発生していることも確認されました。 特に東京農業大学厚木キャンパスでは、2025年5月から10月にかけて両種ともに多数の成虫が採集されました。
以上のことから、これまでに報告されてきた「ナカジロシタバ」の分布や発生時期、食性やサツマイモへの被害記録などの情報は、再検討する必要があります。
期待される効果・今後の展開
本研究によって、長年にわたり分類が明確になっていなかった「ナカジロシタバ」が、実際には2種から成ることが明らかとなりました。さらに、両種ともにサツマイモの葉を食べて成長することができ、分布も重なっていることが分かりました。「ナカジロシタバ」は植物防疫法の指定有害動植物に指定されているため、今後はナカジロシタバとリュウキュウナカジロシタバをしっかり区別したうえで、それぞれの分布や発生時期、食性やサツマイモへの被害実態などを調査する必要があります。本研究で明らかにした成虫と終齢幼虫の識別点や、種の判別に有用な遺伝子に関する情報は、これらの調査における正確な種同定の基盤として活用されることが期待されます。このように、本研究は昆虫分類学上の成果にとどまらず、サツマイモ栽培に関わる植物保護分野にも貢献する成果といえます。
一方、本研究では、卵・若中齢幼虫・蛹の形態については十分な精査を行うことができませんでした。そのため今後は、それらの形態学的研究を行い、日本産ナカジロシタバ属3種の正確な種同定に必要な情報をさらに充実させることが望まれます。
論文情報
論文名―Sweet potato leaf worm in Japan shown to comprise two distinct species:Aedia leucomelasandA.limitarissp. rev. (Lepidoptera: Noctuidae)
<和文タイトル>サツマイモの害虫ナカジロシタバは2種から成る:日本産Aedia属(チョウ目:ヤガ科)の成虫と終齢幼虫形態およびDNAバーコード情報に基づく種の識別
著者名―綿引大祐・荒井 周
雑誌名―Applied Entomology and Zoology 61(2): 233–246.
DOI―
https://doi.org/10.1007/s13355-026-00963-x
公表日―2026年2月7日
用語解説・補足説明
※1 新参異名:同じ種に別々の学名が付けられていた場合、これらの学名を同物異名といいます。同物異名のうち、後から提唱された学名を新参異名といい、原則として先に提唱された学名が優先して使用されます。